全国に設置が進む「障害者芸術文化活動支援センター」について
「新ノーマライゼーション」2026年1月号
特定非営利活動法人アートNPOリンク(障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局)
小川智紀(おがわとものり)・田中真実(たなかまみ)
障害者芸術文化活動普及支援事業の概要
芸術文化には、自分とは違う考えを大切にしたり、相手をよく知るきっかけになったりする力があります。障害者にとっても自分らしく生きたり、社会の一員として活躍したりするために、重要な役割を果たしています。これを踏まえて、厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業では、障害者が芸術文化に触れ、楽しみ、深めることができる社会づくりを推進しています。
具体的には、障害者の美術、演劇、音楽といった芸術文化活動の普及を推進するための、障害者芸術文化活動支援センター(以下、支援センター)を各都道府県に置いています。あわせて、各都道府県の支援センターをサポートするために全国7ブロックに広域支援センター(以下、広域センター)、全国の状況をとりまとめる連携事務局を設置しています。
本事業の開始は平成29年度で、前身となるモデル事業が開始された平成26年度から数えると10年以上の歴史があります。令和7年度には目標としていた全都道府県での支援センター設置が達成され、さらなる活動の進展が見込まれています。
本稿では連携事務局として事業を支えている、私たち特定非営利活動法人アートNPOリンクの視点で、主に支援センターの活動を中心に事業をご紹介します。
支援センターの活動の概要
まず、支援センターが行っている活動を紹介します。基本となる事業内容は、1.都道府県内における相談支援(芸術文化活動における支援方法、創造環境の整備、権利の保護、鑑賞支援等)、2.芸術文化活動を支援する人材の育成等、3.関係者のネットワークづくり、4.芸術文化活動に参加する機会の確保、5.情報収集・発信(都道府県内の実態把握、情報発信)、6.事業評価及び成果報告のとりまとめ、といった都道府県レベルにおける活動支援です。このほか、文化施設等に出向いて行う相談やアドバイス、福祉施設と文化施設等の他分野が連携する取組への支援を行っている支援センターもあります。
令和6年度の事業報告書によると、支援センターでは上記のうち、4.芸術文化活動に参加する機会の確保に注力したところが最も多くなっています。例えば、作品の発表の場は、作者だけでなく家族、支援者にとっても喜びをともにできる場で、支援センターが具体的な実践の後押しをサポートしていることが分かります。
この集計では、次いで2.芸術文化活動を支援する人材の育成等、3.関係者のネットワークづくり、の順に支援センターは活動に注力しています。人材育成では、大学での活動を行ったり、教育分野への働きかけをしたりと工夫を凝らし、若い世代の支援者を育てていく取組がみられます。ネットワークづくりでは、地道ながらも支援センターが障害福祉サービス事業所単位での関わりを増やしていくことが必要だとの声も聞こえてきます。
芸術分野別では、支援センターが実施した事業のうち展覧会や創作ワークショップ等の美術企画への来場者は213,768人、舞台公演や身体表現のワークショップ等の舞台芸術企画への来場者は22,511人でした。コロナ禍以前と比べても大きな伸びをみせています。
支援センターと相談支援
支援センターでは、障害者やその支援者、家族等から寄せられる芸術文化活動に関する相談支援も行っています。令和6年度の年間合計の相談件数は5,135件で、ここ数年増加傾向にあります。
相談者の属性別でみると、障害当事者によるものが、相談件数1,333件、相談回数1,440回ありました。障害福祉サービス事業者、当事者団体などの障害福祉関係者によるものは、1,245件で3,526回などとなっており、企業からの相談も増加しています。1件の相談を、複数回にわたって対応していることも分かります。
内容別では、作品の発表に関する相談が1,043件で3,599回となっており最多です。そのほか、創造活動、作品の権利保護などに関する内容も多くあります。
芸術文化と福祉分野双方に精通した相談対応人材の養成は道半ばです。都道府県域を超えた広域センターでのネットワーク構築事業や、連携事務局の全国レベルでの研修などを通じて、相談支援体制の充実に支援センターは努めています。
具体的な活動
ここからは各地の支援センターでの取組を紹介します。
「福井県障がい者芸術文化活動支援センター・ふくみなーと」では、「and Artist Collaboration Performance」を鉄道駅の待合スペースに隣接するステージにて、毎月1回音楽のコンサートを開いています。オリジナル曲の演奏やラップ、ダンス、絵本の発表など多様な表現の機会となっています。観光客なども行き交う開かれた場所での開催により、障害の有無にかかわらず、ともに楽しむ空間が生まれています。
今年度設置された「山口県障害者芸術文化活動支援センター」では、「まにまにのかたち アール・ブリュット展」が開催されました。障害者が日々生みだすいろ・かたちを一同に集めたこの展覧会は、県内3か所を巡回し、発表の機会の創出につながっています。支援センターの設置は間もないですが、これまでの知見やネットワークを活かした活動を展開しています。
「おおいた障がい者芸術文化支援センター」では、県内の福祉施設や特別支援学校などに絵画・造形・音楽・身体表現などの講師を派遣するアウトリーチ事業を実施しています。移動手段や障害の状態によって美術館やホールなどでの芸術文化イベントへの参加が難しい人たちが身近な地域でアートを体験する機会となっています。また表現活動を支援する人たちの学びの場としても機能しています。
「群馬県障害者芸術文化活動支援センターこ・ふぁん」は、3団体が協力して支援センターの運営を行っています。複数の団体で運営することでそれぞれの得意分野を活かし、内容の充実を図っています。活動軸の一つ「人材育成事業」では、先駆的な事例の紹介、著作権や知的財産権、そして商品化の方法などのレクチャーを行い、障害福祉の現場における表現活動支援の底上げを図っています。
いずれの活動も詳細については、障害者芸術文化活動普及支援事業ウェブサイト「取組コラム」よりご覧いただけます。その他の事例も数多く掲載していますので、ぜひご確認ください。
事業の課題と展望
「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(第2期)」では、目標の一つとして、文化施設及び福祉施設等をはじめとした関係団体・機関等の連携等による、障害者が文化芸術に親しみ、参加する機会等の充実が挙げられています。
こうした中、劇場や音楽堂側からみた場合、支援センターがどんな役割を担っているのかを調べた令和6年度の全国公立文化施設協会の調査があります。障害者の文化芸術活動を推進する際、どんな組織と連携を図っているかを聞いたところ、一番多かったのは、学校や教育委員会の50.1%で、支援センターと連携した劇場や音楽堂は12.6%にとどまりました。連携内容としては、参加者の募集や広報の役割が中心でした。全国的にみれば、福祉分野と芸術分野の専門家や関係者が共同して企画の実施や相談支援体制づくりに取り組んでいくという状況になるまで、もう少し時間がかかりそうです。
支援センターを運営している団体は、障害者福祉施設を運営している団体、芸術活動を行っている団体、社会福祉協議会や外郭団体などさまざまです。活動の規模やノウハウにも違いがありますが、むしろ、そうした多様性をバネにして、取組事例や協力団体との連携のあり方、推進の成果と課題について情報交換を続けています。
身近な地域での障害のある方の芸術文化活動を広げていきたいと考えるみなさんは、ぜひお住まいの地域の支援センターの活動にご注目ください。
【参考】
厚生労働省 障害者芸術文化活動普及支援事業 https://arts.mhlw.go.jp/
公益社団法人全国公立文化施設協会 全国劇場・音楽堂等総合情報サイト「調査研究」
https://www.zenkoubun.jp/publication/survey.html