基調講演「障害者の就労を巡って、今何が問われているのか」

栗原 久
(一財)フィールド・サポートem. 代表理事、日本福祉大学実務家教員、本大会実行委員長

 皆さま、第46回総合リハビリテーション研究大会にようこそ、おいでくださいました。
 私は本大会実行委員長の栗原久と申します。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。
 お手元にもパワーポイントを印刷したものがありますので、ご参照いただきながら話を聞いていただければと思っています。
 さて、私の基調講演のテーマは、「障害者の就労を巡って、今何が問われているのか」ですが、この後の鼎談「権利条約、就業支援ネットワークの視点から、大会 テー マを深める」、DPIの尾上浩二さん、全国就業ネットの酒井京子さんとの鼎談に繋がるもの、それから、今日の午後と明日の2日間にわたるシンポやセミナーに活かし ていただける内容をお話しできればと思っています。
 では、スライド2をご覧ください。
 戦後80年になろうとしている障害者福祉・労働法制の流れをスライド1枚にまとめました。
 上から福祉分野、国際動向、基本法等、そして今日のテーマである労働分野と4つに分けています。
 まず見ていただきたいのは、1960年の身体障害者雇用促進法ですが、上から矢印が出ていて、その矢印の元に1955年のILO第99号勧告というものがあ りま す。
 このことにも象徴されますが、我が国の福祉・労働法制度は、こうした国際的な動きと密接に関連があり、鼎談のテーマでもある障害者権利条約は、その最も重要 な一 つです。
 さて、その後順番に見ると、1976年には身体障害者の雇用義務化がスタートし、1987年には法律の名称が障害者雇用促進法に変わります。
 もともと身体だけに限定して法律ができたこと自体に問題があるのですが、同年には知的障害者を雇用した場合にも、身体障害者を雇用したことにみなして雇用率 に算 定となります。
 そして、その後、知的障害者の雇用の義務化、精神障害者の雇用率算定と続くわけですが、このあたりまでを、大きく楕円で囲んでいるのは、ここまでは雇用率、 量的 拡大の流れが主だったということを私なりに意味づけているからです。
 一方、今度は、国際動向を見てください。
 2006年に障害者権利条約が国連で採択され、日本は2007年に署名し、7年後に批准します。
 その間、国内法を整備するわけですが、2011年に障害者基本法が改正され、それを受け、2013年には差別解消法ができます。
 同時に雇用促進法も改正され、それぞれ差別の禁止と合理的配慮が義務化されます。
 この流れは、今度は右の方で、大きく楕円で囲んでいますが、雇用の対象の拡大、率のアップだけではない、質の向上が問われている時代に入ってきたことを意味 して います。
 そしてこの流れと併せて、2018年には精神障害者の雇用義務化がようやく行われ、その結果、法定雇用率が2026年には民間2.7%という大幅なアップと なり ます。
 そして、2022年の雇用促進法の改正では、「雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化」が規定されるというのが、ごく簡単にですが、日本における今日 まで の法制度の変遷です。
 スライド3は、今お話しした差別解消法をまとめたもので、不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供が禁止されます。
 差別解消法で一番のポイントとなるのは障害の社会モデルに基づく、社会的障壁の除去です。社会モデルというのは、絵を見てください。
 Aの絵では車椅子利用者が2階に行きたいのに階段しかない、Bではエレベーターがあるという違いがあります。
 Bはエレベーターがある。どちらが便利かというとBですよね。
 車椅子利用者の状況は、AもBも同じです。
 何が違うかというと、ビルの構造です。つまり、社会のあり方です。
 社会モデルに基づいて社会的障壁を除去していく。
 その中で合理的配慮が非常に重要になってきます。
 ところで、ここ千里中央も、1970年の大阪万博のころに開けたのでバリアだらけなんですよ。
 総合司会の六條さんと一緒に事前に経路のチェックもしたんですけど、今後、千里中央も再開発されるそうなので、社会モデルに基づいた街づくりをしてほしいと 思っ ています。
 社会モデルについて一言触れておくと、人権モデルというものも国連の権利条約関係で新たに唱えられています。
 一方、別の重要なモデルとしてICF、国際生活機能分類があります。
 今日、明日といろんな演者から紹介されると思いますが、これも重要です。
 環境因子と個人因子双方からのアプローチをして、活動や参加をはじめ生活機能全体をとらえようとするICFも、具体的な支援に向けたアセスメントツールとし て特 に重要なことは言うまでもありません。
 スライド4は、差別解消法があって、それと連動して雇用促進法が改正されたことをまとめています。
 差別解消法では雇用関係の部分は含んでいないのです。
 職場で働く障害のある人の合理的配慮は、差別解消法ではなく雇用促進法になります。
 大事なのは募集及び採用時と採用後の2つのステージで、差別の禁止と合理的配慮の提供が義務化されていることです。
 「うちは障害者を一人も雇ってないから合理的配慮は必要ない」という誤解があるんですが、そうではない。
 面接に来られた方に対して、社員でない段階で面接するときから、差別の禁止や合理的配慮の提供が義務化されている。
 ここが大事なポイントです。
 そして、合理的配慮の提供では、職場での相談や話し合いが大事です。
 これがしっかりなされないと、いくら法律があっても、質の高い雇用はされていかない。
 このことも強調したいと思います。
 さて、次にスライド5をご覧ください。
 数字だらけでかなわんなというページだと思います。
 なぜかというと、3つの統計を凝縮して、ポイントを書いているからです。
 5年に1回の実態調査、毎年6月1日現在の雇用状況、そしてハローワークからの職業紹介状況の3つです。
 これをどう見るか。
 従業員5人以上の民間事業所に110万7,000人の障害者が働いていると推計値が出ています。
 5年前から25万人以上の増です。
 その下の帯グラフは、従業員43.5人以上、つまり法定雇用率適用規模以上の民間企業で働く障害者の実人数で約53万5,000人です。
 単純に見ると、110万と53万は、ちょうど半分です。
 つまり、働く障害者の半数が、雇用率適用規模未満の小規模な事業所で働いているということです。ただ、従業員4人以下、あるいは自営はここには含まれていま せ ん。
 一方、もう1つは、公的機関ですが、大体7万人ぐらいの障害者が国や地方公共団体で働いています。
 こうして見ると、民間の数値にはA型も含まれていますが、大体全国で110万、もう少し多いぐらいの障害のある人が働いている。そのうち半分以上が小規模な とこ ろで働いていることが分かります。
 さらには、この間の状況で非常に特徴的なのが、精神障害のある人の雇用の増加です。雇用率適用規模以上では前年比18.7%増加しており、この間の統計でも 増え ています。
 ハローワークからの紹介行為を受けた就職件数もほかと比べて突出していることがわかります。
 一方、障害のある人の賃金は、身体、知的、精神、発達と数字をあげていますが、一般労働者よりはかなり低くなっています。
 これが大体大まかですが、障害者雇用の3つの統計から、エッセンスを抽出すると、こんなことがわかると思います。
 次が福祉的就労の話です。スライド6です。
 相変わらず数字が続きますが、お付き合いいただきたいと思います。
 この表は、一番上が一般就労、下には在宅や病院での入院、進学など。
 左側から学校を出た後に障害のある人がどういうふうに進んでいるかを表しています。
 それぞれ一般就労と福祉サービスの間に①という両矢印があり、さらには福祉サービスと在宅の間には②の両矢印、また一般就労と在宅の間には③という両矢印が ある ように流動的であることをおさえておきたいと思います。さらに、ご承知のとおり、福祉サービスの中には障害者就労継続支援A型(雇用型)とB型(非雇用型)があり ます。
 箇所数は書いてあるとおりですが、それぞれ増加しています。
 このあたりをどう見るかは、鼎談で酒井さんからも話があると思います。
 一方で、特別支援学校からの就職者は毎年6,000人くらい。
 障害福祉サービスに進む人が1万2,000人。
 この数字も知っておいていただくと、明日のシンポ2を聞く上でも、内容がイメージできると思います。
 数字の話はこれぐらいにして、スライド7にいきます。ここでは、国連の障害者権利委員会の総括所見、一般意見についてとあります。
 いきなり国連の権利委員会と言いましたが、前提となる話は、鼎談で尾上さんからお話しいただきます。
 私は障害者雇用に絞ってお話しします。
 まず、総括所見、スライド7で何を言っているか。
 民間および公的部門における開かれた労働市場への移行の迅速化を努力しなさいと。
 福祉的な作業所から一般就労への移行をどんどんしなさいと言っています。
 異論がある人は少ないと思います。ただ、大きく考えることが2つあります。
 1つは福祉サービスの作業所のこと。
 もう1つは、移行先の一般就労のあり方です。
 まず福祉サービスを考える上でも、次のスライド8を見てみます。ここは、国連が出している一般的意見から抜粋をしたものです。
 そもそも、一般的意見では、このように言っています。
 一番上、労働の権利は、他の人権を実現するために不可欠な基本的権利であり、人間の尊厳と不可分かつ固有の部分を形成する、という格調高い文章に出会いま す。
 その上で、先ほど福祉的就労、作業所から一般就労にどんどん移行してくださいと言っているのですが、一方で、下に太文字のところ、このように書いてありま す。
 共同所有され民主的に管理されているものを含め、障害者によって運営され主導されている雇用事業は、他の者と平等に公正かつ良好な労働条件を提供する場合、 分離 された雇用と見なしてはならない。
 難しい文章ですが、こういうことです。
 作業所から一般企業へどんどん移っていってください。
 ただし、その作業所を障害当事者が主体になって運営していて、民主的にしっかり運営されているものは、決して分離ではないと言っています。
 この文言をどう解釈するか。
 あるいはどう実現するかは、これから議論が必要です。
 しかし、日本における、あるいは国際的な作業所のあり方を考えていく上でも、とても示唆に富む内容だと思います。
 課題の2点目は、一般就労のあり方です。
 国連の権利条約の総括所見では、開かれた労働市場という言い方をよくします。
 つまり、分離された作業所ではなく、開かれた、一般企業などの労働市場へどんどん移行してくださいと言っています。
 ただ、開かれた労働市場は本当に開かれていますか? というのが大きな課題です。
 佐藤久夫先生はこのように言われています。
 開かれた労働市場が開かれていなかったために、シェルタードワークショップ、作業所が作られたのだと。
 作業所は分離だと言われてしまうと、確かに言われてもしょうがない作業所もありますけど、一方でより支援が必要な障害のある人が働く場、さらには、地域での 拠 点、またいったん一般企業でうまくいかなかった方がリフレッシュするための場であるなど、作業所は多様な意義も持っていると思います。
 このあたりは明日のセミナー1でもいろいろと問題提起をしてもらえると思っています。
 次にスライド9です。
 ここでは、相次いで指摘されている雇用の質、支援の質ということで、これまでは、国連、国連と言ってきて、国際的な話をしてきました。
 このスライドは国内の話です。
 国内でも、企業の雇用の質や、また逆に支援するスタッフの支援の質の問題が、この間議論されてきています。
 細かいところは見ませんが、とても刺激的な内容を、国の審議会でも出しています。
 「障害者雇用率の達成が目的となり質の確保が不十分となっている側面」としっかり書いているんです。
 雇用率は大事だと、企業も頑張るし行政も指導するんですが、それだけでは違いますよと問うているということは大事です。
 しかし問われているのは企業だけではありません。
 支援する側も同時に問われています。
 十分議論をしないと、2026年7月には大幅に障害者雇用率が上がるんです。
 雇用の質を問わず数合わせにだけ走る。
 そんなことにならないためにも議論が必要だと思っています。
 スライド10です。
 この間の障害者雇用を取り巻く特徴的な動きや情勢として、(1)雇用の質が問われている象徴的な出来事をあげています。
 一つにはご存じの方も多いと思いますが、いわゆる「障害者雇用率ビジネス」です。
 詳しくは、鼎談の酒井さんに委ねてしまう部分もありますが。
 要は、企業が自分のところで障害者を雇わなければいけないけど、うまくいかない。そこで雇用率ビジネスといわれるようなところがいくつもの会社から障害のあ る人 を引き受けて、農園で何社分ものブースを作って、そこで働いてもらう状況が実際に生まれています。
 賛否両論なんです。
 違法ではありません。
 しかし、果たしてどうなのか。
 企業で共に働かない、そういうあり方がどうなのか、とても議論になっています。
 私は、施設コンフリクトに近いと書いていますが、厳しい言い方ですが、こんな意味です。
 「グループホームも施設も大事ですが、自分の隣には来ないでください。」
 これが施設コンフリクトの本質です。自分のところには来ないでほしい、どこかでやっておいてくれとなっていないか。
 こういった施設コンフリクトに近いものを、私は「障害者雇用率ビジネス」に感じています。
 ところで、今、農園と言いましたが、農福連携という農業と福祉の連携の中には卓越したすぐれた実践もたくさんありますが、その話と雇用率ビジネスは直接関係 あり ません。
 ただ、農園スタイルとして行っているところが多いので、どうしても農園がよく例になります。
 次に②。
 いわゆる「悪しきA型」についてです。
 A型事業所というのは、そこでの生産活動、障害のある人が生み出した利益から賃金を払っていくべきなのですが、それがなかなかうまくいかない。
 そこで、国からのスタッフに対する報酬、いわゆる補助金を障害者の賃金に回している。
 これはよくないですよということです。
 この悪しきA型というのは、本当に悪質なところも出てきています。
 例えば、明らかな不正を働いたり、障害者が働いてないのに働いているようにごまかしたり。
 とんでもない悪しきA型もあるんですが、一方で、なかなか本来のあり方、つまり障害のある人が働いて生み出したもので賃金をうまく充当していくことを、半数 のA 型ではできていないんです。
 これは国の制度設計に問題があると思います。
 半分以上が、頑張ってもできない制度というのは何なんだろう。
 これも考えていかなければなりません。
 雇用率ビジネスと悪しきA型と言いました。
 問われていること、つまり、ともに働くことのあり方や、仕事を作り出していくことですが、雇用率ビジネスや悪しきA型だけが問われているのか。
 そうではないのではないか。
 一般企業も含めて問われている。これをおさえておきたいと思います。
  ここには働く意義として、「生活の糧を得る」意義、「他者との人間関係の豊富化」の意義、「自己実現」の意義、「生活リズム・体調維持」の意義と書きました。
 多様な意義があると思います。
 このあたりをしっかりおさえていく必要があると思います。
 もう一つは多様な働き方について触れます。
 いわゆる短時間雇用の問題や川崎市と東大が連携した超短時間雇用のモデル、就労と日中系の福祉サービスを両方利用できる話、また、介護を利用しながら働くあ り 方、障害者とは直接限定しませんが生活困窮者の自立支援など、新たな動きがたくさん出てきています。
 これらも障害のある人の働く場を広げる示唆になるだろうと思います。
 さらには、滋賀県や大阪府箕面市などの第三の道の動き。
 私は箕面市で働いていましたが、箕面市は市としての取り組みが時代よりも30年くらい早かったという気がします。こういった動きが今後どうなっていくかも注 目し ていきたいと思っています。
 次に、スライド11です。
 この間の障害者雇用の情勢を語るにあたって、能登半島地震がもたらした影響に触れないわけにはいきません。
 日本障害フォーラム(JDF)が能登半島地震支援センターを開設し、1週間交代で全国各地から支援者が入って、B型などの支援や個別の自宅の片付けを行って いま す。
 私も短い期間でしたが、関わらせてもらいました。精神障害のある方をはじめ、地震後、ひとり住まいなので誰も手伝いがなく、本当にたいへんな状況の方がまだ まだ おられます。
 同時に、事業所も大変な状況なんです。
 そのあたりを②のきょうされんや、ゆめ風基金の情報からということで引用しています。
 日常を取り戻す上で、利用者が仕事を奪われている状況では、体調維持も含めて非常に厳しい状況。
 また、能登半島は観光地域でもあります。
 観光とタイアップしてマッサージ師として働いていた視覚障害のある方が仕事を失ってしまう状況も生まれています。
 一方、石川職業センターや県内の就業・生活支援センターに電話取材をしました。
 聞いたのは9月です。
 とにかく生活基盤の立て直しに必死なんだと。
 旅館での仕事を失うと、旅館の社員寮にも住めなくなって、住む場所さえないんだということです。
 まだ失業給付が出ているけれど、切れる12月ぐらいから就労問題が本格的に浮き彫りになるとも。
 一方で実習先も少なくなりましたねと言いましたら、ただ全国の人が能登の食品を応援で買ってくれるので食品工場は忙しくなっていて、実習受け入れは進んでい るん ですと。
 どんどん買った方がいいですねという話もしました。
 しかし、その後能登半島を豪雨と河川の氾濫が襲ったことはご承知と思います。現在もそれを踏まえてJDFの支援センターでは継続した支援が続いています。
 次に、スライド12です。
 この場を借りて私もJDFの能登半島地震支援センターに関わった一人として、皆さんにお願いしたいことがありまして、2つのホームページを紹介しています。
 JDF災害総合支援本部というのが、「やわやわと」(ゆっくりとという意味ですが)というニュースレターをホームページで公開しています。
 結構リアルにどんな支援をしているかが、1週間ごと、あるいは毎日の日報がそのまま出ていますので、ご覧いただきたいと思います。
 もう1つは、私が訪問した作業所では、精神障害のある方が自家焙煎のコーヒーの選別などをしていて、とてもおいしい味になっています。ほかにもそういった ホーム ページはありますが、代表の1つとしてきょうされんさんのTOMO市場もご覧ください。
 次は、スライド13です。
 この大会は、総合リハビリテーション研究大会と言いますが、総合リハビリテーションって何でしょう。
 改めて、総合リハ研究大会常任委員会の顧問の上田敏先生の文章を引用させていただいていますのと*)、去年の大会で総合リハビリテーションについて、横浜市 総合 リハビリテーションセンターの高岡徹センター長さんが話されたことをまとめています。私が思うのは、総合リハのリハは、もちろん機能回復訓練もその1つですが、そ こに限定しないこと。
 そして、当事者を中心とした同時期の多職種連携だけでなく、長いスパンで続けること。
 今日明日の話の参考にしていただければと思います。
 
*) 当日映写・配布した上田敏先生の文章は、「総合リハビリテーションの新生-当事者中心の「全人間的復権」をめざして. 2011.
 https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/seminar20110930_riha/ueda.html」
 中の、3か所から転載させて頂いたものですが、それぞれの転載箇所の間に、(中略)と記載できていなかったことをお詫びして、訂正申し上げます。また、ぜ ひ、上 田先生の上記の全文をお読み頂けますよう、併せてお願い申し上げます。
 
 そして、スライド14です。
 終盤ですが、近未来に向けて、身近な話を紹介します。
 ①は、国助成金の大幅拡充です。
 ノウハウを持った企業が他の企業の相談に乗ったとき、そこに助成金が出る制度もつくられていて、これがうまくまわるといいなと思っています。
 ②は福祉サービスの報酬改定。
 高次脳機能障害者支援体制加算や、放課後デイの自立サポート加算など、今回の大会に密接に関わりのある加算がこの4月からスタートしたことに注目し、うまく 活用 できるようになっていきたいと思っています。
 ③は就労選択支援ですが、来年10月、ちょうど今頃というか、もう少し前からスタートします。
 これは、障害のある人が、就労先や働き方についてより良い選択ができるように、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望などに合った選択ができるよう な サービスです。
 非常に書いてあることは素晴らしいですが、でも、本当にこれがうまくいくのか。これは私だけではなく、おそらく大半の関係者は心配しながら、何とかうまくい きた いという思いを持っていると思います。
 ここで、私は3つの視点を申し上げます。
 1つ目はアセスメント、障害のある人と支援者が協同アセスメントをする、その際の意思決定支援のあり方。
 2つ目には、企業でどんな合理的配慮をしているかを、アセスメントをするスタッフが知らないと意味がありません。
 相談支援の事業者が、まだまだ就労に弱いと言われていて、ここも課題です。
 3つ目は、障害のある人のアセスメント、その人の能力や適性などを、いろいろやり取りしたり作業などを通して把握していくのですが、それはもちろん、そこで のい ろんな作業や面接も大事ですが、その方に関わる医療や教育関係者とのやりとり、それも含めてまさに総合リハの視点でトータルにアセスメントを考えないと、非常に狭 いものになると、懸念しています。
 次に④、AI等について、雇用支援機構から出ている報告書を紹介しています。AI以外のデジタル化も含めて出ていますが、示唆に富む研究です。
 もう少しお話をします。
 過去の経験から私が話したいのは、平成8年ですから、ずいぶん前、二十何年前ですが、箕面で、障害者雇用支援センターを開設した頃には、当時はまだ基礎自治 体、 つまり市町村が障害者雇用に乗り出すのはめずらしい時代でした。
 人口10万でできるのかと言われました。そこで箕面市役所も私たちも一体となって、ここで私たちがこけたら、日本における地域の障害者雇用がこけるぞ、ぐら いの 不遜というか、思い上がりだと思いますが、そういう覚悟で臨んだものでした。
 そして、人口10万で初めて指定されました。
 箕面市は人口13万ですが、ここでこけるわけにいかない。もちろん、就労の制度は、障害のある人の人生にとっても重要な意味を持ちます。
 先ほどの雇用率ビジネスなどを見ていると、障害のある人の就労支援への覚悟について、ビジネスが悪いとは言いませんが、こういったビジネス的な手法がどうな の か、疑問に思うところです。
 ②の「地域障害者雇用支援ネットワークに関する研究会」は、当時は労働省の時代でしたが、私もそこの委員として、箕面での実践を話すことができました。
 このことを書いたのは、会議の場であったかどうかは定かではありませんが、これから就業・生活支援センター(当時は、その前段階の制度でしたが)を作ってい く上 で、どういう指定基準を作るかという話題の中で、私はこのように申し上げました。ハードルは高くすべきだと。
 つまり一度も実習したことのない法人が指定をとってもうまくいかない、ハードルは高くすべきだと。
 しかしA型事業所を見ると、とんでもないものがいっぱいできています。基準は良い意味でハードルを高くすべきです。また、事業所をサポートすることも大事で す。
 そして(3)ですが、短時間雇用も含めて、多様な働き方は、労働と福祉の連携という、総合リハビリテーションの視点からも捉え返せます。
 総合リハの地道な取り組みは、雇用の質や支援の質を獲得するヒントに間違いなくなります。
 どうしたら、雇用や支援の質を高められるか。
 即効薬はありません。むしろ、就労や福祉の関係者が意識して連携、その部分をしっかりと医療や教育や当事者たちと作り上げ、検証することがとても大事です。
 今日・明日のシンポはとても重要であり、近未来に向けた議論に期待したいと思います。
 最後に、スライド15は私の作ったモデルです。
 私は30年前に水槽モデルを考えました。
 当時は障害のある人が力を伸ばして就労することが、第一義に必要だった時代です。
 しかし私は、障害者の力だけでなく、企業の力と、障害者と企業を応援する地域の力も高めないとうまくいかないと、僭越ながら、30年前に言っていました。
 当時はまだパソコンなどなく、模造紙に書いていろいろなところに発表していましたが、いったいこいつは何を言っているのかと思われた時代でした。
 ただ、ようやく最近これもいろいろなところで使っていただき、大変ありがたいなと思います。
 地域の力の要素としては、医療や教育との連携を30年前に書いています。
 自分の原点は総合リハビリテーションとは言わないが、近いものだったのではないか。
 その縁で今日は話をしているのかなと、そんな感慨を持って、今日は話しました。
 大変、駆け足で、かつ雑ぱくで申し訳ありませんでした。終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

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