長野市立南部小学校
特別支援教育コーディネーター 山﨑幸子
皆さん、こんにちは。
長野県から参りました、長野市立南部小学校の山﨑幸子です。よろしくお願いいたします。
今日はこのような発表の機会を与えてくださり、ありがとうございます。
私は、特別支援コーディネーターをしています。読むことが困難な子どもへのアセスメントとしては多層指導モデルMIMを活用して、スクリーニングテストとして使っています。
全クラスでできているわけではないのですが、できるだけ多くのクラスに毎年おこなっています。
読むことが苦手な子どもを早期発見することが急務であると考えているからです。
行動面で気になるお子さんは担任も気になり目をかけていきますが、静かに座っていて、読めないお子さんには指導が行き届かないという現状があるからです。
そこで、MIM、ELC、K-ABCⅡなどを使用して、どこかで引っかかったお子さんには早期介入しようと考えました。
すべてのアセスメントをするということではありません。
そして、これらの児童の保護者や担任と面談して、デイジー教科書の使用を勧めています。
南部小学校はデイジー教科書を導入して3年目です。
学校図書館として登録し、1~6年生が使用するすべての教科書をiPadに入れています。
iPadは2台、貸与、1台は学校用、あとは教師の個人用。5台を駆使して活用しています。
よって、困っているお子さん1人1人にiPadを手渡すことはできません。
使用法は、取り出しの個別使用や特別支援学級の指導、自宅での宿題、予習に使用することが圧倒的に多くなっています。
本校のデイジー教科書導入の課題は2つあります。
人的環境と物的環境です。
1つ目は、読みの困難な児童の発見のために誰でも何処でも、同じ視点に立てるように通常学級担任への理解啓発を行うこと、研修をしていくことです。それによって担任の行動観察とスクリーニングができるようになります。
2つ目は、全ての教室でデイジーが使える環境を整えるということです。学校の情報システムを整備しセキュリティーの問題を解決していくことです。
これは残念ながら私個人の力ではどうすることもできないので、教育委員会にお願いしたいことです。
本日はデイジー教科書の活用事例を3例紹介します。
1つ目の事例は、読みに苦手さを感じていて、学習に自信を持てないでいた小学校6年生の男児です。人前で声を出せず自信が持てず、学習になかなか取りかかれませんでした。
でも、休み時間になると友達の輪に入って仲良く遊んでいました。
そこでWISC-IVやさまざまなアセスメントの結果、視覚情報を記憶する力、見て速く正確に操作する力、視覚的作業をする力を生かして、
①見て考える、
②操作しながら考える、
③絵や図に描いてみる、
④やり方を話す、
などができる学習にしようと思いました。
まずやったことは、デイジー教科書の国語を個別指導で使いました。5年生の1学期からですが、クラスで音読の順番が回ってきても、今までは黙ったままだったのが、声を出して読めるようになりました。
次に考えたことは、通常学級の中でデイジー教科書は使えないかということでした。
社会の授業場面でのビデオ場面では手いたずらが多く、黒板をみようとしない、積極的に授業に参加しようとする時間が明らかに少ない。
しかし、ジェスチャーや視覚的な映像になると食い入るように見つめているのが印象に残りました。
考察です。
デイジー教科書を使うことで、本児は自分の力で学ぶ力をつけました。
温かく包み込む雰囲気があることで学級作りを担任が工夫したので、通常学級で使うのは難しいと言われていますが成功事例だと思います。
単元テストでも、知識、理解力が増して、ほぼ満点をとれるようになりました。
デイジーを使う前は20~30点ぐらいしかとれなくて、意欲的に取り組むことはできませんでした。
2つ目は、早期発見、介入により、言葉の読み誤りが改善した小学校2年の女児です。
WISC4の値は高く知的レベルに問題はないが、音読できないとの相談を受けました。
自宅にて国語の音読の宿題で使用しました。
アンドロイドのタブレットを使用しました。
デイジーの使用回数、単元、変化を記録しました。
すぐに効果が表れ、初日からつまるところがなくなった。
逆さ読み単語もなくなっていき、読む速度も速くなっていきました。
2か月後には、デイジー教科書を使用しなくても逆さ読みはなくなっていきました。
保護者のインタビューにより、字の大きさは300%ぐらいにして使用したこと、ひらがなのまとまりをとらえるのに、ハイライトが有効だったことがうかがえます。
そして何よりも読むことが楽しいと意欲が増していきました。
語頭の読み誤り、思い込み読みは、倍率を大きくし、ハイライトする視覚的支援を受け、音で聞いて言う、アクセントを訂正することにより、初読に苦労しなくなり、逆さ読みが解消されました。
デイジーの使用回数は徐々に減っていきました。
結果、デイジーは良かったという感想を持ちました
3つ目は、自宅で使い続けることによって読書の世界を広げていった中学校3年A子さんの事例です。
A子さんは初読では読めないことが多いですが、練習すると読めるようになりました。
もともと利発なお子さんで生活能力も高いので読みが苦手であることが、周りの人になかなか理解されず苦労したお子さんです。
小学校4年生の頃から通級で私のクラスに通い始めました。
読み間違い、漢字が覚えられない、九九が覚えられないなどの症状がありました。
しかし、知的には何ら問題は見られませんでした。
そのため、努力不足と思われることもありました。
A子さんには様々なことを試みました。
Irenの有色フィルム、教科書の拡大などです。
有効なことと効果がなかったこともありました。
まさに試行錯誤の毎日です。
そんなころ、偶然、デイジーを知りました。
ディスレクシアのお子さんに効果があるとのことでした。
当時、A子さんは医療機関にディスレクシアの診断は出ていませんでした。
でも私はこれしかないと、試すことにしました。
私はICTに特に詳しいわけでもなくパソコンが得意でもありません。
でも、きっとデイジーはいいんじゃないかなと直感しました。
それから何度わからなくなってリハ協さんに電話したかわかりません。
そのたびに親切に教えてくださったことに本当に大変感謝しております。
A子さんには国語、社会に使いました。
国語は音読で利用し、社会は内容理解のために聞きました。
デイジー教科書のよさは視覚的支援と聴覚的支援が同時にできて、読みを促進します。
A子さんは音声でガイドされたことがよかったのではないかと今は言っています。
音楽も聞いて歌詞を覚えるからだそうです。
A子さんのエピソードは、特別支援学級に入るとき、泣いて、幸子先生のクラスに入りたいと言ったことがありました。
A子さんは静かな環境で落ち着いて、授業を受けることを希望していたのでしょう。
6年生のとき特別支援学級に入りました。
国語「平和について考える」では、全17時間中、ほとんどと支援学級で学習し、最後の2時間を通常学級で学習しました。
最終の時間にスピーチ発表会をしました。
最初、デイジーで読んでも読むのが精いっぱいで、内容まではまだ分かりませんでした。
しかし、2回目、3回目となると内容がわかるようになり、スラスラ読めるようになりました。
「嬉しかった」という感想も書かれるようになりました。
読みに要した時間も2回目になるとグンと短くなります。
1回目とは優位な差がありました。
もともと意欲的で、理解力も高いお子さんなので、テスト問題をデイジー化すると満点がとれました。
この調子で中学校にいっても使えれば、と希望を膨らませました。
「平和について考える」では、意見文を書きました。
発表に際して、自分で大事だと思うところに、黄色でラインを引きました。そして読みやすいように、スラッシュを入れています。
これもデイジーを参考にして、自分で工夫した点です。
途中で、「私は心の中に平和のハートを描いてみました」というところがあり、その中に友達と仲よく暮らす、笑顔でいる」とあるんですが、ハートを描いたのは、何か物事を想起するとき、映像が浮かんでくるので、絵や図にした方がわかりやすい最後の部分です。
私は今回iPadを使って、デジタル教科書、デイジーで学習しました。デイジーの花言葉は希望です。
私はデイジーで希望を持ちました。この希望がこれから続く私や他の人の道となるのではないかと言っています。
みんなとは違う、少し違う学び方だけど、私も意見文が書けた、そしてみんなにデイジーをつかっていることを公表することもできました。
特別支援学級で学んだことが通常学級で生き、グループ活動でお互いにアドバイスをし合う、双方向の相互作用が生まれました。
感想では、みんなの意見があってとてもうれしかったですと書いています。
このように4人グループで話し合いました。
このことで、A子さんの自尊感情尺度は向上しました。
考察です。
デイジーをつかって個別に指導することは、読むこと、読解力の向上に有効でした。
短時間の指導でも有効でした。
誰でも読みに困難を抱えていれば登録して使用できる、有効なツールでもあります。
デイジーを使用することにより、その結果を通常学級にフィードバックすることで集団参加を高め、その結果として自尊感情の向上につながりました。
デイジーをつかって学習することで原文を書く際に文節で区切る、マーカーをしてわかりやすくするという工夫が見られました。
混乱しやすいものを工夫し、自分でセッティングできる、用意できる、攻略を身につけることができました。
デイジーで読みやすくなることは大切ですが、デイジーをヒントに、自分なりのやり方を身につけていくことが最終の目標であると思います。
意見文の発表の中で子ども同士のやりとりがあり、マーカーで視覚的に支援する方法を友達にアドバイスする場面がありました。
アドバイスができたことは、自分の意見を持って発表する際にも有効であったと考えられます。
デイジーで学んだことで、参加の場面の広がりを見せたと考えられます。
半年後に読みがどのように変化したか、同様の難易度である小6国語、「海の命」で検証しました。
読み飛ばし、勝手読みがなくなり、読む速度が増しました。これは「平和について考える」の読みの推移と同様の結果です。
1回デイジーを読めば、時間は短縮されました。
ご静聴ありがとうございました。