マルチメディアデイジー教材の導入活用事例

マルチメディアデイジー教材の導入活用事例

金森 裕治(大阪教育大学 特別支援教育講座 特任教授)

マルチメディアデイジー教材の導入活用について、紹介します。

2009年9月に大阪マルチメディアデイジー研究会が発足しました。
発足当時は、3~4名でしたが、今は、20~30名です。目的は研究、副読本のマルチメディアデイジー化、シンポジウム、論文発表、月1回の研究会を実施しています。

自主シンポジウムの実施ですが、日本特殊教育学会52回大会では、マルチメディアデイジーを利用した研究、53回大会では、社会科副教材のマルチメディアデイジー化、55回大会では試験問題のマルチメディアデイジーに関して発表しました。
今年度は、文科省から助成頂いた、読み困難さの評価指標を用いてに関して発表しました。

日本LD学会では、第24回は製作ソフトを用いた自主教材の製作・活用等で発表しています。

このスライドは、社会科副読本をデイジー化した実績ですが、最初にしたのは、大阪府富田林市です。今年度は奈良市の副読本等をマルチメディアデイジー化しております。

これから、試験問題のマルチメディアデイジー化に関する実践的研究をお話ししたいと思います。

大阪市内の小学校、現在6年生の男児です。

2年生のとき、母親から聞いたのですが、九九を覚えられない、漢字も授業では書けるがテストは白紙。本を開いて暗記した内容を発表していたそうです。

3年生になると内容量も増えて授業についていけなくなり、無気力に近い状態でした。

その後、大阪医科大のLDセンターに通院し、ディスレクシアという診断がおりました。そんな時に、たまたま大阪市の教育センターで、私の研究室のゼミ生が母親に会う機会があり、私に繋がって支援が始まりました。

私はまず小学校に行き、お話をしました。そのあと、母親が息子さんに聞いて、「文字が読みにくい、かきにくいってこんなこと」のDVDをつくって、クラスで見てもらって理解を得て、4年生3月にデイジータブレットの授業持ち込みがOKになりました。

「担任の先生からは、授業の態度が変わった。母親からは、家でも授業の話をしてくれるようになり、デイジーを用いて読もうとする姿勢が現れてきた。」とのことでした。

そこで、私がテストをデイジー化しましょうか、と提案すると、是非、と言われました。
紙ベースだと、15/200点程度の得点が、デイジー化して提出すると、点数が115/200点と上がりました。読めばわかるのです。

4年生までは業者テストが、カラーでしっかりした活字で書かれていたが、5年生になると、手書きに近い業者テストです。
彼はほとんど読めない、なんとかして欲しいといってきたので、デイジー化しました。彼は理科が得意で、4年生3学期には、約6割ほどだった点数が、デイジー化すると9割近く取ることができるようになりました。

これは、5年生になってはじめて100点満点を取った算数のテストです。私のところに持って来てくれました。本人も非常にうれしそうでした。

これは、5年生の1年間をふりかえったもので、「楽しい」という字です。下に、「今年は楽しかった」と書いて、これも私のところに持って来てくれました。

業者テストの製作・再生の流れです。
「プレクストークプロデューサー」を用いて制作し、iPadの「いーリーダー」で再生していました。その場合、分節ごとに区切って提供していました。その後、句読点で区切って、提供しました。
来年度は中学校に行きますが、ほとんどの中学校はWindowsタブレットを使っています。中学校の先生方は、大体、テスト前日もしくは当日の朝にしかテスト問題ができないことがあるので、初めは、Windowsタブレットのアドオンソフトの和太鼓での再生を考えていましたが、最新のワードに対応していないこともあり、「よめるんです(OMELET)」で提供しています。
よめるんですは、大阪教育大学の仲矢先生がつくられたものです。今、よめるんですでワードでつくったものを入れて、彼にテストをやってもらっています。

活用を踏まえた今後の課題です。
子ども達の学習を保障するためにも合理的配慮に基づく教材等の提供が必要です。そして、製作者への負担軽減が大切です。効率的製作方法、分担方法の研究や、製作アプリケーションの機能の充実が必要です。
また、個別の指導計画・個別の教育支援計画へ記入して、実績を残すということも大切です。そして、教職員や友達の理解が必要だと感じました。
彼の夢なんですが、模型会社のタミヤに入りたいと言っていました。彼の夢ができるだけかなうように、少しでも力になれたらいいのかなと思っています。

2つ目の事例です。「合理的配慮に基づくデジタル教材を活用した知的・発達障害児に対する性教育の事業―男女共同参画の観点から-」です。私が、研究代表者になっています。

目的は知的・発達障害を有する児童・生徒への性教育への合理的配慮とは何か。また、その教材とは何か。知的・発達障害を有する児童・生徒への合理的配慮に基づいたマルチメディアデイジー化された性教育教材の開発ということで取り組みました。

大阪府八尾市においてアンケートをとりました。そこには、知的・発達障害を有する児童・生徒へ合理的配慮を実施している例は5割を切っている結果がありました。この現状を打開するため、現場の教師が試行錯誤しているのが現状でした。

マルチメディアデイジー化したのは、「わたしのはなし」と「おちんちんのえほん」と「あっ! そうなんだ! 性と生」の3冊です。そのうちの「わたしのはなし」という女の子用の性教育の本ですが、母親からご要望がありましてつくって提供しました。
たまたま新聞にも載りました。
この児童は母親と一緒に、「わたしのはなし」を読みながら自分が嫌なことをされそうになったら、「やめて」という言葉が初めて口から出てきたということで、母親に非常に喜んでいただきました。この新聞記事に載ったとき、いろんなところから問い合わせがありましたが、著作権の問題ですべてお断りしました。
この女の子にどういう支援をしたかをご紹介したいと思います。この子には、絵日記を描いてもらい、両親の声をICレコーダーにとっていただき、私がデイジー化しました。この子は知的障害で自閉症の女児で4年間支援をしていまして、月1回、父と母、本人の3人が私の研究室に来ます。
この児童は4年の間、いろいろ支援したところ、読みが、感情こめて読めるようになった、その事例を見ていただきたいと思います。動作を伴い、感情表現が豊かになって、読むことができる、ということで学生10人位にプレとポストを比較してもらいましたが、学生が言うには、自分たちよりもはるかにうまく読めるね、ということでした。 今、放課後デイサービスに行っており、そこで児童4~5人の前で、先生の代わりに紙芝居を読んでおります。成功した例の1つかな、と私は思っております。

今後の課題は、マルチメディアデイジーの啓発です。そして、マルチメディアデイジーで製作したものを著作権の問題なく利用希望の方にお届けするために、本学の図書館と連携して、国立国会図書館にアップすることを予定しています。後は、効率的なデジタル教材の製作と思っております。

これからが、平成29年度の文部科学省で、読み書きに困難のある児童生徒に対するマルチメディアデイジー教材に関する教材開発の話題で、小学校1、中学校2校に協力いただきました。

マルチメディアデイジー図書の教育上の課題として、その内容選定や、機能調整のための評価指標を作成されてないので、評価指標の作成が研究目的の1つ目です。2つ目は、マルチメディアデイジー図書活用後の学習評価方法の構築です。3つ目は、マルチメディアデイジーデイジー教材を活用するうえで、障害のない幼児児童生徒や保護者や教員の理解が進まないということで、理解、啓発のアニメーションをつくりましたので、見ていただきたいと思います。
ビデオはこのリンクをご覧ください
こんな紹介ビデオをつくりまして、ある小学校の5年生の1組から4組のクラスで、これを実践させてもらいました。たまたまそこの教室に、通級指導教室に行っている児童がいて、みんなから変な目で見られていたが、今日紹介してもらって、みんなにわかってもらえて非常にうれしいと言ってくれました。
もう一つ、保護者や教員の理解が進まないということですが、これについてもビデオを製作中です。どこかの学校あるいは学校の保護者会で実践できたらいいのかなと考えています。

文部科学省からは、マルチメディアデイジーはいいと言われるが、客観的なデータで評価できる評価方法の確立の依頼を受けました。
1つは、トビーのアイトラッカーをつかって視線追尾もしています。これが読み書き困難さのアセスメントの1つとして、導入前と導入後の変容を評価しています。

読み上げ文には横書きと縦書きがあります。分かち書き文と通常文があります。もちろん、これらは初見ですので、1つ前の教科書もしくは2つ前の教科書から学年相応の説明文の文章を取り出してつくったものです。
みんな見ていただくといいんですけれども、やはり分かち書きと通常文では、通常文では点の数がたくさんあるということで停留点が多い。私たちは3~5文字ぐらい先を、先へ先へと読んでいきます。
こんな感じで、停留点がどれだけあるのか、停留時間は平均どのくらいか。普通、停留点は前へ前へと読みますが、戻る、逆が何回あるかとか、「はい、読んでください」といってから、読むまでの時間を潜時と言いますが、その時間を測ったり、文章を最初から最後まで何秒かかって読んだか、読み誤り、飛ばし等、それらを、すべてチェックして評価しています。

音読及び視線の追尾検査ということで、1つは、停留時間で平均が出ています。単位はmsです。 パフォーマンススコアは、正解の文字数×読み時間分の正解の文字数。パフォーマンススコアが大きいほど、ちゃんと読めている、これを計算して評価しています。音読潜時はありますが、はい、読んでくださいと言ってから、読むまでの時間をはかって評価しています。
一般的に読みに困難のある子たちは、はい、読んでくださいと言ってから、しばらくしてから読む傾向が多いですね。
導入前、導入後で比較します。現在、導入後をまとめているところです。

2つ目は、標準読み書きスクリーニング検査で、STRAW-Rを使っています。 音読の流暢性ですが、単語のひらがな、カタカナ、その所要時間などから、とても低い、という評価になっています。非語もとても低いといった評価になっています。文章も同じように、とても低いという結果になっています。

もう一つ、STRAW-Rで読みの正確性もはかっています。
この方はカタカナがとても低い結果が出ています。

それ以外に中学生については、URAWSS-Englishを使っています。E→Jの正当数がゼロということは、何もできないということです。2番目の方は、20分の2です。
J→Eは、課題も正当数がゼロで、もう一方は、3/20で、とても英語が苦手な生徒です。英語が本当に苦手という生徒は、うつぶせて時間が過ぎるのを待っている。あるいは、固まったように全然鉛筆が動かない生徒たちが多いです。

それ以外に、URAWSSⅡもとっています。
書き課題、読み課題、内容理解問題があります。
DEM検査も、視線追尾のところでとるようにしています。

ATLANは、適応型言語検査で、本学の高橋先生が作られました。
語彙力がないと読めません。その言葉がわかれば、おそらくすっと読めたであろう。
ATLANにはいろんな検査がありますが、語彙力がどれくらいあるのか、語彙力を調べた上で、それの読みや理解への影響をとっています。
これも、わずか何か月かで、7~8か月くらいではっきりとは出にくいが、全員が前より良くなっている傾向があります。

自尊感情測定尺度、これは東京都版です。
この人の場合、自己主張・自己決定が1.29で低い。関係の中での自己も低い。一般に、読み書きに困難のある児童生徒は、この自尊感情測定尺度は、最初は結構低い児童生徒が多い傾向があります。先生方はこの結果を見て、日ごろ楽しくやっているのだけど、こんな自己評価をしていたのか、と驚かれる先生が多いですね。支援をして、ある程度読めるようになると、結構それぞれの評価が上がっております。

一部だけですが、デイジー機能調整ということで、文字の大きさ、行間の広さ、など、コメントを添えて、それぞれの児童、生徒さんの担当の先生にお知らせして、ということをやっております。
これは去年の女の子の場合で、非常に逐次読みの傾向が強い方です。最初は昨年の10月です(視線追尾動画)。自信が無いので声が非常に小さいんですね。次は、今年2月にとったものです(視線追尾動画)。こんな感じで、停留点の数も少なく、比較的、どういいましょうか、先へ先へ行っているかと思います。こんな感じで実際の視線がどういうふうに変容したのか、を評価し、本人にも、担当の先生にもお知らせしていることです。

事例1は、1文字ずつ逐次読みです。テストや問題文が読めなくて、止まってしまう。
お話しを時系列で、できるようになったことに、私もびっくりしているんですが、自信をもってがんばっている児童です。

事例2は、中学生の例ですが、「わたしと小鳥とすずと」を渡しました。
この男子生徒は暗記ができないので、先生は他の子にあてる。それではということで覚えていただき、最後に先生の前で立派に発表できたということで、最後には、Vサインを出してビデオに映っています。

事例3は、英語の読みに困難がある生徒です。提供されている教科書は、1文で読ませるところが多いんですね。そこで、1つずつ単語をハイライトをさせて、提供したんです。そして、1文で読ませる。
すると、非常に喜んでいただき、読める生徒が増えたということでした。
まだまだ読めない子がいる。どうしたかというと、英語にルビをつけて、と言われたんです。
そうして提供したら、読めるようになった、ということで、その子は、高校入試を控えて、3週間で単語を紙ベースでは60点しかとれませんでしたが、デイジーで提供したところ、最初単語、そのあとルビをつけて発音し、そのあと日本語を表示する、ということで提供した。
すると、2回聞いたらみんな覚えちゃって100点取って、高校受験に成功し、高校に行っています。お話を聞く限りでは、中間、期末は67点ぐらいとれて平均点よりも上だと、えらい頑張っているということを聞いています。

以上