なんでも創る・みんなが楽しい-本気バトル!重度障害児でも100%自力で遊べるEyeMoTのオンラインゲーム
「新ノーマライゼーション」2025年9月号
岩手県立大学
伊藤史人(いとうふみひと)
EyeMoTとは?
EyeMoT(アイモット)は、筆者らが2015年から重度障害児・者のために開発している視線入力訓練アプリです。2025年8月現在、約60万ダウンロードを記録し、ほぼすべての特別支援学校等で導入されています。
視線で画面を操作することが難しい子どもでも、「絶対に失敗しない」設計によって、ゲーム感覚で楽しく練習できます。約30種類のゲームやツールで構成され、初歩的な視線入力訓練から高度なひらがな学習、さらにはオンライン対戦ゲームなどで構成されています。
ゲーム形式により「注視」「追視」などのスキルを自然に身につけることができ、アセスメント(評価)から学習利用まで多目的に使われています。とくに、視線入力の失敗体験がトラウマになることを防ぎ、「楽しい」「できた」という成功体験を提供する点が特徴です。
最初は「風船割り」や「センサリー」から
EyeMoTの「風船割り」や「センサリー」は、視線入力の導入段階で重要な“成功体験”を得るために設計されたアプリです。特に操作の因果関係をつかみにくい重度障害児でも、「見れば反応がある」「できた!」という体験が自然に得られるようになっています。
「風船割り」は、画面上にふわふわと浮かぶ風船を視線で見つめると、ポンッと音を立てて割れるゲームです。割れるときの視覚的・聴覚的な反応がはっきりしており、“見ただけで変化が起こる”という直感的な気づきが得られます。視線入力に対して苦手意識がある子どもにも、安心して取り組める設計です。
「センサリー」は、お絵描き感覚で自由に視線を動かすと、画面が音や光、動きで反応する感覚的な遊びの空間です。視線の軌跡がカラフルな線や模様になるお絵描きモードでは、自分の目の動きが“作品”となって現れることで、表現する楽しさを実感できます。
これらのモードは、操作の正誤を問わずに反応があるため、「絶対に失敗しない」環境で、視線入力の世界にやさしく迎え入れてくれます。視線の動きが芸術になり、日々の表現となる。それがEyeMoTセンサリーです。
障害が重くても本気で対戦できる!
「対戦ぬりえ」は、EyeMoTシリーズの中でも“本気で勝ち負けを競える”数少ない対戦型の視線入力ゲームです。視線やスイッチで操作可能で、操作能力や身体の自由度にかかわらず、誰もが参加できることを前提としながら、ゲームとしての戦略性・反応性・心理戦がしっかり設計された「インクルーシブeスポーツ」ともいえるコンテンツです。
プレイヤーは、画面に表示されたイラストに対して、自分の色を塗っていきます。相手よりも多く、早く塗ることが求められますが、ただ塗ればいいというものではありません。どのエリアを優先して塗るか、相手の塗ったところを奪うかどうか、色の使い分けなど、瞬時の判断と操作の工夫が勝敗を分けます。
特に重度障害のある子どもたちにとって、視線やスイッチというわずかな操作であっても、「勝てる」「自分の力で戦える」という実感が持てることは非常に重要です。親や支援者との対戦で本気になったり、全国の仲間とオンライン対戦したりすることで、ただのリハビリでは得られない熱中・興奮・喜びを経験できます。
このゲームは、「できない子どもが遊ぶやさしいツール」ではありません。「どんな子どもでも本気になれる真剣勝負の場」なのです。障害のある子どもたちの中にある“勝ちたい”“伝えたい”“やってみたい”という情熱を解き放つ舞台なのです。
保護者たちがゲームを通じて感じたこと
EyeMoTのゲーム大会に出場した障害児の家族からは、数多くのコメントが寄せられています。ある家族は「初めてわが子が“勝ちたい”と口にした。障害があっても本気で挑める場があることに驚いた」と語り、これまで“見守られる側”だった子どもが、自らの意思で競技に挑む姿に感動したといいます。
また、「勝ったときの笑顔が忘れられない。負けたときの悔し涙も、我が子が“挑戦した証”として誇りに思う」という声もありました。特に視線や1スイッチといったわずかな操作でも、しっかりと結果に結びつくよう工夫されたゲームデザインにより、「操作できない子」ではなく、「戦うプレイヤー」として見てもらえる経験が、子どもにも家族にも大きな意味をもたらしています。
さらに、「全国の子どもたちとオンラインでつながり、声援を受けて戦う姿に涙が出た」「これまで無表情だった子が、勝負になると笑顔や悔しさを見せてくれた」というように、ゲームが感情の橋渡しになったことへの感謝も語られました。障害があっても“本気になれる場”“自己表現の舞台”として、多くの家族に希望を与えたようです。
視線もスイッチも使えない場合は?
目の検出が難しく、スイッチ操作もできない子どもでも、心拍センサーを使えばEyeMoT「徒競走」に参加することができます。この方法では、胸や手首に装着した心拍センサーからリアルタイムで心拍数を取得し、それを“走る力”に変換します。たとえば、心拍が一定のペースで上がれば画面上のキャラクターが走り出し、ゴールを目指して競争が進みます。
心拍数は、音楽を聴いたり、応援されたり、楽しみにワクワクするだけでも上昇するため、本人が能動的に参加している感覚を得やすいのが特徴です。たとえ身体が動かなくても、「応援されてドキドキする」「頑張って走りたい」という気持ちそのものが、エネルギーとして競技に反映されるのです。目に見えない“いのちの反応”が、世界とつながる力になる。この心拍徒競走は、誰もが「参加者」として本気で挑める、新しい形のインクルーシブ運動です。
EyeMoTは「子どもを信じる」ためのツール
EyeMoTは、視線やスイッチで操作できるゲームを通じて、重度障害のある子どもが「わかっている」「できる」ことを見える化するツールです。例えば、視線で風船を割る、色を塗る、相手に勝つ――これらの行動は、周囲に「この子はちゃんとわかっている」「意思がある」と気づかせる強力なメッセージとなります。
多くの障害の重い子どもたちは、言葉や動きで意思を伝えにくいため、「わかっていない」と誤解されがちです。しかし、EyeMoTによって視線や心拍の反応が明確に現れると、教師や支援者、家族のまなざしが変わります。「この子に教えたい」「もっと関わりたい」と思えるようになるのです。
子ども自身の変化だけでなく、それを受け取る“まわりの世界”が変わることが、本人の成長につながっていきます。EyeMoTは、そんな変化のきっかけをつくる“出会いの装置”なのです。
【参考資料】
EyeMoT 3Dシリーズ https://www.poran.net/ito/eyemot/eyemot-3d