海外情報-スウェーデンにおけるインクルーシブ教育の現在
「新ノーマライゼーション」2025年12月号
全国障害者問題研究会 副委員長
薗部英夫(そのべひでお)
スウェーデンは、特別な教育(知的障害がある場合)も通常の教育(基礎学校:日本の小・中学校)も充実している(図参照)。知的障害がある場合は、自治体が審査(医師・心理学者・社会福祉士・特別支援教員の4者による判定)して、入学資格(特別に学べる権利)が子どもたちに与えられる(得られる)。なので、当事者の判断で基礎特別支援学校には入学しなくてもよい。2019年から2020年には、入学資格を得ながらも通常の基礎学校で学んだ対象児は1530人を数えたそうだ。こうした背景には、知的障害がある子どもに、障害のない子どもと同等の教育の機会を与えるためには、能力に合わせての学びの場を明確に分け、一人ひとりが持つ能力と可能性を最大限に伸ばそうとすることが「平等」「公平」であるとする現在のスウェーデンの考え方がある。
図 インクルーシブ教育の土台 (サリネンれい子作成)
(拡大図・テキスト)
私は1993年から19回にわたり北欧を訪問している。障害があっても同年齢の市民と同等の権利が保障されるという「ノーマライゼーション」。障害のある人を含め多様な人びとを排除しないとする「インクルージョン」の考え方のもとで、一人ひとりの子どもたちの学ぶ権利を保障しようとする教育の現場で学び、考えたことを報告したい。
1.通常学校(基礎学校)と基礎特別支援学校はほとんどが同一キャンパスにある
訪問した基礎特別支援学校は、ほとんどが基礎学校(日本の小・中学校)と同じ敷地内にあった。ストックホルム市に隣接するセーデルテリエ市(人口約10万人)にあるローゼンボリィ学校は、基礎特別支援学校と音楽やスポーツを中心に学ぶ子らの基礎学校が同じ敷地だ。770人の子どもらと教職員115人が学ぶ。基礎特別支援学校のクラスは極めて小規模だ(写真)。昨年までは基礎特別支援学校の責任者だった現在の学校長がすべてを統括し、副校長が基礎特別支援学校に責任を持つ。体育館や音楽室、食堂なども「一緒」に利用する。地域のなかで、ぶ厚い支援のある学びの現場を見た思いがした。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。
重い知的障害と身体障害のある子どもたちの「私立」基礎特別支援学校もある。22人が4クラス(1クラスに教師1人と数人のアシスタント)で学ぶ。リハビリなどの施設として開設されたが、民営化で学校となり、2018年からは会社経営の「私学」として「コミュニケーション」活動に積極的に取り組んでいる。「自治体から学校と学童運営予算が支払われる。送迎のリフト付タクシー費用も自治体経費だ」「安心できる環境、安心できる人間関係のなかで、子どもらは新しい世界に自らチャレンジしていく」と校長が言った。
2.「特別学校」という国立の学校で学ぶ子どもたちは
国と広域行政体が管轄する「特別学校」は、国内にろう学校5校、盲ろう学校1校、盲重複学校1校、言語障害児学校3校がある。スウェーデンでは、盲学校はなくなっていて、視覚障害児が基礎学校に入学する場合、地域の特別教育庁事務所から専門家が派遣され、支援援助しているそうだ。私は、ストックホルムにある言語障害児学校(生徒294人、教職員140人)を2024年に、オレブロ市にある盲ろう児学校を2025年に視察した。
オースバッカ学校は、聴覚障害と重い知的障害のある子や盲ろうの子を対象にした国立の特別学校だ。12人の生徒(うち、盲ろう児は1人)に3人の特別教育教員と16人のアシスタント体制で取り組んでいる。日本政府が国連・障害者権利委員会より勧告(総括所見)された、1.盲ろう者の教育環境整備、2.合理的配慮と個別支援保障、3.専門人材の育成が実現されていた。
3.通常学校(基礎学校)で困難を抱える子らは
知的障害のない子らの学ぶ通常の学校が大規模化する中で、不適応や不登校の子らもいると聞いて、コロナあけの2023年、2024年と知的障害のないアスペルガーの子らの学ぶ「リソース学校」を視察した。少人数グループ(7人程度)での授業が行われていた。通常の学校での「合理的配慮」の徹底。次に「特別な支援」、その上での学校長判断による「小規模のクラス」運営。そして、リソース学校の選択がある。
8年生で16歳のマチルダさんが私たちに話してくれた。「この学校に来てみんながそれぞれ違うことがわかった。私だけが違うということはない。自分の家のような安心感がある。教師のなかにも同じ診断名(アスペルガー)の人もいる。ここのいいところは、授業が楽しい!先生たちとも楽しく過ごせる」。
「緊急学校」は、2012年からストックホルム市内の2つの学校で取り組まれている。対象は、なにかしらの問題を抱えた子、問題の背景がある子、規律、規範、暴力行為、やる気に問題がある子など6年生から9年生。短期的な措置で、期間は4週間(20日間)。生徒は6人に4人の教師と1人のカウンセラー体制だ。マンツーマンの授業が基本で「なによりも子どもには授業を受ける権利がある」「学校で学習ができるように元の学校に戻すのが目標」と聞いた。4週間、信頼できる大人と出会う大切な役割がある。
子どもの発達は、毎日落ち着いて、安心して暮らせること。そのなかで、信頼できる大人(仲間)を見いだしていく。濃密な人間関係をつくりながら、さまざまな活動に積極的に自ら取り組んでいく。それが基本なのだと再確信させてもらった。
4.障害者権利条約の実現めざして
すべての子どもたちには学ぶ権利があり、国や自治体はそれを保障する。スウェーデンでは、知的な障害がある場合は20歳までが教育対象だ。希望があれば25歳まで可能。合理的配慮とアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)が制度化されている。障害者権利条約は24条で、「締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」として、「障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること」としている。ここに実現すべき教育の目的がある。
【参考文献】
1)薗部英夫著『北欧=幸せのものさし』『北欧 考える旅』全障研出版部
2)サリネンれい子著 『医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校』 かもがわ出版