なんでも創る・みんなが楽しい-「特別」じゃない、みんなで楽しむ演劇鑑賞会―バリアフリー演劇がつなぐ共生のかたち―

「新ノーマライゼーション」2025年11月号

自立生活センターSTEPえどがわ
中曽根鈴音(なかそねすずね)

「演劇鑑賞」と聞いて、皆さんどんなイメージを持ちますか?

 舞台を「観て」楽しむもの

 セリフを「聞いて」物語を理解するもの

 「静かに」自分の席に座って鑑賞をするもの

多くの人は、演劇とはそういうものだと思っているかもしれません。けれど、聴覚障害がある私や目が見えない人、見えにくい人、じっと座っていることが苦手な人、大きな声を出したり、体を動かすことで気持ちを表現する人、介助やケアのために途中で出入りが必要な人にとっては、「演劇鑑賞」という体験は、とても遠いものに感じられることがあります。

私はこれまで、いくつかのサポート付き演劇を観に行ったことがありました。そこでは、台本の貸し出しや字幕を表示するタブレットの用意といった工夫がありました。けれど実際には、字幕や台本を読みながら舞台を観るのは首が疲れますし、今どこを話しているのか追いかけるのに必死で、物語そのものに集中するのが難しかったのです。

また、舞台手話通訳者が舞台の端に立ち、物語を手話で伝えてくれるという取り組みにも触れたことがあります。とても良い工夫ではありましたが、役者の動きと通訳者の手話を交互に目で追ううちに、やはり目や首が疲れてしまうというのが正直なところでした。

そんな中、その隔たりをなくして新しい扉を開いてくれたのが「東京演劇集団風」のバリアフリー演劇です。

東京演劇集団風のバリアフリー演劇には、障害の有無や種別などにかかわらず、誰もが居心地よく観劇できるように、また最大限自分のより良い方法で観劇をしてもらえるように、当事者が監修に入ってみんなでバリアフリー演劇をつくりあげています。

その特徴の一つは、「舞台説明」です。開演前に衣装や道具の色・形・位置、ステージのつくりや広さなどを伝えてくれるので、視覚障害のある人も舞台をイメージしながら観劇に入れます。開演前の「バックステージツアー」では、実際に舞台に上がって衣装や道具に触れることもできます。さらに「音声ガイド」が会場全体に流れ、人物の動きや場面の変化を生で実況してくれます。

「字幕」は舞台の背景に溶け込むように表示され、登場人物のセリフや音楽を場面に合わせて表出します。そして「舞台手話」では舞台手話通訳者が俳優と一緒に舞台上を動き回り、すべての登場人物のセリフや音楽を手話で表現します。

つまり、これは「補助」や「あとから足す支援」ではありません。最初からすべての人が観劇できるように設計されて演出の一部として組み込まれているのです。

開演前には、役者が舞台上や客席に現れ、観客と交流する時間もあります。目と目をあわせてコミュニケーションをとりながら、観客と役者の距離を狭めていく、そのことで観客はリラックスした状態で会場に入ることができます。

私自身、重度の聴覚障害があるため、目の前の人が何を話しているのかわかりませんし、「美しいピアノの音」といわれても聞こえないためにその場を共に楽しむことができませんでした。そうした経験から「文化芸術」というものに対してどこか苦手意識を抱いていたのです。

しかし、3年前に初めて東京演劇集団風のバリアフリー演劇に出会ったとき、私は驚きました。「演劇ってこんなにも自由で、誰かと一緒に楽しめるものなんだ」そう強く感じました。

東京演劇集団風のバリアフリー演劇がどんな人でも居心地よく舞台に向き合えるように、誰もが同じ空間を分かち合えるように、形を追い求めているその姿は、まさに私たちが目指している共生社会を体現している空間だと感じています。

この素晴らしい体験を活動拠点である江戸川区でも広げたい、そして共生社会を目指す一歩になればと、所属団体である自立生活センターSTEPえどがわ(以下、STEPえどがわ)が主催して3年前に初めてバリアフリー演劇鑑賞会in江戸川区を開催しました。

1回目は、利用者さんやスタッフ、地域の障害当事者団体の方たちを中心に集まりました。STEPえどがわの利用者さんにはそれぞれにいろんなニーズがあります。みんなに楽しんでもらえるように準備は大変でしたが、参加してくれた方からはさまざまな声が届きました。

例えば、常時吸引が必要で「演劇やコンサートには行きづらい」という方からは、「ここでは安心して参加することができました」という声。また、難聴の方で手話がわからないけど「ずっと字幕が出ていたので内容を理解することができて本当にうれしかった」という声。

さらに知的障害のある方からは、演劇が始まる前に役者と触れ合えたことで、これからどんな舞台でどんな人が出てくるのかを事前に把握でき、「そのおかげでパニックにならずに安心して鑑賞できた」という声もありました。

そのことから2回目以降も「またやってほしい」「来年度はいつあるの」という声に背中を押されながら開催を続けてきて、今年度で4回目になります。回を重ねるごとに、地域の一般の方や子ども連れのご家族など、障害のあるなしにかかわらず幅広い方たちが参加してくださるようになりました。

舞台上で役者と一緒に動き回りながら演劇を楽しんでいる子どももいれば、手話役者が気になって真似をしながら動き回っている子どももいました。客席で、身体をゆらゆら揺らしながら、時には音楽に合わせてリズミカルに動かしながら楽しく鑑賞している方もいらっしゃいました。参加者の障害種別の幅も広がってきて、ますます「みんなで楽しめる演劇」を実現する意義を感じています。これからも、私たちはこの取り組みを江戸川区、すなわち地域からさらに広げていきたいと考えています。

バリアフリー演劇という、誰もが触れられる文化芸術は「演劇」という枠を超えて私たちにいろんなことを気づかせてくれます。この取り組みを地域に根付かせ、共生社会の実現に向けた大切な一歩となるように、これからも皆さんと一緒に育てていきたいと思います。バリアフリー演劇をきっかけに地域とつながって、誰もが安心できる社会を一緒に形にしていきたいです。

また、これからの未来を担うことになるであろう子どもたちにも、障害の有無や種別によらず、みんなで肩を並べて一緒になって演劇を鑑賞してほしいと願いながら、その思いを大切に私はこれからも取り組みを広げていきます。