大阪市教育委員会
事務局指導部 インクルーシブ教育推進担当 総括指導主事 平岡昌樹
本日は、この発表の場を与えていただきありがとうございます。
今日の参加者の3分の1が教育関係者、3分の1が保護者、3分の1が製作ボランティアの方だと聞いております。あとで数字を発表しますが、今年度、大阪市教育委員会でデイジー教科書を一括申請させていただき、約100校の小中学校で460名くらいの児童・生徒が今年度、デイジー教科書を活用することができました。
これはデイジー教科書を製作していただいたボランティアのお力がなければ、こういう教科書に子どもたちが触れ合う機会がなかったと思います。本当にありがとうございました。また平成30年度以降も継続して利用していただきますので、またお力をおかしください。
本日の内容です。
まず、最初に大阪市の宣伝をさせていただきたいと思います。
大阪市の特別支援教育の宣伝をし、その後、デイジー教科書に関わる本市の取組を説明します。
大阪市の学校園数です。
表のとおり幼稚園54、小学校が290、と表の通りです。政令市は全国で20ですが、人口は横浜市についで第2位です。学校園数も2番目に多いです。
特別支援学級数は、大阪市は政令市の中でも一番で、横浜市を抜いています。
小学校は290あり、特別支援学級は1,167学級です。中学校は130あり、特別支援学級は472校です。
幼児、児童、生徒数は少子化で減少していますが、特別支援学級の数と在籍児童生徒数は増えています。
デイジー教科書は特別支援学級だけではなく通常学級でも多く使われていますが、このような在籍状況だということをお知りおきください。
そういう特別支援学級を含め、支援の必要な児童生徒に大阪市がどのように支援しているか、説明します。
1つは巡回相談。
指導主事、OT、STなど専門の療育士が学校をまわる制度です。
インクルーシブ教育推進スタッフ、これはOB、OGの先生方を特別支援学級に派遣し、特別支援学級担任を支援する事業です。
特別支援教育サポーターは、いわゆる特別支援教育支援員です。
大阪市内には577名配置しています。大阪市キャリア教育センターは昭和36年にできた中学校の特別支援学級の生徒向けの職業訓練の施設です。
医療的ケアのあるお子さんが大阪市内に40名くらいいて、通常の小中学校に通っています。そこに看護師を派遣しています。
このように、教育委員会で学校園を支えています。あとは教員研修。私がいるポジションです。
これは中学生に対するキャリア教育センターですが、職場体験実習をしています。
大阪市内の特別支援学級に在籍する中学生と、一部、支援学校の中学部・高等部の生徒にも門戸を開き、職業訓練をしています。おしぼり加工、ピッキング作業、印刷製本の実習を行う機会がが年に2日ぐらいあります。希望すれば実習ができることになっています。
いろいろな研修があります。全教員向け対象、新任教員向け、手話条例ができたので手話講座等もしています。
28年度からは、これにデイジー教科書の研修も加えています。あとで説明します。
学校教育ICT活用事業ということですが、実は大阪市では平成28年9月から、全部の小学校・中学校、420校に授業用ノートパソコンを、普通教室の全教室に入れました。
普通教室は全教室ノートパソコンが1台あります。プラス、Windowsのタブレットを40台ずつ学校に整備しています。
全児童生徒に1台ずつはないのですが、各学校に少なくとも40台のタブレットがあります。それと各教室に授業用パソコン、そして各教室にはパソコンを映し出す大型モニタ、プロジェクターが整備されました。
導入されているアプリケーションです。基本はofficeです。あとは無料のアプリケーションです。
大阪市教育委員会では、特別支援教育についてICTにかかる取り組みを平成26年からはじめていまして、文部科学省からお金をいただき、支援機器の教材活用の事業を26年度、27年度、おこないました。
28年度には特別支援学級でタブレットを活用した研究も実施しました。その上でデイジー教科書の普及促進にかかろうと思いました。
文科省の、障がいを利用とする差別を解消する対応指針です。これと同じようなものを大阪市でもつくっています。まさしくこの通りのことを文部科学省もいっているので、ICTを使わなくてはいけないのです。こういうことが今、合理的配慮として求められていることなので、積極的に学校の中でもICT機器を導入することを、教育委員会としても促進しています。
平成28年7月に読み困難の児童生徒の数を調査したのと同時に、どんな児童生徒に合理的配慮をしていますかといったことも調査しました。
そのときに出たのは、こういうことです。
教科書にルビを打つ。
代読する。
定規を当てる。
スリットを使う。
拡大教科書を使用する。
付箋を貼る。
デイジー教科書の活用もあったんです。9名でした。え? と思って。
教科書にルビをふるのが200人ぐらいいるんです。
ですから、デイジー教科書を活用しようと思ったのです。
大学入試もタブレットでやる時代ですね。
本市でデイジー教科書を普及するために、日本障害者リハビリテーション協会に連絡をとったところ、その時点で先行して3つの市が教育委員会としてデイジー教科書を一括申請していて、そちらの市の教育委員会に電話をしました。
教育委員会が小・中学校の校長先生向けにデイジー教科書を使ってくださいねという文書を発信しますが、それらも参考にすることができました。
学会やいろんな研究会で発表した資料もいただきました。
他の3つの市の仕組みが見えてきました。
ただし、先ほど申し上げたとおり、大阪市は、そのとき既に学校ICT授業が始まっていました。
いわゆる全市の小・中学校420校にパソコンのノートパソコンとタブレットパソコンが入っていました。
全市でノートパソコンが約2万台、タブレットパソコンが700台、集中して管理します。セキュリティーが厳しいんです。
そう簡単にデイジーを再生、保管するデイジーポッドをインストールできませんでした。
さらに、デイジーポッドをインストールできても、デイジー教科書がアップされている、コンテンツサーバにたどり着けなかったんです。なぜなら、ホワイトリストがあって、インターネットの外にでようとすると、ブロックにかかります。それで教科書までたどり着かなかったんです。
そこで、リハビリテーション協会さんから情報をいただき、教科書のサーバーをホワイトリストに登録することで解決しました。
現在は、大阪市教育委員会がデイジー教科書のコンテンツにたどりつくようになっています。セキュリティーが厳しい教育委員会がほとんどだと思いますので、参考にしていただけばありがたいです。
これが、大阪市が行っている一括申請の仕組みです。
小学校から大阪市教育委員会に申請します。
小中学校が直接、デイジー教科書サーバーにたどり着きます。
これがデイジー教科書の流れです。
お手元の資料にも入っています。
こういったものを小中学校に配布しました。
校務支援システムの中のパソコン申請書を保管しています。
そこからダウンロードし、Excel形式の申請書に、必要事項を記入して、教育委員会にあげる仕組みとしています。
これが実際の申請書です。
先生方の名前、先生方の個人のID、6番がインストールする学校のパソコンの端末番号、これが使用する児童生徒のイニシャル、対象学年、児童・生徒の読みの困難さです。
これらを記入していただきます。
管理者権限が各学校に付与されると同時に教育委員会からはデイジーポッドのインストールの手順書を送付します。
インストールの手順書は、全部で、A4で7~8枚あります。この手順書に従って、学校はインストールしていきます。
わたしは教育委員会の人間なので、子どもたちの前で授業をすることはないんですけれども、大阪市では、平成29年度、2回、デイジー教科書の研修をしました。
5月に日本障害者リハビリテーション協会の方を招いて、その意義や導入方法の研修をしました。11月に実際に実践されている小学校2校と中学校1校の先生にお話をいただき、実践事例を発表していただきました。
実際のパソコン画面です。
大阪市の授業用のノートパソコンでデイジーポッドを使っている画面です。
デイジーポッドジュニアの画面です。
大阪市立S小学校の事例です。
放課後に個別指導をしている5年生男児の様子です。特別支援学級在籍の児童です。
入学直後から読み書きが苦手なので学習が遅れました。
4年生のときに医師の診断を受けました。STRAW-Rという読みの検査をしました。ひらがな、カタカナ、漢字の検査、約40分かかります。
この児童に関しては、カタカナの音読の正確性に課題がありました。
漢字の音読の正確性に課題がありました。
音読の流暢性に課題が見られました。
この児童に対して、放課後を中心にデイジー教科書を使った集中的な実践をした事例です。
9月21日から10月18日にかけて主に放課後、15分~30分かけてデイジー教科書を使った実践をしました。
場所は児童が下校したあとの教室。指導は特別支援学級の担当教員。主に国語。予習として使っていました。
目的は、内容の理解。
デイジーの使用日は音読の宿題はナシにしたということです。
指導の流れはこのような感じです。
・まずは全文を再生する。
・内容把握。
・そのときに質問をします。
・それから部分音読。
・それから内容把握。段落ごとに一人読みをして、それから授業を受けます。
学習の様子です。
表示倍率を190~220%。
再生速度は標準、あるいは、1段階上を使っています。
文字色は黒、背景色は黄色。
これが実際に学習している写真です。
1~2週間続けると、実際に、たどたどしい読みだったのが、彼の読みが、このように、かなり速くなりました。
事後の読みの速さですが、紹介します。
(ビデオでの紹介)
最初はたどたどしい読みだったのですが、今のように速い読みになりました。
彼は、国語の「注文の多い料理店」の最後のテストでいつもは30点、40点ぐらいだったのですが、180点くらいとって非常に喜んだそうです。
自分の読みの力が上がって点数がとれるようになったので、それ以降も、自分から勉強しようということで、「先生、勉強、教えて」と、次の単元「和の文化を受け継ぐ」もやるようになったそうです。
担任の先生から聞いた成果として、文章の理解度が上がった。
・読むことへの抵抗感が減った、文のまとまりで読めるようになってきた。
・漢字が読めるようになった。
・授業の時にもすらすら読めるようになってきた。
・本人自身が、自信がついてきたということです。
教員研修です。
平成28年度にデイジー教科書にかかる初めての研修をしました。
デイジー教科書の本格的な導入前です。
大阪府、あるいは奈良県でデイジー教科書を先駆的に使っている先生にお越しいただきました。
ノートパソコンやタブレットでの効果について教えていただきました。
今年度は、5月にリハビリテーション協会の方に来ていただき、導入に関する研修をしました。
11月に、小学校、中学校の先生にお越しいただき、実践報告をしました。
これが今年度、大阪市がリハビリテーション協会に2月末に送った大阪市の児童生徒の利用状況です。
デイジー教科書による、小中学校の先生からあがったきた成果です。
・児童が自信を持って音読ができるようになった。
・単語のかたまりがわかるようになり、一文字ずつ読むことが減った。
ある小学校の先生から、デイジー教科書を導入して2週間後に教育委員会に電話がありました。
現場の先生から直接、教育委員会に電話があることはあんまりないんです。
その先生は喜んで電話をしてきました。
教科書を読めるようになった子どもがすごい喜んで、校長室に飛び込み、「校長先生、校長先生、僕の音読聞いて」と飛び込んでいったそうです。
そういったエピソードをどうしても伝えたくて、教育委員会に電話してきてくれました。
とても嬉しかったです。たった1事例ですが、やってよかったと思いました。
読むことに自信がついて嬉しかったのだと思います。
中学校では、自ら教科書を開く意欲が出てきたとか、教科書の内容の理解が進んだと聞いています。テスト前にやるとテストの点数があがるなど、効果があったとの声を聞いています。
実は、まだまだ課題は多いです。
ここには載っていませんが、利用者を500人から1,000人にする工夫、周知が必要かと思います。
教育委員会は、実際の現場の先生にデイジー教科書を紹介するのが仕事です。学校の先生は忙しいので、できるだけ手間を省いて、児童に指導できるように、その機会を作ること。
現場の先生がどれだけ簡単にできるかが肝かと思います。我々はどれだけ汗をかいてもいいので。
先生方がどんなふうに使っていくか、難しいですね。
この後、紹介していただく長野県の2例は役立つと思います。
実践事例を先生方に提供することが必要だと思っています。
実施に児童・生徒にどのように効果があったか、科学的なエビデンス、効果検証が必要だと思っています。
また、年度更新の方法です。
今回、デイジーポッド4という新しいソフトが導入される予定です。
それは年度更新の方法が簡単になると聞いています。
その辺は、クリアできるのではないかと思っています。
ちょうど、時間となりました。ご清聴ありがとうございました。