上田市立丸子中央小学校
特別支援学級 教諭 池田明朗
平岡先生から行政的な普及の話をされていましたので、上田市のiPadやデイジー教科書の普及について触れたいと思います。
実は、上田市内では今、特別支援学級で1学級に2台、iPadが入っています。
そうなるまでには5年前、平岡先生のような指導主事の方に私の授業を見に来ていただいて、それを教育委員会の方に持っていっていただき、今度は教育長、市長に私の授業を見に来てもらい、そこから議会にかかって、予算化していただいて、次の年度からiPad、デイジー教科書導入ということで、平成27年度から3年かかって今年の29年度で、市内の全小中学校の特別支援学級に配布が完了しました。5年くらいかかっています。
今は丸子中央小学校にいますが、今日話す内容は、平成27年度までいた上田市立神科小学校の実践内容も含めて報告します。
またWISC検査の結果や児童の様子なんかも出てきます。保護者と本人に承諾を得ていることをここでお話させていただきます。
一昨年の4月、障害者差別解消法が施行されて公的機関には合理的配慮の提供が義務づけられました。私の実践報告は、合理的配慮、インクルーシブ教育における手だての一つになるということで報告します。
デイジー教科書を再生するアプリはいーリーダーを使っています。
もう1つはパソコンで動かすソフト、ブロデューサーという製作ソフトがあります。学習プリントをスキャナなどで取り込んだものをデイジー再生アプリケーションで読めるようにしてくれるものです。これで私たち教員が今まで作ってきた学習プリントをデイジー教材としてタブレット端末で利用することができるのです。
実践事例に出てきますので簡単に紹介しました。
前置きはこれくらいにして、今日は実践報告会なので、できるだけたくさんの事例をご紹介します。
平成27年度は、全校児童760名ほどの神科小学校におりました。特別支援学級に全部で12台のiPad、24名で使用率は3.2%。丸子中央小学校は、今年度全校児童435名で、特別支援学級4クラスで8台、iPadを配置。17名、3.9%の児童が使用しています。
デイジーの使い方はタブレット端末と、デイジーアプリの操作を特別支援学級で学習します。
その後、特別支援学級、通常学級、そして自宅と、児童の個々に合った場所で、学習プリント、テスト問題、宿題などに使われます。
自宅で使っているものは、学校のものを貸せないので、個人で購入していただいたものに限って自宅で使ってもらっています。
最初の事例です。
6年生になると教材文が長く、文も長くなり、どこを読んでたっけという言葉がよく聞かれます。
Aくんは文章は逐次読みで、漢字の読みがあいまいですが、言葉は流暢に話します。
Aくんがデイジー教科書を読みながら、学習プリントを解いている事例の写真です。
再生している部分をハイライト表示してくれるので、どこを読んでいるか見失うリスクがなくなります。
聴覚優位のお子さんなので、音声再生が中心です。
写真の学習プリントですが、教科書を読むだけでは学習の理解度がわからないので、プリントで確認します。
これは2年の「スイミー」です。デイジー教科書でこれを読みます。
その後に問題があるので、読める子はルビのまま読み、読めない子は、先ほどのプロデューサーで変換して読んでもらいます。
選択式と記述式と合わせて書いています。書くのが苦手なお子さんは、書くこと自体がストレスになります。そういう子には選択式の回答欄だけ。書けるお子さんは、記述式を用意します。
その子にあわせて、プリントを書き換えて渡しています。
このお子さんBくんはデイジー教科書を使って、音読学習をしている様子です。
こんなふうにつぶやいたんです。
「おれみんなと一緒に読めない」と。みんなと一緒に学習していたのは、小学校1年生の時まででした。
デイジー教科書を使ってみてはどうか、と話すとやってみるということで担任の先生と打ち合わせして使ったのがこの写真です。
今、私は特別支援学級の担任をしています。
周りに音がもれるとほかのお子さんにうるさくなるので、イヤホンやヘッドホンなど使いやすいものを使っています。ヘッドホンがいいという子もいますが、それぞれのお子さんが使いやすい形で使ってもらい、このように音はイヤホンで聞いて使っています。
通常学級でどう使っているかの様子です。
まずは教師が範読するのを追いかけて読んでいる様子です。
次は役割を分担し、グループで読んでいる様子です。
この2人はデイジー教科書を使う前は、授業で教科書がほとんど読めないので、教科書もひらかず、机に突っ伏して寝ている。担任教師からの相談でデイジー教科書を使う流れになりました。
国語のテストも0点、10点というお子さんです。
今、見ていただいたのは6年生の国語の単元の「やまなし」です。この1時限の授業後、算数の個別授業で私のところに来ました。
教室に入るなり、私に「クラムボン」って何ですか?と聞きました。
仮にDくんとFくんとします。
二人でクラムボンについて会話をしているのです。これ、ただ読んでいるだけじゃないですね。
そして、この2人のやりとりを見ながら、私は後ろで板書していました。
2人で国語の授業を進めてくれているのです。2人のやりとりを聞きながら、こっそりと、教師用指導書、赤で答えが書いてあるのを見つけました。そこには、クラムボンの正体について時間をかけることは避けたいと書いてあるんですね。
でも算数の授業をやめて2人のやりとりを聞きたいと思いました。
一番驚いたのは、最後にF君が、「クラムボンって妹のことかもな」と言ったことです。
「やまなし」の教科書を何べん見ても妹のことは出て来ないんです。教科書をめくっていくと、その次にイーハトーブの夢という読み物がついています。その中に賢治の妹のことが出てくるんです。
Fくんは、この時間に次のところまで読んじゃってたんです。
F君は45分授業内に妹が出てくる話のところまで読んでしまっていました。半年前までは机に突っ伏して寝ていた子です。
余談ですが、私はクラムボンについて、よく知らなかったんです。あとでよく調べると、宮澤賢治のクラムボンについて、英語のカニ、クラブ説、泡説、母カニ説とか、妹説もあり、この2人は、ほぼ言い当ててますね。
妹説を調べました。2つ違いの妹、トシが賢治にはいました。大正12年になくなっています。
その半年後の翌年5月に「やまなし」を発表しているんだそうです。その流れを考えると、クラムボンを妹として考えることができるんだと。改めて読んでみると、すごい感動する話なんだと私も勉強させてもらいました。
ちなみに、この2人は書くことも苦手です。
タブレット、iPadのカメラ機能を使って、板書を撮影して、次の授業に持っていったようです。
続いて、プロデューサーを使った事例です。
プリントの問題が読めない、5年生。WISCの検査も低い。漢字の読みは2年生、眼球運動も困難がある。書くことも困難。このお子さん、ルビをふっていない学習プリントに、最初はデイジーを使わないで取り組みました。これがそのプリントです。
ここに答えが書いてあるんですが、上に、「足し算の式にかきましょう」とある。でも読んでいないので、そこは飛ばして書かないで。数字だけを見て、今までの生きる力で解いているのです。答えは一応合っています。
これを、プロデューサーで変換してタブレットの中に入れて、それを読んでもらって問題を読んでもらうと、1番上の問題に気づき、問題が解けた。「読めればこの子はできるんだ」と。
この子は国語のテストでも同じようにして、タブレットに変換して入れて、使ったところ、自力で初めて、小学校入学以来はじめて80点をとりました。お母さんはこのテストを額に入れて飾ってあるそうです。もうしまってあるそうですが。それでも初めて80点とったということでとても嬉しかったということでした。
実はこのお子さん、プリント問題も、教科書も読めないので、このように2台使っています。
左がデイジー教科書。右がプロデューサーで変換したもの。
テストの様子をあとで動画であとで見ていただきます。
これは小さいタブレットですが、7インチと、右が11インチぐらい。大きい方がいいんじゃないかとよく聞かれます。
今、学習プリントはA4、大きい11インチのものを2台並べました。
机の上にタブレットは、いっぱいいっぱいですが、ぎりぎりセーフかな。ただ、横プリントを置くと隠れてしまいます。
お子さんが使うニーズによって大きいものにしたり小さいものにしたり選んであげるのがいいと思います。
もう一人、5年生、別のお子さんです。
教科書が読めない子。WISC検査の結果も低いですね。漢字の読みも1年生ぐらい。ただ計算は同学年の5年生よりできます。
アンバランスなお子さんですよね。
このお子さんもテストでこのように、長い文章、右側がデイジー教科書。
国語のテストは、上が問題文、下がデイジー。下の問題文を左側のもう1台のタブレットに入れてやっています。
このお子さんは、5年生から会ったのですが、4年生までテストはいつも白紙だったそうです。真っ白。
今回、これをやったところ、うっすら、見えにくいのですが、75点でした。
「読めばできる」という結果でした。
宿題のプリントもタブレットを使いたいという子。
3年生のお子さん。
診断は特になく、医療機関に行ってない。漢字以外は逐次読み、よくつまずいて間違う。ただしよく喋ります。マシンガンのようにしゃべります。
このお子さんも宿題プリントはこんな感じ。
紙ベースを持っていき、タブレットの中にプロデューサーで変換したものを家に持ち帰って、自分のiPadを持っていき、宿題をする。
いつもはこのお子さん、お母さんが帰ってくるまで、宿題ができなかったそうです。読んでもらわないととりかかれなくて。だからお母さんが遅くなって帰ると、それから宿題、になるので、ご飯もお風呂も寝るのも遅くなって次の日、調子が悪いと。
自分でできるようになってからは、お母さんが帰ってくるころには宿題は終わってる。
生活リズムも整って、おうちの中でも家庭の時間がとれて、お母さんも子どもも喜んだという事例です。
私の教室に、今日相談にくる子がいるというので、教室に入ってきた時にいったセリフです。
私に向かって「漢字さえ読めればいいんです」と。
じゃ、デイジー教科書をつかってみる?と言うと、「先生、この教科書、どこに売ってるんですか」と聞かれました。
このお子さん、実は、検査で言語理解の数値は高いんです。処理速度もそこそこ。視覚優位で聴覚からの情報入力が苦手。漢字の読み書きに困難があります。
ただ、ものすごい絵の才能がある。抜群です。絵画コンクール、ほぼ金賞です。
私も観ると、モネとか印象派、あんな感じの絵を描きます。
私の所に来た時は、「100年後のふるさと」も10点、こんな状況で私のところに来ました。
タブレットのデイジー教科書をつかってテストを受けてもらった様子です。
この結果が、いくつかは三角ですが、あとは○。最後、時間がなかったのか書いていないのですが、いっぱい書いてあります。テスト文はここにありますが、この子はデイジー教科書まで、この続きまで読んじゃって。後ろから答えを引っ張ってきている。でも内容的には合っているんです。
担任の先生は「よく書けたね」と言っている。ここから選べということなので、○はできないので、結果は75点でしたが、デイジー教科書を使うとこれだけ差がある。
現在は、各テスト会社からは総ふりがなテストということで、テストの漢字に全部ルビがついているのがサービスでついてきたり、購入して用意したりなどできます。タブレットなしでもテストが受けられます。
次は、衝動性のあるお子さんです。
WISC検査も、目からの情報も、処理速度も苦手なところがありワーキングメモリも低め。診断はADHDで、衝動性が激しいです。逐次読みですが、言葉は流暢に話します。
通常学級での授業中は教室の後ろに掃除用具のロッカーがあります。
その上に座って、腕を組んで、見下ろしながら先生の授業をうけているというお子さんです。
この子も、最初の3年生のときのテスト、これが破っちゃったもの。2回目のものは破ってしまったものです。
デイジー教科書を読んでテストを受けてもらったら60点でした。
次は特別支援学級にきて、デイジー教科書を使ってもらいましたが、テストのときはつかわないでもらいました。頑張っても20点。
それなら使ったほうがいいね、とデイジー教科書を使ってテストを受けたところ85点をとりました。
第6回目の「ごんぎつね」のテストの時は、自信あるからデイジー教科書いらないと、持っていきませんでした。
自信あるならいいよと、頑張りましたが、30点だったんです。
やっぱり使ったほうがいいよと、次のテストで使ったところ85点を取りました。
単元テストの評価ですがデイジー教科書を使ったときと使わない時では、これだけ差があるという結果になりました。
3年生のお子さんです。
特別支援学級でデイジー教科書を使って学習したときに、つぶやいた言葉がこんな言葉です。
「これがあれば、○年○組で(みんなと一緒に)勉強できるのにな」とぼそっとつぶやきました。
ワーキングメモリは低いですがほかの数値は結構高い子です。多動です。
1年生の漢字の読みでつまります。言葉は流ちょうに話します。2年までの国語の単元テストは、最高で30点でした。
このお子さんに、タブレットのデイジー教科書を使ってテストを受けてもらったところ、「きつつきの商売」でいきなり100点。
次の単元も93点、90点、90点と、ずっと90点前後をとり続けました。
4年生になって国語の授業は通常学級でタブレットを使って学習をしています。
授業では通常の教科書も使っています。
先生が何ページの3行目を見てくださいと言ったとき、デイジー教科書は読みやすい大きさにポイントを変換しているので、行がずれてしまいます。
先生が3行目と言ったとき、こちらで確認して、同じところを自分で探して学習を続けます。
後ろを向いている子もいる中、この子は真剣に授業を受けて挙手して答えています。
このように4年生の時は国語の時間をずっと学習しました。
今度5年になりますが、特別支援学級を利用せず、デイジー教科書があれば大丈夫ということで、4年生からは通常学級に在籍ということになりました。
ちなみに国語のテストの裏面ですが、漢字は全滅です。5点。でも下の言葉の問題は全問正解です。
バランスが悪いですが、読めればできる、お子さんです。
実は4年生のテストで総フリガナテストを使いました。
1回目の90点は、デイジー教科書を使ってもらいました。
次の単元は総フリガナテストだけ。デイジー教科書は使いませんでした。
勝手が違ったのか78点。
次の総フリガナテストでは90点でした。
ということは、テストにふりがながあればできるお子さんの場合もあるということです。
通常の授業ではタブレットを使っていますが、これは中学校のテストや高校受験でも、デイジー教科書がなくてもルビの配慮があれば、このお子さんは通常の児童生徒と何ら変わりなく、授業を受けられる例です。
簡単にまとめます。
本来、デイジーは視覚障害者に開発されたものですが、タブレット端末、デイジー再生アプリケーションなどによって読みに困難な児童、生徒に有効であることがわかりました。
タブレット端末、デイジー教科書を使用することで、通常学級でみんなと一緒に学習できることもわかりました。
平岡先生と山﨑先生もおっしゃっていたように、わかる、できる、学習意欲が向上する、ここが一番だと思います。
デイジー教科書がささえてくれたのは何か。
教師がよくやりがちなのは、読めない、書けないといったとき、まず五十音を覚えてから、語彙を増やしてからなど、ステップをつくりたくなるんですが、読むって楽しいとか、自分で読める、だからまた読みたいってなるんだと思うんです。
「できそうだ」ということが支えられたこと、意欲が継続したことでできたのはないか。
ここのやる気ですね。
そこが一番デイジー教科書に支えてもらっているところかなと思います。
いろいろな所で、研修会に出ていますが、ある講演会でノンステップバス、床の低いバス、ユニバーサルデザインと言われているもののバスの話を聞きました。
ノンステップバスをただ走らせるだけでは意味がない。ちゃんとバスの運転手さんが、停留所の狭い場所ではずらして、乗り降りしやすい場所に動かして、バスを利用してもらう配慮をしている。
実はタブレット端末、デイジー教科書も同じで、当たり前に使える環境を、学校、教師の側が用意する。学級経営もそうです。
誰もが学べるための配慮をすることが1つ。
それからスマホやケータイ、ゲーム機のように、タブレット端末を中学で紹介すると、スマホと一緒でしょと言われるんですが、そうではなく、メガネや補聴器と同様に当たり前に利用できる、そのための柔軟な対応が学校側には必要だと思っています。
時間となりましたが、文字が読めない、漢字が読めないという壁を取り払うだけで通常学級の中で自分の力を発揮できる、そういうお子さんたちがたくさんいるということを、今日はご覧いただきました。
ぜひ様々な場で、デイジー教科書を使っていただきたいという思いを込めて終わりたいと思います。ありがとうございました。