通常学級におけるマルチメディアデイジー図書の活用 (小学6)
長野県上田市立神科小学校 池田明朗 教諭
(1)本人の現況
国語と算数は特別支援学級を利用している。言葉はとても流暢に話す。漢字の読みが曖昧で、ルビを振ってあげた教科書を読む時にも逐次読みになってしまう。多動や不注意の傾向があるため、長文を読んでいる時は、読んでいる所がわからなくなってしまう。
(2)使用する機器(支援機器)の名称と特徴
iPad「い~リーダー」
(3)個別の指導計画と個別の教育支援計画(本人の希望する支援)
<実 態>
- 算数の問題が解けなくて黙ってキョロキョロしながら困っていた時、「わからない時は、先生わかりませんとか、先生教えてくださいって言えばいいんだよ。」と話すと、その後、わからない時には「先生わかりません、来てください」と言って呼ぶようになった。
- 自分で解けなかった国語の学習プリントの問題を、国語の教科書を教師が読んでから解いたところ、「あっ、わかった」と言って解くことができた。
- 国語の教科書を音読する時、漢字の横にふりがなを書いて読んだところ、つまずかずに読むことができた。
- 計算問題で、全体の計算を終わった筆算を見せながら説明すると「そういうことか」と理解した。
- 朝の挨拶をほめたところ、次に挨拶した時はさらに大きな元気な声で挨拶した。
- 算数で図形の問題を解けた時、「難しい問題を解けたね、すごいね」とほめたところ、「もう1問やろう」と、さらに自分から新しい問題に取り組んだ。
<とらえ>
- 困った時に言葉で表現する方法を教えると、礼儀正しく適切に使うことができる。(1)
- 漢字にふりがなをふったり、教師が代わりに読んであげることで、文章を読んだり理解したりすることが できる。(2、3)
- 視覚的なヒントを与えることで自分の力で問題に答えることができる。(4)
- 賞賛したり、自信を持たせることで、自分から積極的に活動する姿勢が見られる。(5、6)
<期待できる姿>
- 自信を持って自分の考えを言葉で表現したり、活動に集中して取り組むことができるようになる。
<手だて>
- 文字の学習は音声が出る文字ボードやパソコンソフトなどを使い、聴覚や視覚の得意な面を優先的に用いながら学習する。
- 国語の教科書は朗読CDやデイジー教科書などを使いながら学習を進め、なるべく本文を暗唱しながら内容を読解していく。
- できなかったことができるようになった時や、できなくても頑張って努力した時は必ず賞賛する。
- 成功体験を多く積み重ね、自信を持つようにする。
<生活単元学習・自立活動のねらい>
- 情緒の安定をはかり、静かな学習環境の中で集中して学習ができるようになる。
<教科・個別学習の時間のねらい>
- ルビが振ってある国語や社会の教科書を読めるようになる。
- 算数は6年生の基礎的な学習を中心に理解することができるようになる。
<保護者の願い>
- 読み書きの力をのばしてほしい。
- 原級との人間関係を切らないでほしい。
- 中学校へ進学しても通級で特別支援学級を利用したい。
(4)指導の内容
タブレット端末でマルチメディアデイジー教科書を使用し、ハイライトと読み上げ機能を利用している。通常学級での一斉授業で使用し、教科書を教師が範読したり友だちが読んだりしているところを、手動でハイライト表示を動かして追いかけていく。児童が座席順に一文ずつ交代で読んでいく時には、音声再生を聞いてそのとおりに声を出して読む。
集団の中で使用する時はヘッドホン又はイヤホンを使用する。

(5)効果
音読が滑らかにできるようになった。自信をつけて、その後も通常学級の国語の時間に参加するようになり、単元テストもタブレット端末とマルチメディアデイジー教科書を使ってみんなと一緒に受けるようになった。
(6)今後の課題
特別支援学級在籍の児童が、通常学級の一斉指導の授業に参加できるようになった。課題として、タブレット端末とマルチメディアデイジー教科書を通常学級の中で利用するにあたり、学級内の他の児童への理解など、だれもが学べるための配慮を行う必要がある。