分からなさを楽しむために「なんでそんなんプロジェクト」の取り組み
「新ノーマライゼーション」2026年1月号
株式会社ぬか 生活介護事業所ぬか つくるとこ アートディレクター
丹正和臣(たんじょうかずおみ)
「なんでそんなん」は、お笑いでいうところの「ツッコミ」の言葉です。他者の突飛とも思える行動をネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに受け入れ「ツッコミ」を入れる。関西でいうところの「なんでやねん」ですね。他者の「よく分からなさ」を断絶し、排除するのは簡単です。だれしも、自分の理解しやすいものほど受け入れやすい。なので、無理に分かり合おうとせず、なんとかかんとか、想像力を駆使して「分からなさを楽しむ」にはどうしたらいいか。そんな方法を模索してみたいとの思いからプロジェクトがスタートしました。
「なんでそんなんプロジェクト」を主催している「ぬかつくるとこ(以下、ぬか)」は「発酵」からインスピレーションを得た生活介護事業所です。熟成するまでの待ち時間が大切であったり、精米時に捨てられる糠がぬか漬けとなって新たな価値を生むなど、発酵のプロセスの中にさまざまな気づきがあります。そういった気づきや個々の魅力が「ぬか漬け」のようにゆっくりと熟成し、社会へ広がっていくことを願って運営しています。
ぬかではよく言葉遊びをします。利用者さんのことを「ぬかびとさん」、自主開催のお祭りを「ぬかよろこび」。「なんでそんなんプロジェクト」もその一つ。「アンデパンダン(無審査・無賞の展覧会)」と「なんでそんなん」って似てるよねというダジャレから生まれ、その言葉を深掘りすることで上記のようなコンセプトが出来上がりました。事業としては、1年間に集まる100~250事例を振り返る「なんでそんなん大賞」、発見者の視点を普及するための「なんでそんなんセミナー」、実際の事例を展示する「なんでそんなんエキスポ」などを実施しています。
「なんでそんなんプロジェクト」では、理解し難い他者を「行為者」と呼び、その周囲にいる人を「発見者」と呼びます。この「発見者」のツッコミによって「なんでそんなん」は生まれ、事例に「名前」をつけることで周囲の人と会話をしたり、共有しやすくなります。
2つの事例をご紹介します。ぬかに通う小尻桃次郎さん(以下、モモくん)は1日の大半を座って過ごします。朝は時間をかけてコーラを飲み、「クソババア」という言葉をスタッフに投げかけます(幼少の頃より続く独自のコミュニケーション)。そんなモモくんが突然、段ボール製の拳銃を片手にスタッフを人質に取るのです。あたかも銀行に押し入る強盗のように。時には他のぬかびとさんやスタッフが行員役になり、即興劇は盛り上がっていきます。この寸劇をぬかでは「強盗と人質」と呼び、親しまれています。
もう1つ。恥ずかしがり屋で口数が少ない「のかさま」、校舎2階から水をまきたいと先生に訴えます。小学校において上階から何かを落とすことは危険行為のため、多くは止められますが、相談を受けた先生は下記のような張り紙をつくりました。【月曜日の朝の時間帯は2階指導室の窓際で「放水行事」が行われており、まれに大量の水が降ってくることがあります】と。水をまくことで考えられる危険性を張り紙で周知することで、1人の生徒の「やりたい」気持ちをくみ、水まきをOKした事例です。「放水行事」という名前からは、発見者である先生のユーモアセンスを強く感じるとともに、学校における「こうあるべき」という枠組みが、ちょっとしたアイデア(ツッコミ)によって変化していることに驚きを感じます。
「分からなさを楽しむ」にはどうしたらいいか。問いの答えは簡単ではありません。世界情勢をみても、明るくない情報に満ちています。けれども、現在集まった820の事例からは、発見者の楽しみ方、視点の多様さや奥深さを見ることができ、そこには戸惑いながらも他者と向き合う発見者の姿があります。
「人」と「人」、「男」と「女」、「障害者」と「健常者」など、あらゆる境界で起こりうる出会いや衝突に希望やヒントを見出しつつ、当プロジェクトを継続していけたらと考えています。