鼎談「権利条約、就業支援ネットワークの視点から、大会テーマを深める」

尾上 浩二 認定NPO法人DPI日本会議 副議長
酒井 京子 全国就業支援ネットワーク能力開発施設部会 部会長、
      大阪市職業リハビリテーションセンター 所長
栗原 久  (一財)フィールド・サポートem. 代表理事、日本福祉大学実務家教員、本大会実行委員長

栗原/鼎談に移ります。
 流れを簡単に言います。
 まずお二人にご説明いただき、3人で鼎談します。
 最後に、会場を交えて意見交換しながらまとめに入ります。12時が目標です。
 
尾上/おはようございます。
 ご紹介いただきましたDPI、障害者インターナショナルの略ですが、DPI日本会議副議長の尾上です。
 「近未来のために」というテーマでその近未来に向けて、障害者権利条約、総括所見の視点からということで話題提供をさせていただきます。
 先ほど基調講演で障害者権利委員会の総括所見の中で、労働、27条に関して紹介されました。
 その前提になる経過や総括所見全体の基調的な流れを説明させていただきます。
 障害者権利条約は2006年12月に国連総会で採択されました。
 それまで2002年から2006年まで8回にわたる特別委員会が国連の場で開催されました。
 その特別委員会のたびに世界中から障害者が集まり、オブザーバーとして参加しているわけですが、この特別委員会がユニークだったのはオブザーバーの障害者にも発 言する機会が与えられたことです。
 そのときの共通のスローガンは、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」、「Nothing about us without us!」です。
 このようにたくさんの障害者が参画をして作った障害者権利条約。これが2006年12月に採択されました。
 さらに日本では2007年に署名をしました。
 障害者権利条約の前文の構造、ご存じの方にとっては当たり前かも知れませんが、紹介します。
 まず前文というものがあって、障害の概念は発展するとか。
 あるいは第1条から第9条に総則が書かれています。
 さらに第10条から13条が個別の分野の規定。
 例えば労働は27条、教育は24条、自立生活は19条です。
 「私たち抜きに私たちのことを決めないで」が障害者権利条約のスローガンですが、実施規定も非常にユニークです。
 国内での実施状況を監視する、そのモニタリングプロセスに障害者当事者が参画できるようにしなさいということとか、国際的なモニタリングの仕組みも設けられてい ます。
 そして障害者権利条約が求めているもの、大きな枠組みに転換していく、これをパラダイムシフトと言いますが、大きく2つのパラダイムシフトが求められているわけ です。
 1つは保護の客体から権利の主体へ。
 これまで障害のある人は、自分で自分のことは決められないだろうから周りで決めてあげてあてがってあげるのがその人にとっていいんだという、保護の客体という考 え方。
 そうではなくて障害のない人と同様に権利の主体であるということ。
 そして2つ目、障害のある人の個人、医学的な障害が問題だという、医学モデルから、そうではなく、社会モデル、社会による障壁、障害者の人権を保障してこなかっ た社会が問題だという、社会モデル、人権モデルへの転換。
 この2つのパラダイムシフトを実現するためにいくつものキーワードがあります。
 その中のいくつかを紹介します。
 合理的配慮と障害者差別の禁止。
 合理的配慮を提供しないことも差別に含まれるという定義。
 自律、自分らしくというオートノミー(自律)ということと、自己決定を尊重するということ。
 社会への参加とインクルージョン。
 地域生活への権利。
 当事者の参画。
 こういった障害者権利条約を批准するために日本では障害者制度改革ということが取り組まれました。
 2010年から障がい者制度改革推進会議が設置され、そこで議論されたうえで、2011年に障害者基本法の改正、そして2012年に障害者総合支援法の制定、そ して2013年に障害者差別解消法、雇用促進法の改正が実現しました。
 これらの一定の法律の制定を待って、ようやく2014年に障害者権利条約が批准されたという流れになります。
 そして、批准して終わりではなく、批准はスタートなんです。
 国際的な障害者権利条約の監視の流れ、仕組みを書いている図です。
 一番上の批准が日本では2014年。
 図の9時のところに、双方向の建設的対話。政府代表団と権利委員会による建設的対話。
 国連のもとに障害者権利委員会が設置されていて、そこの審査を受ける仕組みになっています。
 総括所見、勧告を受けて、さらに前進していく。
 ぐるぐる回って前進していくのが権利条約の仕組みです。
 この写真は、2022年8月に、ジュネーブで開催された日本の審査です。
 私も多くの仲間とともに、ジュネーブの場に参加しました。
 その結果、画期的な総括所見が出されました。
 これは共同通信の配信ですが、分離教育を中止しなさい、精神の強制医療を廃止しなさいという見出しで報じられました。
 日本への総括所見の特徴を見ます。
 全文75のパラグラフからなっていて、18ページ、非常に詳細です。
 18ページが多いのか少ないのか、パッと聴いてわからないと思います。
 ほかの国は大体8ページ、一番多い国で12ページくらいです。
 日本の総括所見は多分最長だったということです。
 脱施設やインクルーシブ教育をはじめ、政府や関係者にとって厳しい勧告が多いですが、でもなで切りにしているわけではなく、肯定的側面もしっかりとおさえていま す。例えば、障害者差別解消法を制定した、あるいは障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法を制定した。あるいは、条約のモニター機関として、 障害者政策委員会を設置した。これらは肯定的な側面として認めています。
 でも、一方で、権利条約の1から33条、すべての条文に関して、懸念と勧告が出されました。
 それだけ日本は課題が山積みだと見られたんです。
 おそらく、総括所見を初めて見ると、驚くというか、今まで日本がやってきたことを全否定されたかのような感じすら受ける項目があったりします。
 でも、勘違いされないようにしてください。総括所見は、目指すべきビジョン、登るべき山についてはっきり言っているのです。
 分離教育を中止して、インクルーシブ教育を進めてください、これが登るべき山なんです。
 いきなり実現はできないので、そのために、こういったことを順を追って進めてくださいと。
 登るべき山をはっきり示した上で、その頂への道筋を示しているのが日本の総括所見の特徴です。
 特に緊急措置をとるべき課題と言われたのが、精神病院も含めた脱施設、そしてインクルーシブ教育。この2つは繋がっている。
 小さいときから分けられたら、大人になってからともに暮らすのは難しくなる。インクルーシブ教育はインクルーシブ社会の礎(いしずえ)だということです。
 そして医学モデル、パターナリズムから人権モデルにしてください。
 この医学モデルに加えてパターナリズム批判は、日本は分けた上で手厚く、誰も疑問を持たずにやってきた、日本流対応への根本的問い掛けをしていると思いました。
 27条の総括所見を読み解く前提として、一般的原則と義務という1条から4条の総論的部分、その懸念と勧告について紹介したいと思います。
 日本の法律や政策は、権利条約の人権モデルと調和しておらず、父権主義、すなわちパターナリズムを永続している。
 あるいは、医学的な評価、医学モデルに基づく障害評価を続けていることを受け、障害者団体と密接な協議の上で、この権利条約、人権モデルと調和させるように法律 制度を変えなさいということ。障害の認定の制度を、障害の医学モデルを排除して、人権モデル、社会モデルに変えなさいと言っています。
 さらに、優生思想を克服し、関係者にちゃんと研修をしなさいと言っています。
 総括所見の9(b)では、相模原の殺傷事件が起きたけれども、それが総括されていない。
 さらに、障害者にかかる専門家、司法や裁判の専門家、政策決定に関わる人、教員、保健医療関係者、建築設計関係者、ソーシャルワーカー、その他障害者に関わる専 門家の間でこの条約において認められている権利の認識が限定的だと。
 そのことを踏まえて、優生思想と戦うという観点から、津久井やまゆり事件が起きるまで優生思想を広めた法的責任を確保しなさいと。これは優生保護法の裁判でも問 われました。
 さらに障害者団体の緊密な関与により、司法および裁判部門の専門家、政策関係者、保健医療関係者、ソーシャルワーカー、その他障害者にかかる専門家に対して、権 利条約が理解されるような組織的な能力構築計画、プログラムを提供しなさいと言っています。
 総括所見全体を通じて言えるのは、分離に慣れ親しんだ日本の社会を根本から問うているということです。
 どの分野の人だけに対してというよりは、全ての分野に対してです。
 脱施設やインクルーシブ教育が、緊急課題になったのは、分離に慣れ親しんできた日本社会を大きく変えてくださいということです。
 総括所見をぜひ転換点にして、「分離した上で手厚く」と進められてきた日本流対応の根本的な捉えなおしの機会にできればと思います。
 長年日本でやってきたことが変わるのかと思われるかもしれません。
 実はアメリカでも1954年までは分離教育が当たり前だったんです。公立学校の中で、白人学校と黒人学校を堂々と分けていた。でも、これがブラウン判決で分離は 差別であると、それまでは「分離すれども平等」と言われていたのに、「分離は差別」だと言われ、それから10年経って、公民権法ができて、変わってきました。
 今、日本は分離した上で手厚くをずっと続けて来ました。
 これを分離せず、合理的配慮と必要な支援を、今やっている合理的配慮と必要な支援をもっと手厚くしていけば、インクルーシブな社会にできるのではないか。
 これを2020年代中に転換できればと期待しています。
 「近未来を」とのタイトルに引きつけて鼎談で語り合っていければと、話題提供をしました。
 ご清聴ありがとうございました。
 
栗原/尾上さん、ありがとうございます。
 ご紹介のところで、「DPI日本会議副議長」を抜かしてしまってすみません。
 後で質問しますが、私の講演で抜けていたところがありました。
 優生保護法をめぐる動きに関して、これが違憲であると最高裁判決が出たことや、その後の国会での謝罪決議について、研究大会の藤井克徳常任副委員長から、ミニ学 習会の形で実行委員会の場で情報共有していただき、学んできたことを補足します。
 続いて酒井京子さんから15分でお願いします。
 酒井さんは、全国就業支援ネットワークの理事として、あるいは大阪市職業リハビリテーションセンターの所長としてご活躍をされています。
 
酒井/ご紹介いただいた、全国就業支援ネットワークの酒井と申します。
 私は普段は大阪市職業リハビリテーションセンターという施設で仕事をしています。
 能力開発施設という職業訓練をする施設なんですが、全国にたった11か所しかありません。
 就労移行が全国に3,000か所くらいあって、2年間かけて就労準備をしますが能力開発施設は基本的には1年間かけて準備をします。国公立の職業訓練校を合わせ ても30か所です。
 全国就業支援ネットワークというのは、主にナカポツセンターが会員の構成員ではありますが、その中に就労移行やAB型事業所が所属する移行支援部会と私が所属し ている能力開発部会というのがあって、その立場でセミナーに参加しています。
 今回46回ということで、冒頭の寺島氏の挨拶にもありましたが、22年前の第24回大会もここ大阪で開催しました。
 そのとき私も参加していました。
 そのときのテーマもやはり就労でした。
 働くこと、働き続けること、現場主義というサブタイトルがあって、職業リハビリテーションの熱い議論をたたかわせておられたのを今でも記憶しています。
 あれから22年。この間、権利条約が採択されたりと、障害のある人を取り巻く環境はすごく大きく変わりました。
 特に就労支援の現場に行くと、この20年間で変わっていますし、ここ3~4年はすごく大きな変化があると感じています。
 今まさしく就労支援も転換点、潮目が変わるときかなと感じています。
 だからこそ、これからいい方に向かうのか、悪しき方向に向かうのかは、現場にいる者の責任が問われると改めて感じています。
 お手元の資料を見ていただければと思います。2枚目です。
 ここ3~4年ぐらい就労支援は大きな動きがあるのですが、そのきっかけの1つとして2020年に雇用と福祉の連携強化の検討会が立ち上がりました。
 日本社会において社会保障が行き詰まっていく中、持続可能な社会にするためにはどうすべきかということで、障害だけでなく高齢者の働くことや、就職氷河期世代の 就労支援をどうするかなど、いくつかのプロジェクトが立ち上がった中で、障害のある人の働くことを考えるプロジェクトチームが立ち上がりました。
 権利条約でいうところの社会参加とインクルージョンについて、就労の角度からいろいろ議論されました。
 就労部分のプロジェクトワーキングチームには3つのワーキンググループがあり、1つは就労支援を担う人材育成です。
 就労支援だけでなく、福祉の分野はどこも人材不足、確保に苦慮していますが、その中でも福祉に携わる人の中で就労支援にかかわる人材育成、あるいは就労支援分野 のステータスやブランディングをどうするのか、話し合われるグループです。
 2つ目はアセスメントです。
 障害のある人が働きたいと思ったときに、その人が適切な場所に身を置いているのか、改めて考える。
 このワーキンググループの中から就労選択支援事業につながる議論がなされています。
 3つ目は就労支援の制度体系の在り方を考えるものです。
 次のスライドを見ていただくと、検討会の結果、基本的な考え方として整理されたものが「就労支援における基本的な考え方について」のスライドです。
 障害のある人が働くことを支えるときにさまざまな立場の人がいます。
 今回、総合リハビリテーション大会においても、医療の立場、教育の立場、普段、就労支援の現場の方、就労支援以外で支援者でいる方、あるいは企業で雇用している 側の方、いろんな立場の人がいます。
 立場がちがうとベースになるプラットフォームが違ってしまって視点が違うということになりがちですが、そこの視点を確認するということで基本的な考え方が出され ました。
 1つは、本人が希望する働き方を第一に考えるということです。
 そのために個々のニーズを把握するよう努めるということと、常に一般就労の可能性を図りつつ、それを希望する人については実現に向けて関係者が最大限努力する、 それを共通のプラットフォームとして確認されたことを見ておきたいと思います。
 続いて、ここからは障害者雇用と就労支援の現状について見ていきます。
 栗原さんの基調講演の中でも、雇用の質、支援の質、両方の質が問われる段階に入っているという話がありました。
 今、障害者雇用は、どんどん広がりを見せています。
 労働力人口が全体的に減少する中、労働者の担い手としての障害のある人が働くこと、活躍するということが期待されています。
 障害者雇用がどんどん拡大している中には、雇用率の段階的な引き上げが一番大きくかかわってくると思います。
 実感としては広がっているけれども、薄まっている。
 働く人が増えてはいるけれども、じゃあ、本当にその人が自分の力を発揮した働き方ができているかは、疑問に思われることもあります。
 ただ雇用すればいいとか、ただ働けばいいということではなくて、その人の力が働くことを通して、社会に向かって発揮できるという働き方になっているか。
 私のセンターは来年で40周年です。
 1,500人ぐらいの人が職業訓練を受けて社会に巣立っていって職業人として働いています。最初は知的と身体だけでしたが、今は、精神、発達すべての方を対象に 職業訓練を行っています。
 初期の人たちは30年選手です。さすがに40年選手は次の段階に向かっている人が多いです。
 重度の方でコミュニケーションが難しい方や、脳性麻痺で心身障害がある方とか、さまざまな方が利用されていました。
 自閉の方でコミュニケーションが難しい方がいたんですが、修了生の会として、定期的に修了生がくるというイベントがあって、当時、養護学校を出てうちで1年間訓 練を受けて就職した人はよく来てくれます。
 いつも帰るとき「仕事がんばる」と一言言っていきます。
 自分の仕事に誇りを持っていることが伝わってきます。彼だけでなく、自分の仕事に誇りを持っている人が何人もいます。
 そういう誇りを持てる働き方が広がるようにするには、どうしたらいいか、普段いろんな雇用場面も見ながら思っています。
 次のスライドはデータです。
 障害者雇用が広がっているということで、この棒グラフはよく見られると思います。右肩上がりです。過去最高を更新しています。
 雇用率が上がって、労働市場からこれまで排除されてきた人が雇用率の枠に入って、雇用の現場に移るというのはプラスの面として喜ばしいことではあります。
 ずっと伝えているように、質、働き方が問われる段階になっていると思います。
 右肩上がりで増えているとはいえ、障害者手帳の交付を受けている人自身もすごく今増えているので、障害者数を母数としたときの就業率はそれほど増えていない。特 に身体・知的の方については増えていないデータもあります。
 続いて、雇用者数が増えている要因の1つとして、就労継続支援A型があります。
 これは雇用契約を結ぶ働き方なので、福祉サービスの利用者である一方労働者ということで、発表される就職件数にもカウントされます。
 これが8万人くらいです。
 これも地域によってさまざまで、特に大阪はすごく多いです。
 スライドが小さくて見にくいですが、右側に行けば行くほど、就職件数におけるA型の利用者の割合が高くなる。上に行けば行くほど人数が増えるのです。
 大阪はダントツで右上にある状況です。
 A型自体の働き方については、私は一般就労ができない人が福祉サービスの下で支援を受けながら働く働き方として、いい働き方だと思います。
 ただ、事業の趣旨にそぐわない不適切な事業所が数多くあるところで、そこの改善が必要だとして、4月の報酬改定でも多くの事業所が閉所して、その数も大阪が一番 多かったとデータに示されています。
 続いて、もう1つ雇用者数が増えている要素として、雇用率ビジネスがあります。
 栗原さんからも触れられましたが、雇用ビジネスを展開している事業者がいて、そこが用意している就業場所で働いているさまざまな人が、今7,000人ぐらいいま す。
 全国展開しているのが農園なので、よく事例として挙げられます。
 そこの事業者が用意している農園があって、この畝はA社、この畝はB社などと指定され、A社の社員、B社の社員としてそれぞれ雇用されて働いています。
 何が問題かというと、そもそもインクルーシブではないことが真っ先に取り上げられます。
 農業活動をしているのですが、その生産物は社会には流通していないので、社会経済活動に参加しているとは言えない状況です。
 それぞれの社員は、自分で雇用先企業を選べません。
 ビジネス事業者が決めるので、自分で選べないことと、雇用先の企業との関わりがすごく薄い、少ないので、自分はA社の社員であるという帰属意識がなかなか持てな いことも課題としてあります。
 雇用環境では、特に農業では不適切な雇用環境です。
 夏場は38~39度になったりすることもあると聞いています。
 全国展開しているビジネス事業者で、1つは千葉が発祥で、千葉のナカポツ連絡会でも言われていて、農園で働く人にインタビューもしました。何人かを聞いて一番課 題だと思ったのは、今までその人過去に何社か働いてきたけど、ここの働き方が一番楽なので、ほかには移れないと言っていました。
 働く意義を考えたとき、栗原さんも、収入を得る、社会とのつながり、自己実現、生活リズムと言われました。この農園で働いている人は、最低賃金以上で働いていて 収入は確保されます。
 生活リズムもここでは整っている人が多いと思いますが、社会とのつながり、自分の能力を発揮する自己実現の場というところでは、働く意義にそぐわない働き方だと 思うし、労働の価値や意義の点からは外れています。
 そもそも障害者雇用のベースである社会連帯の理念からも大きく外れている働き方ということで、課題として挙げられています。
 続いて、では、開かれた労働市場が万能になるために、これはすごく難しいテーマです。
 総括所見を読んでいると、開かれた市場というのがすごく万能で、そこに対する期待が総括所見の中には描かれているように思います。
 でも、実際の労働市場はまだまだ閉じられていると感じるところも多いです。
 開かれた労働市場では、障害のある人が、1人の労働者として、戦力として当てにされる、そういう職場、必要な支援を受けてその人が発揮できる職場です。
 そういう職場は、障害のある人だけに限らず、一人一人が必要な配慮を受けながら働ける職場が、真に生き生きと、みんなにとって輝ける職場だと思います。
 そういったことを障害者雇用を通じて発信していくことが大事だと思います。
 でも、まだまだ現実は日本は資本主義社会なので、能力主義や効率主義優先、そこの考え方からの転換です。
 資料に「ビジネスと人」とありますが、ビジネスと人権の間違いです。
 これを企業活動にどう取り入れるか。
 世の中にはさまざまな人がいて、効率性を発揮できる人もいれば、そうでない人もいるかもしれない。
 その人の状況に合わせた働き方や環境を用意するのが、社会連帯の理念だと思います。
 それをどう企業に根付かせることができるかが、開かれた労働市場が万能になるために必要なことかなと思います。
 時間が押していますので、雇用促進法は各自見てください。
 障害者就労支援では、福祉分野と労働分野の双方があって、双方からのいろんな施策があって、そこが連携をしっかりはかりながら進めることが大きな特徴だと思いま す。
 一方、就労支援、支援側の現状です。
 サービスの量はすごく増加しています。
 平成18年に始まって6倍。サービスが増えているということは利用者が増えています。
 利用者からしたら、さまざまな選択肢、多様な選択肢が増えることは良いことだと思います。
 就労系サービスも移行サービスは3,000弱、A型は4,100、B型は1万7,000くらいです。
 定着も合わせると2万5,000で、50万人の人が利用しています。
 それだけたくさんのサービスがあるのはいいことですが、ただ、本当にその人が適切な場所に身を置いているのか、利用しているのかという課題とともに、実施する事 業者側は、誰のための何のための働く場所を用意しているのか、何のために支援してるのかが大きく問われます。
 福祉サービス事業所の広告宣伝として、障害そのものを商品化して、この事業をすると利益率が30%確保できるなどの広告をよく見かけます。
 誰のための支援かというのも問われると思います。
 事業所数の地域偏在も大きな課題になっています。
 必ずしも人口比と比例しないです。
 1つは、事業所指定の判断基準の違いが自治体によってあります。
 栗原さんは「ハードルは高く」といいましたが、そうではないところもあります。
 総量規制を実施している自治体もあれば、そうでない自治体もあります。
 多いところでは選択肢が増えますが、少ないところでは、身近なところに作業所がないとき、働きたいと思った人が遠くまで行かないといけないという壁ができてしま う。これが大きな課題です。
 大阪府内でも市町村によって違いますし、大阪市24区内でも偏在があります。
 開かれた労働市場に向かうためには連携が大事で、だからこそ今日の研究大会のようにさまざまな立場の人が集うことがあるかと思います。
 大阪で事業者向けの研修会をしていたときに「連携なんて必要ないですよ」と言う事業者さんもいました。
 連携すると利用者が混乱するだけだし、自分の1つのところで支援した方がいい、その人のことよくわかっているからです。
 ただ私たちは、その人の人生に関わるとても大事な仕事をしていると思いますので、常に謙虚であらねばいけないと思います。
 常に自分たち、この支援でいいのか問い続けたり、いろんな価値観を交えながら、その人にとって最大の支援は何かを考え続けることが大事です。
 連携するためにはまず自分の地域を知る。
 地域の中での自分の役割を知る。
 そのうえで実際につながる。
 シンプルな3ステップですけど、この3ステップを地域で実行していくことがすごく大事です。
 地域の中の就労支援の確保はナカポツセンターだと思いますが、基幹型の役割ということが言われています。
 困難事例に対して、今までは直接のフィールドで動くプレーヤーだったのが後方支援に回るということで最後の砦とも言われています。
 就労支援選択事業が始まることで地域の人の動きが変わっていくと思っています。
 その辺での期待もあります。
 地域の中にはたくさんの支援機関がありますよ、たくさんの人が関わっていますよということで、この図をあげました。
 ナカポツは地域ネットワークの核として動く。基幹型でも改めて示されました。
 就労選択支援には、栗原さんからも大丈夫かなと危惧する声もあり、私も危惧しています。
 ですがこれがきちんと機能することによって、支援側の質は上がるだろうと期待しています。
 そういう意味でもこの事業をしっかりと正しく動かすことが必要かなと思っています。
 駆け足でしたが、私からの話はこれで終わります。
 
栗原/酒井さんありがとうございました。
 ここからは3人でやり取りをします。
 まず尾上さんにダイレクトにお聞きします。
 インクルーシブ教育はインクルーシブ社会の礎というのは共感できますが、不登校の子どもが35万人と言われている現在、あえて特別支援学校を選択して力をつけて いっている方もいます。
 パワポの最後には2020年代にはという展望を書いていただいているけれども、今、この会場にも特別支援学校の場でいろんな合理的配慮に取り組む専門職の方が参 加しています。
 当事者として特別支援教育に携わる方とどんな対話、意見交換をしていこうとしているのか、率直にお聞きしたいということがあります。
 酒井さんには、開かれた市場が万能になるためにというのは魅力的ですが、そこへの道筋をイメージでもいいので好事例があればお話ください。
 鼎談の切り口として尾上さん、酒井さん、どうでしょうか。
 
尾上/総括所見が出されたとき、私たち障害者団体以外に反応したのは、特別支援学校にお子さんが通っている保護者や、特別支援学校の先生方など、特別支援教育の関 係者の方だけだったんですね。
 寂しいというか、本来は日本の教育界全体で話題にならなくてはいけないのに、そうではなかったことが問題だと思います。
 実は総括所見が言っているのは学校教育全体の在り方なんです。
 通常教育も含めた学校教育全体のあり方を問題にしている。
 特に通常教育の教師に人権モデルやインクルーシブ教育の研修をしなさいと強調している。
 なのに特別支援教育の関係者だけに対するメッセージだと受け止められた。本当は、学校教育全体の問題なんですよね。
 今、特別支援教育でされている支援や合理的配慮を通常学級の中でできるように組み替えていく、あるいは通常学級のこれまでの当たり前を変えていくことを一緒にで きないか。
 そしてそのことは、現在の通常学級にしんどさを抱えている子どもを含めて、すべての子どもが居場所のあるみんなの学校に変えていくことにつながるのではないか。
 それが総括所見、権利条約が求めているインクルーシブ教育の意義だと思います。
 
栗原/読み込みが私も浅かったかもしれませんが、公教育そのものが問われているのだと。
 作業所と一般企業との関係とも似ているんですが、作業所でやっている合理的配慮の実践を一般企業でもできるように変えていく道筋と、似ていると思います。
 ぜひ総合リハをきっかけに対話をしてほしいと思います。
 どうですか?
 今後はそういった対話は。
 
尾上/栗原さんのお話の中で、佐藤先生の言葉を紹介されました。
 閉鎖された労働市場とシェルタードワークショップの相互の関係ということです。現在は、お互いが閉鎖されていますよね。
 開かれていくことで、就労の場でいえば、現在福祉的就労でやられている支援が企業でなされれば企業も変わっていく。まさに同じだと思います。
 
栗原/尾上さんもおっしゃりたいこともあるでしょうが、ちょっと置いておいて、酒井さん、どうでしょう? 開かれた労働市場が万能になるために。
 
酒井/開かれた市場が万能になるための方策を私も知りたいところです。
 すぐにできるものではなく地域でじっくりと醸成していく。地域を耕すとか種をまくとかよく言いますが、地域ごとにじっくり育てていくことなのかなと思っていま す。
 今は開かれてなくて閉じられていて、閉じられた扉をこじ開けるには、誰かが汗をかいて、こじ開けないといけないと思います。
 栗原さんは「覚悟」ということをおっしゃいましたが、誰かが覚悟を持ってこじ開けて、そのあと人がつながっていくことが大事だと思います。
 地域を耕す、そういう土壌を作っていくときに、ナカポツが就労支援の中心になると言いましたが、全国のナカポツの好事例を横展開していくことをやっています。
 地域で働くことが当たり前になる土壌には企業のネットワークが不可欠です。障害者雇用の主人公は企業とそこで働く本人です。
 企業でどういうネットワークを作っていくかが、とても大事かなと思います。幾つかの県でいい取り組みをしているネットワークを作り、それを地域で広めていくこと をしている地域があって、そこの事例を学んで、ナカポツセンターが持ち帰って、自分の圏域でも同様に企業のネットワーク、支援機関と企業との熱い、太いパイプの ネットワークを作っておられます。「作業所で行っている合理的配慮を企業に」ということでしたが、まさしく障害者雇用をしているところのいろいろな配慮を、一般社 員にも広めていくことによって、すごく働きやすい会社を作っていく。それが企業の風土になることがとても大事だと思っています。
 何年か前に障害者雇用のあり方を考える研究会があり、その研究会の最後の報告書の文章が私はすごく好きで、人生全体で考えれば誰もが育児、家事や介護、事情と共 存させていくことを考えれば、お互いの抱える事情を理解配慮し、互いのできないことではなく、互いのできること、得意なことに目を向け、チームとして成果物をあ げ、すべての人にとって自らの希望や特性に応じて働き方を選択し、安心して働き続けられる環境が常に整えられている環境につながるということで、障害者雇用のあり 方を普遍的に広めることがすごく大事になってくると思っています。
 
栗原/今の話で印象に残ったのは、合理的配慮の発想を一般社員さんに、一般社員が支障なく全部仕事をこなせるわけでもないので、そこにもいろいろ広げていくという 発想ですよね。
 私もある企業に取材したときに、その企業の管理職の方はこう言っていました。
 これからの日本では、障害のある人をはじめ、いろいろな制約のある人を支えることのできない企業は存続すら問われていくのではないかと。
 これまでの単一的な労働者像ではなく、さまざまな人が働くのだから、障害のある人も含めて、いろいろな人へ支援ができることが大事だと。
 今の話はそれにも通じると思います。酒井さんは、それとネットワーク。それによって万能になるための道筋を考えていくということだったかなと思います。
 時間の関係もあるので、尾上さん、我々二人に何かご発言があるでしょうか。
 
尾上/まず、酒井さんに質問しようと思っていたのですが、ちょうど栗原さんとまったく同じでした。
 酒井さんのスライドの、「開かれた労働市場が万能になるために」をどうやったら実現できるかはこれからいろいろと苦闘していかないといけないでしょうが、目指す べきものはこれなんだなということで、労働市場が総括所見なり権利条約の言い方でいうと、アクセシブルであること、開かれたということです。
 同時にもう1つは、多様性を包容する、インクルーシブなものになるということです。
 その実現のために地域の人やいろいろな人たちが力を合わせて、開かれた労働市場を万能にするということだと思ったとコメントさせて頂きます。
 栗原さんに質問ですが、佐藤先生の言葉が言い得て妙だなと思います。
 閉鎖的な労働市場がある中で、シェルタードワークショップが作られてきた、その相互関係で捉えることが大事だと。
 関係性を固定するのが、雇用行政と福祉行政との間の壁ではないか。障害者にとっての社会的障壁になっている感じがします。
 今から15年前、佐藤先生や私が三役を務め、栗原さんも委員代理として参加いただいた総合福祉部会では、福祉的就労にいる障害者の労働者性や賃金補填制度の検討 もされてきました。
 15年たって総括所見も出た今、改めて権利条約の目指す方向に行くときではないか。
 雇用や福祉の制度的な壁をなくすために、何かサジェスチョンがあれば、お願いします。
 
栗原/15年前、箕面市長が障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会の委員だったので、私は代理で半分ぐらい出席させてもらっていました。
 箕面市では社会的雇用といって、一定の要件を満たした事業所に賃金補填をしています。そこで、当時の市長が国にも提案しましたが、実現にはならなかったんです。 賃金補填の問題は、国レベルでは年金などの所得補償の関係との整合性の難しさが前面に浮き彫りになってしまったなと。
 自治体レベルだからできている面があるとなった。
 さて、ここでは賃金補填以外のことを話します。
 福祉と労働の壁をいきなり取り払うことは無理だけど、低くすることはできます。
 意識のレベルで低くする方法として、先ほどの話にもつながりますが、合理的配慮のいい実践をしているスタッフや当事者が、人事交流制度で企業で長期間そこで実践 をしていく。
 逆もあってもいいかなと思いますが、そういう仕組みを実践として作っていけないかと。自分の知らない世界はわからないのが正直なところかなと思います。
 もう1つは、先ほどの私の話でも、短時間雇用や介護を利用した就労など、いろんな労働と福祉を一緒に、融合といったら語弊がありますが、制度の話が今出てきてい ると話しました。
 単体だけで検討するのではなく、いろんな制度について、労働と福祉の壁をどれだけ低くできているか、大くくりの調査・研究をして課題を整理する。
 課題というか、ぜひ取り組んだらいいなという思いがあります。
 私はそんな感じですが、いかがですか。
 
尾上/ありがとうございます。
 人事交流制度は具体的で実践的なおもしろい提案だなと思いました。
 
栗原/私が2年間市役所で人事交流で出向していて、市役所は外から見るのと中から見るのは違っていましたので、特にそう思います。
 酒井さんはどうですか。
 
酒井/お二人に質問です。
 栗原さんのスライドの10で、今後のことで、今は労働に参加していない人も今後働く方向に向かうために、多様な働き方の選択肢がすごく大事かなと思っています。
 スライド10の最後に書いてある第三の道の働き方であるとか、あるいは東京のソーシャルファームとか、一昨年の労働者協同組合法は、本当に新しい働き方だと思い ます。
 みんなが出資して、決めて、ともに働く。ここに障害のある人も組み込まれていると思います。
 こういう働き方の今後の広がりについて、一般的意見の第8号にも関連してきますが、どのように思われるかお聞きしたい。
 尾上さんには、合理的配慮のための建設的対話でいろいろなこと、自分の困っていること、配慮してもらいたいことを整理して意思表明することが大事になってきま す。
 うちに通っている方でも、困っていることが自分でわからなかったり、整理できなかったり、発信できない人もいます。
 今はその力をどうつけていくのか、うちの訓練の場面では、そういったところに注力しているところです。
 障害のある人の側も発信する力をつけていく必要があると思うんですが、アプローチやサポート体制は、何か現在、あるのかどうか、お聞きしたいと思います。
 
栗原/私からお答えします。
 この後会場からもご質問いただくので簡潔に。
 東京都ソーシャルファーム条例は、条例レベルではありますが画期的な取り組みだと思います。
 なおかつ就労困難者が就労しやすくなるというのは意義があると思います。
 その中でどれだけ企業に今まで受け入れてもらえなかった、より重度の人が雇用の対象になっていくのかが課題です。
 もちろんそうした事例はあるんですが、そこが今後の大きなキーだと思います。
 労働者協同組合も似ている話ですが、法人格を新たに創設したというのは、国レベルの法律で規定したということでレベル感が違いますが、ポイントは出資と労働、経 営への関与ですね。
 ここでも、障害のある人の意見を反映するために、協同労働のあり方が問われていると思います。
 お互い意見を言い出しやすいように、どこまで実践できるのか、今後の展望にも関わってくるのかなと思います。
 
酒井/重度の人の働く場というのは大きな課題だと思っています。
 
尾上/相談窓口については、国にあったり、自治体で窓口を設置したりしていますが労働関係は障害者雇用促進法なので別枠になります。
 雇用促進法でも合理的配慮は義務づけられているんですが、提供までの建設的対話や納得した対応をしてもらえないときにどこにも相談できないという障害者が結構い ます。私たちDPI関連で相談業務をやっている部署にも労働関係の相談が増えてきています。
 雇用関係の合理的配慮について、相談に応じて一緒に考えてもらえるところが新たに求められるのかなと思います。
 さらに、そもそも論になりますが障害者権利条約や差別解消法、あるいは社会モデル、人権モデルについて、学ぶ機会が乏しいのが現状だと思います。
 私の経験でも障害者運動に出会って初めてそういったことに触れる方が多いという実感です。
 ぜひ、学校教育や職業訓練の段階でリテラシーとして、障害の社会モデルを身につけられるようにしてほしい。
 それ以外にも、障害者の専門家、スタッフの皆さんが権利条約の社会モデル、人権モデルを研修をしていくことが大事なのかな。
 総括所見でもそのことが指摘されています。
 
酒井/支援の現場でも、しっかり支援の中に盛りこんでいくことが改めて思いました。
 
栗原/会場から、何か質問はございますか?
 
会場/いろいろ教えていただきありがとうございました。
 代行ビジネスは、だめじゃないかと思うんですよ。
 でも将来的に増えていくだろうと思うんです。
 特例子会社なんかでは、いい会社もできてきていると思いますが、代行ビジネスは、このままいってもあまりよくならないんじゃないかと思うんです。
 特に最近は施設での障害者虐待が増えています。
 こういう何のチェックも入らないような組織が作られていくと、それこそ北海道の牧場みたいな例になってしまいそうな気がします。
 どうしたらいいのかということを教えていただければと思います。
 
酒井/答えられる立場ではないですけれども。
 代行ビジネスは、ノーという立場ではずっとあります。
 実際、インクルーシブ雇用議連でも代行ビジネスが広がらないような取り組みはしていますが、実際は広がっていっています。
 違法ではないので、厚労省も取り締まれません。
 ただ、このビジネスが成立するためには、利用している企業がいて、利用する障害者がいて、送り込んでいる支援機関がいるんですね。
 利用する企業がまずなくなって、あるいは利用する障害のある人が、いなくなれば、このビジネスモデルは成立しないんですね。
 もちろんビジネス事業者がいてこのビジネスを展開されていますが、企業への働きかけで、これを利用することは雇用率達成には向かうかもしれないけれども、企業に とってはマイナスなんだというところの発信と、支援機関に対しても代行ビジネスはノーなんだということをもっと強く発信していくということかと思います。
 我々の団体でも、そこを利用している企業に対してノーと言っていこうという確認はしています。
 
尾上/実はDPIでも声明、見解を準備しているところです。
 一つは、そもそも「雇用率代行」ということ自身が雇用促進法の社会連帯という理念、障害がある者、ない者が共に働く場をたくさん作っていこうということから大き くずれていますよね。そもそも論としての問題がありますけれども、さらに、それがビジネスとして成立してしまうところに深刻さを感じます。きつい言い方かもしれま せんが、「そこまでして障害者と一緒に働きたくないのか」というのが、私たち障害者が感じる受け止め方なんですね。
 代行ビジネスのホームページを見ると「我が社も障害者のために代行ビジネスを利用しています」みたいなコーナーに登場されている会社があるけれど、「あなたのと ころの会社はそこまで障害者と一緒に働きたくないのか」と、私たち障害者は受けとっていますよというメッセージを出そうと言っています。
 
栗原/当事者の声は強いと思いますので、当事者、支援者、それぞれから声を上げる取り組みが必要だと思います。
 本来ならば会場からももっとご意見をいただきたいのですが、時間を守らなければならないので。
 最後に一言ずつ近未来をテーマに、コメントをお願いします。
 
酒井/今日はありがとうございました。
 22年前の第24回大会のときに中小企業の2代目社長さんが登壇されていてすごく印象に残っています。
 そこの会社は創業して60年くらいで、その2代目社長さんが小さいころから、知的障害や聴覚障害など障害のある人が働いていました。
 その2代目社長さんが引き継いだとき、どうして障害のある人を雇ったのか聞いたら、答えは、障害者雇用をしようという考えではなくて、全然なくて、人手が必要 だったから、人材として、戦力として雇用した。ほかの社員と同じように教育して育てていったのだ。
 障害者雇用という考え方は時代の流れや社会が作った考え方ではないか。
 あくまでも自分は社員を雇った。
 今、障害者雇用って、スタートラインとして捉えられていると思います。
 そうではなくて、働く人を育てること、まさしくそこがインクルーシブなのかなと改めて考えています。以上です。
 
尾上/近未来を構想するということで、1つ実例を出します。
 駅のエレベーターは、今では当たり前の風景になっています。大阪市の地下鉄は、2001年に全国に先立って全駅バリアフリーになりました。しかし、1970年代 には1駅もエレベーターがなかった。当時、全駅にエレベーターがつくのは夢物語と思われていました。今、それが現実の姿になっています。
 40年という時間が長いか短いかはありますが、近未来を構想するということは、そういうものだと思う。今の単なる延長線上にあるものではない。
 総括所見で指摘されていることは、現状からするとハードルはかなり高く思えると思います。
 でも、方向さえ見誤らなければ、時間はかかるけど実現できる。
 「開かれた労働市場が万能になるために」に向けて、寄って集ってみんなが頑張っていけば、きっと近未来は明るい未来として開けると思います。
 
栗原/私もお2人とほとんど同じですが、私は実行委員長でもあり、総合リハビリテーション研究大会の常任委員の末席にもおります。
 就労を中心にやっているメンバーは少ないですが、医療や教育の専門職と議論する中で、自分たちの支援がそう見えるのかと、学び直しや驚くこともあります。
 就労なら就労の関係者だけで話していると、広がりができないのと、自分たちの世界だけになってしまいます。
 そういう意味では連携という言葉につきると思いますが、総合リハビリテーション研究大会は万能ではありません。
 しかし、ここをきっかけにしていろんな議論が生まれることが近未来につながっていくのかなということで、私たちの鼎談はここで区切りにします。
 また昼から、あるいは明日からのいろんな企画でも続けて議論をしていただきたいと思います。
 皆さん、登壇の尾上さん、酒井さんに拍手をお願いします。
 皆さん、ありがとうございました。

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