シンポジウム1「リハビリテーション医療と就労支援機関の役割と連携~高次脳機能障害を中心に」

シンポジスト:
 堀  諒子 産業医科大学リハビリテーション医学講座 助教、
       リハビリテーション科専門医
 中村 春基 千里リハビリテーション病院 副院長、作業療法士、
       前(一社)日本作業療法士協会 会長
 田代 知恵 横浜市総合リハビリテーションセンター 総合相談部相談支援課 主任、
       ソーシャルワーカー
 松本 孝  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構大阪支部 
       大阪障害者職業センター 所長
 内藤 恵子 (一財)箕面市障害者事業団
       豊能北障害者就業・生活支援センター 所長
指定発言者:
 道崎 圭介 高次脳機能障害のある当事者、豊中市内企業勤務

座長:
 高岡  徹   横浜市総合リハビリテーションセンター センター長、医師
 長倉 寿子   兵庫県立リハビリテーション中央病院 部長(教育・連携担当)、
        作業療法士

高岡/皆さん、こんにちは。
 午後のプログラムを開始します。
 これからシンポジウム1、「リハビリテーション医療と就労支援機関の役割と連携~高次脳機能障害を中心に」を始めます。
 私は座長の高岡です。来年の万博で大阪もいろいろ賑わってもいると思います。
 私は前の万博、EXPO70のとき、この近くの茨木に住んでいました。
 懐かしい場所で行われる研究大会に参加できてとてもうれしく思います。
 今日はどうぞよろしくお願いいたします。
 
長倉/こんにちは。
 同じく座長を務めます兵庫県立リハビリテーション中央病院の長倉と申します。
 よろしくお願いします。
 皆さんには抄録集の21ページを見ていただき、まずシンポジウムの趣旨についてお話しします。
 本シンポジウムは脳損傷を原因とする高次脳機能障害の方々からは復職を中心とした就労の希望がよく聞かれます。
 就労に向けて医療の関わりは欠かせませんが、医療専門職の支援だけでは不十分なことも多く支援者間の連携が求められます。
 今回は日ごろから支援をしている方からお話しいただき、医療と就労支援機関、それぞれの役割を認識し、連携を深める課題を整理したいと思います。
 本シンポジウムを通して医療職と就労支援機関がそれぞれの支援に関する現状と課題を知り、お互いの連携を積極的に模索することでより多くの当事者が就労するため の有効な方策を作るきっかけになることを期待しています。
 5名のシンポジストにご登壇いただき、また1名の指定発言者とともに本シンポジウムを進めていきます。
 よろしくお願いいたします。
 
高岡/流れについて説明します。
 堀さん、中村さん、田代さんに発表いただき、それから15分程度、休憩の予定です。
 各演者の発表の後、質問を受けようと思っています。大体お一人10分程度の発表です。そのあと松本さん、内藤さんの発表を続けます。小休憩をとってシンポジスト が壇上に上ります。
 若干のディスカッションのあと、道崎さんの指定発言をいただきます。
 長丁場ですがよろしくお願いします。
 早速ですが最初の演者の方にご登壇いただきます。
 産業医科大学リハビリテーション医学講座の堀さんからです。
 よろしくお願いいたします。
 
堀/本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。産業医科大学リハビリテーション医学講座の堀です。
 本日の内容ですが、高次脳機能障害の基礎的な話から、高次脳機能障害拠点機関でもある当院での取り組みについてお話いたします。
 まず高次脳機能障害とは何なのかについてですが、高次脳機能障害は中枢神経の一つである脳の障害で起こる認知・精神機能障害の総称です。
 高次脳機能障害が起こる原因は大きく二つに分かれ、脳卒中、脳腫瘍などの脳疾患と、脳挫傷やびまん性軸索損傷といった外傷によるものがあります。
 高次脳機能障害の症状ですが、スライドに記載される以外にもたくさんの症状がありますが、ここでは行政的な意味合いの高次脳機能障害である注意障害、記憶障害、 遂行機能障害、社会的行動障害の4つの障害についてお話しします。
 いずれも目に見えない障害であり、症状の重さも人それぞれで、軽い症状であれば退院後に職場に戻ってから気づかれることもあります。
 目に見えない障害であるがために日常生活・社会生活に出て困りごとに直面しやすい高次脳機能障害ですが、高次脳機能障害が注目される背景としては、脳外傷が原因 の場合、日常・社会生活に制限が生じても福祉サービスが充分に受けられないことが背景にありました。
 現在は重度の高次脳機能障害の場合は精神障害者保健福祉手帳の対象となり、手帳によるサービスが受けられます。
 脳卒中をはじめとする脳血管疾患で通院治療を受けている患者数は174万人と推計されており、うち就労世代である20~64歳は約17%を占めます。
 そのような患者さんの自宅復帰後すなわち生活期の目標は、若年層では就学・就労が、中高年齢層では復職や地域活動への復帰となります。
 では個人における復職の条件は何なのかというと、何らかの仕事ができること、8時間の仕事に耐えられる体力があること、公共交通機関を利用して通勤が可能である ことという3つの条件であり、すなわち1日仕事をして通勤できる能力が必要です。
 また復職後も引き続き仕事が定着できる条件で大事になるのは自身の障害の理解、すなわち障害受容ができていることが大事とされます。
 高次脳機能障害に限った数字ではないですが、外傷性脳損傷の復職率は海外で12.5~70%、本邦では10~30%、脳卒中の場合は海外で13~74%、本邦で は30~50%と報告されます。
 また、復職後の経過ですが、脳卒中後復職者の5年再病休率は33.4%、5年依願退職率は7.6%と報告されます。
 再病休の内訳は脳卒中・心筋梗塞といった病気の発症、メンタルへルス不調、通勤途上・自宅等での骨折等によるものであり、必ずしも復職がゴールでなくその後の定 着支援も必要です。
 それでは高次脳機能障害拠点機関についてお話しします。
 高次脳機能障害拠点機関やご本人はもちろんのことご家族への高次脳機能障害への支援充実や一般の方、医療従事者、福祉関係に対する高次脳機能障害の普及・啓発活 動を目的とし専門的なアセスメント、マネジメントを実施しています。
 全国の高次脳機能障害の支援体制の整備状況として、令和6年時点では全国支援普及拠点センター1か所に加え、47都道府県に123か所の支援拠点機関がありま す。
 令和5年度では支援コーディネーターが470名おり、相談件数は10万件に近づこうとしています。
 福岡では県内4か所に高次脳機能障害拠点機関が設けられており、本人・家族からの相談を受けるとともに関係機関と連携しながら支援を行っています。
 それでは実際の当院での取り組みについてですが、令和5年度の当院の相談状況ですが、延べ継続相談件数は1,250件で、うち新規が94件でした。
 支援対象者は、本人・医療機関が多く、次点で家族・親族からの相談が多いです。
 原因疾患は左のグラフに示すように脳血管疾患・外傷性脳損傷が大半を占め、主要症状は右のグラフに示すように記憶障害・注意障害についで遂行機能障害、社会的行 動障害があります。
 相談内容としては初回は自動車運転について高次脳機能障害の知識・対処法、診断、社会的資源の相談についての順に多く、継続相談の中で高次脳機能障害に対する診 断検査や運転再開評価、就学就労相談、また職場など関係機関との連絡調整、社会的資源としての手帳や障害年金の申請などを行い、高次脳機能障害を有するご本人、家 族の支援を行っています。
 また、脳卒中に限った話ではありませんが、働き方改革の一つの施策として治療と仕事の両立支援は重要とされており、2018年には脳卒中・循環器病対策基本法が 成立しました。
 基本法を背景として当院は厚生労働省による「脳卒中両立支援モデル事業」に参画し復職の現状調査、院内のみならず院外も含めた両立支援手法の確立、両立支援ツー ルの作成に取り組み、病期を超えた継続的かつ有機的な両立支援システムの確立、就労者数の増加・復職率の向上を目指しています。
 その中の取り組みの1つを紹介します。
 脳卒中の両立支援をすすめるためには、困っているケースのキャッチアップが必要で、そのためにも地域の連携が必要です。
 脳卒中地域連携パスは、スライドの下半分に示す目的で行われています。
 脳卒中患者さんは再発や、二次合併症の頻度が高いのに、長期経過のうちに医療の枠から取りこぼされてしまうことがあります。
 両立支援の観点からも、地域で長期にわたって適切にフォローアップする体制作りに、この連携パスを利用するメリットがあります。
 実際に使用している連携シートです。障害評価はもちろんですが、就労状況が記載されています。
 また、脳卒中パス協議会では、スライドに示すように年2~3回の医療機関毎の面談を実施して情報交換を行っていました。
 コロナ時期からはZoom面談に移行しています。
 次に高次脳機能障害の啓発活動として、ポスターに加え、患者さんをサポートするツールとして、脳卒中を発症してから復職、職場復帰後もその経過に沿って「誰にど のような」内容を相談していいのか時系列順に詳しく記載されている、脳卒中の治療と仕事の両立お役立ちノートを作成しホームページ上に公開しています。
 以上当院の一部取り組みをご紹介させていただきましたが、最後に参考ケースを用いて紹介します。
 患者様は架空の人物ですが40代の就労世代の男性とします。
 勤務中の頭部外傷によりびまん性軸索損傷を受傷するも、麻痺などはなく急性期病院で治療を受けて1か月程度で自宅に退院されました。
 退院後、家族からちょっとしたことで怒りっぽくなった、疲れやすくなったなど指摘され、急性期病院の定期外来受診時に相談し、支援拠点機関である当院リハビリ テーション科を紹介受診しました。
 奥様と二人暮らしで、仕事は職業運転手でした。
 当院はリハビリテーション科医師の診察をはじめとして作業療法士、言語聴覚士、両立支援コーディネーターである臨床心理士で高次脳機能障害の評価、自動車運転の 評価、職場との連携、社会的資源の導入を行います。
 特に自動車運転に関しては神経心理学的検査および写真で示すような30~40分程度の運転シミュレーターを用いて評価を行ったのち、患者様によっては省略される こともありますが実車評価を行い包括的に運転再開が可能か判断を行います。
 参考ケースに戻りますが日常生活の患者様の状況や検査での様子、検査結果から、遂行機能障害、脱抑制、神経性疲労があることがわかり、ご本人・家族、職場の希望 から、医師・両立支援コーディネーターを交えて職場上司に説明を行いました。
 医師より慣れた仕事の継続や、適宜休憩を入れることなどを依頼し、疾病上の一定期間の運転禁止を経て、日常生活内での慣れた道からの運転再開を行ったのち、職場 からも運転再開の許可を得て、職業運転再開・復職に至りました。
 その後も定期的に外来フォローを行う中で、数年の経過で記憶力・注意力の低下を自覚されたため、再度検査、フォローを行いました。
 検査上は経時的な低下を認めず運転を必ずしも禁止する結果ではありませんでしたが、自覚的な疲労感も強く、適宜職務内容の調整を提案し、配置転換を行いながら就 労を続けられました。
 それではまとめに入ります。
 当院は高次脳機能障害拠点機関として、高次脳機能障害を有する患者様の社会参加支援を取り組んでいます。
 以前と比較すると高次脳機能障害に対するサービスの充填、認知も進んでいますが、疾患の特徴上、長期的な経過をたどるため医療の枠から取りこぼされてしてしまう 方もいまだに多くいらっしゃいます。
 地域で適切かつ長期にわたるフォローアップができる体制つくりが今後の課題として重要と考えます。
 以上となります。
 ご清聴いただきありがとうございました。
 
高岡/ありがとうございました。お時間的にはお一人、ご質問を受けられます。
 
会場/貴重な発表をありがとうございます。
 大学の作業療法学科で教師をしている者です。
 高次脳機能障害の方が働いたり社会復帰するうえでご自身の障害を理解することが大事というのはわかるんですが、架空の例で出していたような外来フォローを定期的 にやっていく中で自分の障害を自覚するというケースもあると思うんですけど、実際に働いたり地域生活するうえで自分の障害が理解できないと働けないと支援者側が考 えていくと社会モデル的に、社会参加を支援していくときに支援者の考えがバリアになるのではないかと悩みます。
 その辺り、先生の考えを教えてください。
 
堀/ご質問ありがとうございます。
 なかなか患者さんが障害を理解していただくことと、こちらがどうしても障害があると思ってしまうと、かなりバリアになるところもあるかなと思っております。
 患者側の就労への意気込みがあることと、私たちが就労の支援を行いたいという就労を行いたいという目標が一致しないと、うまくいくものもうまくいかない。
 私たちからの提案もうまくいかないことも多々あります。今回のケースはうまくいった患者様ということで出しました。
 日々、患者一人一人、家族や環境によっても対応が異なることも多く日々、悩みながらやっているところです。
 返答になっていないと思いますが、私の意見は以上です。
 
会場/長期経過で変わってくることだと思いますので家族さんと状態に応じて対応することが大事だと思います。
 
高岡/ありがとうございました。
 時間になりましたので、次のシンポジストの発表に移ります。
 千里リハビリテーション病院、作業療法士の中村さんです。
 よろしくお願いいたします。
 
中村/皆さん、こんにちは。
 千里リハビリテーション病院の副院長の中村です。作業療法士です。
 千里リハビリテーション病院での就労支援の取り組みと、本日午前中にもありました総括所見でのハビリテーション、リハビリテーションについてコメントについても 紹介します。
 病院の概要ですが、千里リハビリテーション病院はここから車で20分ほど行ったところにありますが、病床数は172 床で、全ての病棟が回復期リハビリテーション病棟料Ⅰで運用しております。では就労支援と就学支援について事例をご紹介いたします。
 まず、就労支援についてですが、当院作業療法士のH氏(以下病院OTと略します)の報告事例です。
 患者は40歳の女性で職業は歯科助手で経験10年のベテランです。脳の画像をスライドに示します。両側の前頭帯状回、側頭極、海馬、扁桃体に高信号を認めていま す。この画像から、記憶、注意等の高次脳機能障害が予測されました。
 次に職場介入までの流れを示します。大別して仕事内容の確認、アセスメントシートの作成、職場練習に分けられます。
 仕事内容は、通勤、受付、治療サポート、インカム対応、清掃・片付けに分けられ、それぞれについて、本氏、職場のリーダー、病院OTでアセスメントシート(以下 ASと略します)を作成しました。ASは、仕事の内容別に、自立、見守り、一部介助、全介助の評価を行い、詳細はフリーコメントする様式となっています。問題とな りました、通勤、治療サポート、就労のための耐久性について、課題、介入内容、結果についてご紹介します。
 通勤は、自宅から駅まで10分、乗車時間10分、最寄り駅から職場まで10分の行程でしたが、家から駅まで30分を要していました。そこで、記憶、注意障害を補 完するために、通勤ルートの動画撮影を行い、出勤前に確認することを繰り返し4回目以降は自立しました。
 治療的サポートについては、使用頻度の少ない物品の位置や使用用途を覚えられないことが見られました。介入としては、動画や写真で位置の把握、ASにて振り返り を行い徐々に物品の位置と使用用途の確認は可能になりましたが、想起できない物品があることが分かりました。
 就労のための耐久性については、2時間から4時間程度の評価にて、疲労困憊、疲労による健康管理や日常生活管理の課題が明らかになりました。対応を本氏、職場 リーダー、病院OT、担当ST、訪問OTと検討した結果、退院後は2時間から3時間程度のリハビリ勤務(無報酬)を週1回程度行い、半年後はクリーンスタッフから の労働開始を目指すことになりました。
 考察としましては、入院中より、職場の方と連携しながらASを活用したことで課題を可視化し自己フィードバックの機会が得られ、課題の把握と改善に繋がったと思 われます。また、回復期リハビリテーション病棟での復職支援において、院外での練習は時間の不足が顕著であり、実地練習において個々のケースに必要な単位数の確保 及び体制整備が必要であると結んでいます。
 次に就学支援の事例をご紹介します。
 事例は18歳、男性、左側頭葉出血・脳皮質静脈血栓症を発症、血栓溶解療法施行、第24病日に当院へ入院。生活歴は大学入学予定で一人暮らしを開始したところで の受傷、家事経験なし、PC操作不慣れな状況でした。入院時の希望は復学し教員免許の取得、バイトや部活動への参加することでした。
 脳画像所見からは、上側頭回の損傷より、錯誤、喚語困難、長文節の理解の困難。聴放線、横側頭回、上側頭回の損傷により、聴覚情報に基づいたパフォーマンスの低 下。側頭極、中側頭回の損傷・海馬部の圧排より、Papez回路・Yakovlev回路での情動・記憶面の障害が推察されました。具体的な活動課題としては、
 ・講義への集中
 ・文書読解
 ・同時作業(ノートまとめ等)
 ・学習(振り返り)
 ・生活において、計画性の低下・病識理解の低下
 ・一人暮らしに必要なIADLは主に買い物・調理が予測されました。
 次に介入についてご紹介します。入院45病日から通学練習を行っていますが、通学開始までは、前期介入として実用性を考慮した部分練習・通学評価・大学家族との 情報交換を実施しています。部分練習においては、基盤となる機能の疲労などを考慮して難易度調整を行っています。
 通学は週2 回行っていますが、自宅から大学を想定した通学評価では、事前に本人がスマホで時刻などを調べ見守り下で評価を実施しました。乗り継ぎの間違いがありましたが、本氏は気づ かず最終的にサポートが必要でした。対策として、行き方・公共交通機関の時間など計画立てから文書化したメモを持参・スマホの活用にて単独での通学が可能となりま した。
 講義形式課題では、内容に関してメモは可能も内容理解は曖昧でした。対策として、興味のあるもの・短い動画など理解しやすい課題から、まとめ方の習熟を図り、右 の写真のように自身で要点のまとめが可能になり内容理解も向上しました。
 オンライン講義では本氏主体で、分からない箇所の調べ方や相談方法を確認しました。分からない箇所を調べることや教員へ相談するなど自発性がみられ、問題解決に 向けての対処能力が向上しました。
 IADLでは買い物で適量購入・調理にて同時作業場面での火の管理、時間管理不足がみられました。手順、確認事項を記した工程表を本人様と作成し、要所で作業中 も目に入る場所で提示し実施しました。品数、金額などの段階付け行い、冷蔵庫の余りものから作るなど応用的な対応も行え、弁当作りなども可能となりました。
 まとめとして、入院中からの復学支援は医療施設に留まらず対象者の目的に応じた活動環境を提供することが重要である。また、講義や通学の経験は、対象者にとって 現状の理解と新たな課題の発見など「気づき」のきっかけに繋がったと述べています。
 2事例を通していえることは、教えるのではなくて、一緒に考えて本人が学び方を学習することです。それには本人、家族、職場、学校など関係する人の共有理解と支 援が必要と思います。病院でやることは限界がありますが、2事例の様に回復期リハビリテーション病棟でも出来ることも多く有ります。
 上記2事例の取り組みは、全国の回復期リハビリテーション病棟の取り組みから見れば稀有な取り組みと思われますが、当院におきましては日常的な取り組みです。当 院I氏とY氏の調査研究報告から、病院全体の取り組みの概要をご理解いただけたらと思います。
 調査は2023年5月1日から10月1日までの5ヶ月間の当院での外出、外泊練習について、カルテによる後方視的調査と、経験のある作業療法士(25名)にアン ケートを実施しました。なお、外出、外泊練習は、家屋調査・実地練習など外出届を提出して行うものとし、当院から半径1km圏内での屋外活動は外出届を提出して行 われていないため、今回の調査対象には含まれていません。
 結果、外出訓練220件、外泊訓練37件が行われており、そのうち作業療法士の同行は98件でした。内容としては、ADL、IADL、福祉用具などの環境調整、 就労支援、就学支援など内容は多岐に渡っていました。前述の2事例もこの中に含まれています。実施に当たっては、複数職種で半日以上を費やすことも多く、診療報酬 制度ではその一部しか請求できていませんが、前述のとおり、通常業務として実施されています。
 次に、これらの取り組みの効果に関するアンケート調査結果の一部を紹介します。質問内容は、外出、外泊により、患者とOTでの「退院後の生活がイメージできた か」について、「かなりできた」「少しできた」「あまりできなかった」「まったくできなかった」の4件法で回答してもらいました。
 結果は、両者とも「かなりできた」「少しできた」と回答しており、この取り組みの有効性は高いことが分かりました。しかし、「かなりできた」の項目で両者を比較 しますと、患者さまの割合は33%、OTは58%でした。この結果は外出、外泊練習の方法や活用方法への課題を示していると思っています。このような取り組みが全 ての回復期リハビリテーション病棟Ⅰを取得している病院で提供できるような報酬体系が整備されることを切に願っております。
 
 次に、本日司会の久保さんの2023年度の外来リハでの就労支援をご紹介します。利用者は33人、男女別は男29名、女性4名、主障害名割合別では、失語症15 名、注意障害7 名、記憶障害9名、社会的行動障害2名。就労に関する目的では、復職希望22名、新規就労希望8名、復学希望3名でした。就労機関との連携先別では、就労移行支援機関3 名、大阪障害者就業センター1名、障害者相談支援センター1名という実績です。
 ここまでのまとめをしますと、千里リハビリテーション病院におきましては、交通機関の利用などのIADL 練習、就労、就学等について在宅、職場、学校など、医療施設機関以外での場所での介入を必要時間数行っています。また、事例のように、評価、介入は個別性が高く、それぞれ 対応が求められます。重要な要素は、根拠、可視化、主体性、本人を含めたチーム連携、加えて、健康状態の変化を踏まえた継続支援が必要と思います。
 
 次に、前述のような取り組みについての全国的な傾向を、日本作業療法士協会の調査結果から紹介します。結果を先に述べますとこのようなサービスの提供は十分とい えないようです。
 診療報酬上は、IADLの取り組みは、一日3単位(1時間)が、医療関連施設以外でも認められていますが、医療機関での実施割合は40%で、実施場所別では、自 宅(84%)、公共交通機関(70%)、買い物などの店舗(41%)、自動車教習所(19%)、職場(15%)、学校(9%)、その他(4%)となっています。ま た、1時間を超える実施頻度の調査では、「毎回1時間を超える」が27%、「時々超える」が41%、「まれに超える」が17%、「60分で収まる」が18%の割合 でした。このように、就労支援への取り組みは、全国的には不十分だと推察されます。つきましては、就労関連領域からも、医療機関での取り組みが充実されるよう要望 をだして頂けますと幸いです。
 
 次に障害者権利条約の取り組みに関する総括所見の中で、26条のリハビリテーションとハビリテーションに関する主な意見をご紹介します。コメント55と56に医 療モデルに偏っていることへの懸念と人権モデルに基づく取り組みを勧告しています。回復期リハビリテーション病棟は医療機関としての役割、機能ですが、その利用者 は「人格をもつ人」でありますので、病院においても「人権モデル」での対応は必要なことと考えています。
 最後に私が最も重要にしていることは、利用者主体と自己実現と思っています。
 この方は、ALSに罹患しスライドのように全身まひで人工呼吸器を使用しての生活ですが、病前のボランティア活動の継続を希望され、医師、看護師、PT、OT、 ST、保健師、介護士、ご家族らが協力してそれを実現しました。障害の軽重、疾患に関係なく、その方の自己実現を支援することが重要だと思います。発表時間を延長 して申し訳ありませんでした。ご清聴ありがとうございました。
 (本稿は使用したスライドの内容を大幅に加筆し、報告での重複箇所を削除し校正してあります。なお、本研究大会を契機に、当院退院者で就労移行支援事業所利用者 の情報交換会が開催されましたことをご報告申し上げます。)
 
高岡/ありがとうございました。
 時間が過ぎてしまいましたので、質問は、のちほどまとめてお受けします。
 次の発表に移ります。
 横浜市総合リハビリテーションセンターの田代さんです。
 よろしくお願いします。
 
田代/横浜市総合リハビリテーションセンターの田代です。
 私は就労移行支援事業の立場から今日は話をさせていただきます。
 座って失礼します。
 皆さんご存じと思いますが、就労移行支援事業は障害者総合支援法に基づいて障害のある方が新規就労や復職を目指す人の福祉サービスです。
 標準期間は約2年間です。
 一般就労に必要な力をつけて事業所との折衝も支援しています。
 就労後のアフターフォローもしています。
 全国にどのぐらいあるかというと3,000弱あって、神奈川県には228カ所、横浜市にも91カ所あります。
 横浜市総合リハビリテーションセンターの紹介をします。新横浜駅から歩いて12~13分、隣は日産スタジアムです。
 私が所属しているすべての利用者さんの窓口の総合相談と診療所機能として外来や入院、社会リハを行っている障害者支援施設、職業リハを行っている就労支援施設、 そしてお子さんの地域療育センターも兼ね備えています。
 医療と福祉部門が両輪となってサービスを展開している総合的なセンターです。
 これは、中途障害者に対するリハビリテーションを図に表したものです。
 私たちのセンターは急性期や回復期で治療が終わって退院したあとに関わっていただくセンターになっています。
 当センターは主に医療機関、それから地域で生活している方から相談を受けて、まず外来に受診していただくことが多くなっています。
 そして、社会リハや職業リハを使って社会参加へという方もいますが、外来を利用したのちにいったん地域で生活し、生活の中で新たな困りごとやステップアップした いというニーズが出てきたとき、再度、相談いただき外来を受診していただき、その人に合ったサービスを利用していただくこともあります。
 では、当センターの就労移行支援について説明します。
 就労移行支援事業としての定員は30名です。
 訓練コースは、例えば脳卒中の既往があるが、障害者手帳に該当しない等という方が利用する、横浜市の独自事業で、10名の定員です。
 昨年度令和5年度だと入所は34名で、退所は26名でした。
 利用者の内訳は、40~50代で85%を占めていて、就労移行の中では高次脳機能障害の診断があるのは85%でした。
 昨年度26名の退所者のうち、復職が11名、新規就労は6名、福祉的就労は5名、そのほか4名となっていて、平均利用日数は復職で165日、新規就労で325日 でした。
 就労支援における視点を表したものです。
 準備のピラミッドを積み上げる取り組みとともに、健康的にはたらく生活リズムを整えて、体力、耐久力を確認するとともに、仕事で必要なコミュニケーションや作業 体験を振り返ることで、自分に合った職業選択を支援するとなっています。
 また、中途障害者の支援をする際の視点としては、発症前の就労経験や仕事の価値観があることを意識しています。
 職業リハの中では、後遺症の状況だけではなく、本人の今までの医療でのリハビリの結果や評価を踏まえながら、実際に作業や耐久力を確認します。
 高次脳機能障害があると、本人は就労経験があるからこそ、仕事に行けば大丈夫だよとか、こんなの前からあったよ、ということがあります。
 後遺症と現状の作業能力のギャップがあることの難しさ、後遺症があっても、元の職場で今までのスキルを活かすことができるなど、後遺症の状況とは違う職業上の力 を発揮できます。
 職業上の力を発揮するという視点は、復職を目指すときに特に大切にしています。就労支援の流れです。まずは通っていただき、いろいろ経験しながら、ご自身にでき ることや、大変だと思うことを体験いただく、職場体験期、その上で、職場体験の復職期、移行期を経て、アフターフォローになります。
 就労移行支援事業の定着支援は6か月が必須と言われますが、当センターは1年くらいフォローしていることが多いです。
 本人が働き続けるためには、本人自身に力をつけていただく支援が大切です。
 例えば注意障害があってどうしても入力が難しいことがあった場合や、疲労があって少し通うのがどうかな、ということを実際体験していただきながら、職員と振り 返って本人自身が気づきを持つことがとても大切です。
 その気づきを元に本人ができることや得意なこと、課題や仕事への影響をご自身で考えて、その後、工夫や代償手段、会社に配慮を求める点、働き方、ここは経済補償 や年金も含まれますが、働き方を考えることを大切にしています。
 これは、本人が新たな仕事の価値観を持つことではないかなと思います。
 支援の中で、本人自身の働き方や体力、耐久力を含めた働く力、後遺症を説明する力をつけていただくことを支援しています。
 就業先とのマッチングは、本人自身が後遺症についてある程度理解して、就業先に伝えることもそうですが、私たち支援者も、会社に後遺症の治療についての治療の理 解を求めたり、業務遂行にあたって、人も含めた環境整備をお願いしたり、本人に合わせた業務内容や就業形態の検討をお願いするなど、働く枠組みづくりに対しても支 援をしています。
 復職の場合は、ここで診断書を提出することが求められることがあります。
 私たちは就業先と本人に働きかけながら、マッチングを図ります。
 これが私たちが行っている就労支援の流れかなと思います。
 就労支援をしていて、私が課題だなと考えることをいくつか挙げました。
 本人が高次脳機能障害があると、そもそも職業性の必要性を感じにくく、就労移行支援事業につながらないということがあると思います。
 復職を目指す方では、医学的リハの後に職業リハを行う時間が限定されていることがあります。これは、休職期間が関わっているからです。
 次に、働いてから二次障害が起こり、医療機関に勧められてから始まることもあります。
 介護保険サービスから職業リハにつなぐタイミングが、一般的に難しいことがあります。
 まとめます。就労支援のまとめとしては、本人と就業先に直接働きかけることもありますが、働いた後に、本人が困ることもあると思います。
 実際に働いてから、職場の上司の異動があったり、本人自身が異動したりして、困りごとが再燃することもあります。
 その時に本人が相談先を持つことが大事だと思います。
 医療機関でも、障害年金や障害者手帳の更新のタイミングもあるので、継続的なモニタリングもお願いしたいと思っているところです。
 この後、皆さんともその辺りをお話しできたらと思っています。
 以上です。ご清聴ありがとうございました。
 
高岡/ありがとうございました。
 先ほど、障害の認識のお話がありましたが、今田代さんの発表の中にも、体験や実践を通して気づいていくところからとお話があったと思います。
 気づくことと、障害認識は別だなと思うところはありますが、まず気づくところから始まるのかなと思っています。
 お一人ぐらい質問を受けられます。いかがでしょうか。
 
会場/素敵なお話ありがとうございました。
 埼玉県の市の就労支援センターから来ました。今、就労支援員を7年くらいやっています。高次脳機能障害のある方の就労支援は、本当にさまざまな特性のある方がい らっしゃるので、すごく支援がしづらいという言い方は失礼ですね、難しいなという印象を持っています。
 特に脳血管障害等で高次脳機能障害になられた方だと、よく突き当たるのが、収入の壁です。
 特に課長職だったり、部長職になっていて、手取りが50を超えてる状態で障害をもたれて、じゃあ復職となっても今までの収入を得られないと生活が困ってしまう と、なかなか職業的なマッチングが難しい部分ですごく悩ましいところがあります。
 横浜のリハビリテーションセンターさんでは、そういうところとかは、どのようにされているのか。
 ちょっと情けない質問で申し訳ないんですが、お伺いできればと思います。
 
田代/ご質問ありがとうございました。
 私たちもその辺りは悩んでいます。
 収入は復職の場合でも収入が下がるという理由で、ご本人が葛藤なさるということは多々あるのかなと思っています。
 ましてや、すごく高収入だった方が最低賃金で働くかというと、ご家族も含めて、経済的にお子さんがいらっしゃる世代の方も多いので悩ましいところだと思います。
 私たちも支援していて、本当に納得されているのか悩ましいところです。
 一つは障害年金をとれるかどうかの基礎的な収入の保障があることが一つご本人様とは確認して、その上で、今できる仕事がこれぐらいで、トータルの収入だとこのく らいだねと、どこまでのところで納得していただくかということです。
 その方が新規就労となった場合は、一緒に就職活動をしながら、本人さん自身がどこかで折り合いをつけていただくのもあるのかなと思います。
 なかなか「こういう支援です」というのは難しくなります。
 いかがでしょうか。
 
高岡/田代さん、ありがとうございました。
 4番目の登壇者は高齢・障害・求職者雇用支援機構大阪支部、大阪障害者職業センター所長、松本さんです。
 
松本/こんにちは。
 大阪障害者職業センターの松本です。
 前半で医療・福祉で優れた実践が発表されているので、ドキドキしているところです。
 座って失礼します。
 こちらのスライドで説明します。
 私どもは、ハローワークや地域の関係機関と連携して職業リハビリテーションサービスを提供しており、全国47都道府県に設置されています。
 大阪には2カ所あり、私は本所で勤務していますが大阪市中央区。そして南大阪支所が堺にあります。基本的には各県1カ所です。
 設置運営は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構で、本部は千葉県にあります。
 障害者の雇用の促進等に関する法律に規定された就労支援機関で、雇用対策として設置された機関です。
 本部には研究部門もあり、職リハの研究などを行っています。
 私どものホームページを見ていただくと、支援マニュアルなどの成果物を見ていただくことができます。
 ロビーにも一部置いてありますが、今日は数がありませんでしたので、後ほどご確認ください。
 職業センターの業務の内容です。
 1~6の柱があって、障害のある方への支援、雇い入れる企業の方への支援、就労支援を行う支援機関等への助言・支援を3本の柱にしています。
 障害者支援は1から4です。
 職業センターの主要業務は、職業相談、評価ということで、職業的なアセスメントを行い、その結果をもとに、どういう形で就職に向けて進めていくかといったこと を、テストなどを受けていただきながら検討します。
 2つ目は、職業準備支援。就職や復職のためのトレーニングのプログラムです。
 これは本所だけで実施していて、期間は2~3か月で短期集中です。
 通っていただいてプログラムを受けていただき準備をしていただきます。
 3つ目はジョブコーチ支援で、これはよく聞かれるものだと思います。
 支援者が職場を訪問して職場への定着のために助言します。
 4つ目はリワーク支援です。
 精神疾患で休職している人の復職のためのプログラムです。本所のみでの実施ですが、3~4か月通っていただき復職を支援しています。
 リワーク支援は精神疾患に特化してプログラムを組んでいます。高次脳機能障害の方は職業準備支援で復職を目指していただきます。
 次のスライドですが、これまでの話でも出てきていますが、高次脳機能障害の方の職業的な課題はどんなところにあるか整理しました。
 1つ目として、障害特性が複雑、見えにくいといったことから課題が出てきやすいと思います。
 周囲からの理解がされにくいのです。
 特に職場ですと、障害特性から来る特性が、性格や態度の問題とされてしまうこともあります。
 また、本人も困り感の認識ができにくいこともあり、そうなると対処方法を獲得したり、支援を受ける必要性を感じにくくなってしまうことがあります。
 こういったことが高次脳機能障害の課題だと思います。
 2つ目として、課題が多方面にわたります。
 作業遂行の中でいろいろな課題が出てきやすいです。
 また、職業面だけでなく、健康管理、家族関係や経済保障など、課題が多方面に渡ることも多くあります。
 3つ目として、中途障害ゆえに、障害の自己理解や自己受容がしづらいことがあります。
 中途障害で、あまりにも突然のことで、自分の状況や変化をなかなか受け入れがたいこともあるかと思います。
 4つ目として、支援がないまま就職又は復職し、職場において問題等が発生しやすいです。
 どうしても障害が見えないので、サポートがないまま就職、復職するケースが出てきやすいかと思います。
 実際、復職された後に、職場の中で問題が発生しやすいことが課題としてあると思います。
 5つ目として、在職中に受障することが多く、休職中の限られた期間での支援となるのです。期間ありきでのサポートになるので、こういうところにも難しさがありま す。
 次のスライドですが、高次脳機能障害の復職支援の流れです。
 私ども機構で作っている報告書のまとめです。
 新規に就職する場合も、基本的には同じようなことが言えると思います。
 1つ目は、障害特性、課題の理解です。
 これは先ほどお話ししました。
 2つ目として、生活、健康管理もしっかりと整えていかないといけないです。
 3つ目は、課題への対処策です。
 ここは、障害についての理解が深まらないと、なかなか取り組みづらいです。
 ご本人が意識を持っていきづらいところだと思います。
 この辺りをどう進めるかが課題になります。
 4つ目として、復職後の準備です。
 復職後の職務が決まれば、その職務への作業対応力を高めるということで、具体的な復職を描いたような取り組みをしていきます。
 新規就職の方の場合は、本人が求職活動でどんな仕事、作業をしたいか、ターゲットとなる職業への対応力を高めることになると思います。
 5つ目は、職場への依頼事項、配慮事項の整理です。
 実際に仕事をする中で、どういう課題があり、配慮が必要か、整理していかないといけません。
 このような流れがあります。
 次に、事業所側として下段に書いてあります。通常、事業所は、休職者が元の状態に戻って仕事をしてもらうことを考えます。
 まず1番として、後遺症として障害が残っていること、配慮が必要なことをまず職場の方に理解していただかないといけません。
 2番として、その状況の中で、従前どんな仕事をしていたのか、その仕事で実際に復職できるのか、難しいのか、難しい場合には配置の検討などをしていただくことに なります。
 3番として、復職を想定する部署にもし変更があれば、そちらの部署でも障害を理解してもらう働きかけが必要になります。新規就職の場合は、求職活動をしながら、 できる仕事かどうかを検討していただくこととなります。
 経験的にいうと、事業者側への具体的な情報提供が遅くなるケースが出てきやすいと思います。
 職場が復職を可とする基準や、復職後の職務の検討などがなされていない状況で支援を進めていくと、具体的な復職相談の段階で行き詰まることがあります。
 早い段階でサポートが必要だと会社にわかってもらうことが必要だと思います。
 ケースによっては、障害について全く伝えずに復職してしまうこともあります。
 実際復職する中で人間関係に問題が出てきて、そこで働き続けることが難しくなります。
 そういうケースもどうしても出てきますので、早めに企業への働きかけを考えていかないといけません。
 ただこの辺りは、本人や家族の意向もあります。支援機関で勝手に進められないので、この辺りの相談が大切になると思います。
 次のスライドです。ポイントとしては、本人、企業、双方への働きかけが必要だと思います。
 本人への働きかけは、障害理解や補完手段の獲得など、なかなか進みが難しいところもありますが、体験の積み重ねが必要なのかなと思います。
 職業センターでは、職業準備支援において実際に作業課題に取り組みながらエラーが起こる、それを知ってもらって、代償手段によってミスがなくなった、減ったとい うことを体感しながら気づきを促す形をとっています。
 次に、環境側への働きかけです。
 職業センターでは、ジョブコーチ支援においてサポートすることが多いです。
 事業所はわからないことだらけです。どうしてこういう問題が起こるのか、どう対処したらいいかなど、実際に復職した際には、ジョブコーチが一緒に会社の人と相談 しながらサポートしていきます。
 実際の場面において、職場の環境調整を行うサポートが重要だと思います。
 次に、ジョブコーチ支援のスライドです。
 ジョブコーチが職場を訪問して、障害のある方、企業、双方へサポートしていきます。
 大阪府内の就労支援機関には、ジョブコーチの方もかなりいますので、大阪はジョブコーチ支援が活発に行われている地域だと思います。
 次に、最後のスライドです。
 スムーズに進めるためには、まず家族の理解が大切です。本人が認識しづらいところもあるので、家族がサポートしながら進めるとやりやすいかなと思います。
 2つ目は、経済的な面での安心感、生活面での不安の解消です。
 この辺りは切実な問題だと思います。
 中途で発症して、働き盛りで、家のローンや教育費などの問題もあります。実際に労働条件の見直しも相談の中で出てくることがあります。
 例えば、障害年金なども含めて、この辺りをしっかりとどうケアしていくかが大切かなと思います。
 ここは、書いているように、医療機関、福祉機関としっかり連携をしなければいけないと思います。
 次に、障害についての説明と理解、職リハへの繋ぎです。
 本人に、障害についての認識を持ってもらうこと、また、復職の相談をする際には、支援機関によるサポートがあることを医療機関から伝えていただき、「繋ぐよ」と いうことで、橋渡しをしていただくことが大切かと思います。
 ここはまさしく、医療と就労支援の連携だと思います。
 最後に、企業への早期の説明と、復職までのプロセスを理解してもらう働きかけです。治って戻ってくることを期待してもらうのではなく、障害はあるが、支援やサ ポートを受けながら、仕事の再適応ができることをしっかり会社に知っていただくことが大切だと思います。
 ここは就労支援機関だけでは弱いので、医療機関との連携が必要になります。
 以上のとおり、あらゆる場面で医療、福祉、就労支援の連携、チーム支援が重要だということで、まとめさせていただきます。以上です。
 
長倉/ありがとうございました。
 事業主に対して主な支援をしている現場ですが、家族もしくは対象者にももちろんアプローチされている実践報告でした。
 フロアからの質問があれば、お聞きしたいと思います。
 どなたかいらっしゃいますか?
 
会場/私は、一般の会社で勤めています。
 難聴者です。
 会社に入ってから21年間は特にサポートらしいサポートは受けないまま進んできました。
 それは置いておきまして。
 役職になってから、後輩、部下とかができます。
 その時に、何か質問されたり、自分としても気になっているところとか、仕事の調整などしなければいけないことがあります。
 ジョブコーチのことなんですが、障害者の立場でお願いしたら聞いてもらえるのか、会社からジョブコーチ支援を依頼するのか。その辺のきっかけや経過、やり方など をお聞きしたいです。
 
松本/ジョブコーチ支援は、どういうきっかけで介入するのかについてですね。
 実際には職場への支援になりますので、会社がサポートを受けることを判断し決めなくてはいけません。
 例えば本人が支援が必要だということになれば、こういうことで困り感があって、こういうサポートを自分は会社で受けたいけど、どうだろうかと相談していただき、 確認しながら、双方で支援の必要性を確認し、会社から依頼をしてもらう形となります。
 
会場/確認ですが、ジョブコーチを受けたい本人が、直接その支援機関に言うこともできるし、ジョブコーチ支援を受けるときは会社から言うこともできるということで いいですか?
 
松本/本人がサポートを受けたいということで、会社に相談していただきます。
 会社と相談したということで、本人から連絡いただいてもいいと思います。
 ただ、会社からご連絡をいただいたほうがスムーズだとは思います。
 
会場/ありがとうございます。
 会社の中では、例えば簡単なコミュニケーションのサポートはしてもらっていますが、より詳しく、もっとしっかりとコミュニケーションをとりたい時は、自分から支 援機関に言ったほうがいいのかなと思ったのですが。
 
松本/ジョブコーチ支援は、手話通訳ではないということはご理解いただきたいと思います。
 その上で、聴覚障害があることで問題があって解決したい課題があることについてのサポートはさせていただきます。
 ありがとうございます。
 
長倉/松本さん、ありがとうございました。
 最後の演者です。
 一般財団法人箕面市障害者事業団、豊能北障害者就業・生活支援センターの内藤所長様、よろしくお願いします。
 
内藤/豊能北障害者就業・生活支援センターの内藤です。
 ここからは座って話します。
 就業・生活支援センターの立場から高次脳機能障害の方の関わりや、医療機関との連携についてご紹介します。
 本日の内容は、まず就業・生活支援センターについてです。
 大阪府内の就業・生活支援センターでの高次脳機能障害の方との関わり状況、支援状況の紹介です。
 あとは、我々が対応している関わりを紹介します。
 最後に、こういうふうに感じていて、将来こうなればよいというところを紹介できたらと思っています。
 どうぞよろしくお願いいたします。
 障害者就業・生活支援センターについてです。
 長い名前ですので、よく言われているのが、ナカポツとか、大阪府内では就ポツと言われています。
 「就業・生活支援」の黒丸が大事ということです。
 この制度は障害者の雇用促進法に基づいて取り組まれています。
 今年度4月現在、全国に337カ所、大阪府内には18カ所設置されています。
 35万都市に1カ所という配置を進めています。
 何をしているところかというと、障害者の身近な地域において就業面と生活面の一体的な相談支援を関係機関との連携のもと行っているところです。障害のある方の相 談ニーズとしては、これから働く、働きたいなどです。
 今、働いていて困りごとがあるのでなんとか解決したい、相談に乗ってくれないかなとか。
 就活に向けた相談と今の仕事の相談、それから就業生活ですので環境の変化でいろんなサービスがあることを聞いたけれどもよくわからない、どんな生活のサービスが あるのか教えてほしいとか。
 そういう相談があって、お話を聞きしながら、どんなふうに解決できるのか、どういう応援があるとやっていけるのか、本人さんのお話を聞きながら一緒に考えていく ところです。自分でできそうなところと助けてもらったほうがいいところを整理しながら「やっていけそう? まずやってみる?」と向き合っていきます。
 あとは雇用する事業主さんからの相談も受けています。
 新たに雇用を進めたい、障害者雇用率が上がることが見込まれているので、今から計画的に雇用を進めたいので知恵を出してほしいとか、障害のある従業員の相談に 乗ってほしい、雇用管理のところで苦労しているのでアドバイスがほしいというニーズもあったりします。
 我々だけで解決できる相談事もあるのですが、我々だけでは担いきれないことは、地域の支援機関、行政、ハローワークや医療機関など、ありとあらゆるところと連携 してその人の安定した就業生活の実現、会社さんの中では雇用率の維持など、その辺りのための相談支援をしています。
 年齢でいうと雇用保険に加入できる年齢を対象としています。
 昨今、雇用保険に加入できる方の上限がどこまでだったかな? と思うくらい天井がなくなっている状況ですので、新規相談で70歳という方も徐々に増えてきていま す。
 息の長い相談を、ポイントごとにときには綿密に向き合ったり、ときには1年に1回お目にかかって、いい感じなのねとか、会社さんも含めてフォローや相談をしてい ます。検索していただいたら似たようなフローがいろんなバージョンで出てくると思いますのでご覧ください。
 ここからは就業・生活支援センターの実績から高次脳機能障害の方を中心にまとめたものです。
 知的に障害がある方が半分弱。精神障害者が4割弱で身体の人が少ないです。
 その他の中に実は高次脳機能障害と診断された方も含まれていたり、精神保健福祉手帳をお持ちの方にも含まれています。
 登録者の就業状況として在職中が6割弱です。
 これから就活する人が3割ほどです。就業・生活支援センターがスタートしたときには求職中の人の割合が多かったのですが、だんだん働いている人の割合が増えてい ます。
 高次脳機能障害は6%なので全体では少数です。
 秋現在では登録者620人のうち、身体が36、精神が261、全国平均と大体同じです。
 高次脳機能障害と診断されている方はちょうど10名です。
 診断できない方も入れると、20人もいない感じです。
 たまたま豊能北では障害者手帳を皆さんお持ちですので、その他の中には入っていないです。
 豊能北は、人口規模としては少ないエリアを担当していますので、大阪府内のナカポツセンターに協力を仰いで、高次脳の診断されている方の登録者数とか、どんな感 じでつながっているのか、アンケートやインタビューをさせてもらい、まとめたものをこのあとのスライドで紹介します。
 アンケートの回答結果としては1割満たないところが多いです。
 ①のうち就労中の方が5~8割、求職中が4~9割です。
 就労中の方が多いことがわかります。
 登録時の年齢は、10~20代です。
 最高年齢は50~60。働き盛りの方です。
 ④退院直後やリハビリ中が5割弱です。
 6~10年後につながった方が1割強、10年以上が2割ほどです。
 復職支援もありますが、離職後に再就職されていたり、就労経験がまったくなくこれから初めて就労する方の相談もあります。
 医療機関からだいぶ離れてから相談する方もおいでです。
 続き、⑤です。相談につながるきっかけの多い順番です。
 回復期やデイケアに携わっている間にとか、ハローワークさんの相談からとか、自立支援センター、入所型の自立訓練をしているところですが、どこかに通所している など、多い順になっています。
 登録後の連携先として多いのは、ハローワーク、職業センターです。
 続いて、医療機関、自立支援センターなどになっていきます。
 ⑦医療機関との連携の目的、多い順番です。
 病状や障害程度の確認、障害者手帳や障害者年金の取得の可能性で医師に意見を求めたり、就労や復職に向けて、どんな働き方が無理なくできそうか、どんなサポート があったらいいか見立てをいただいたりして、連携をしているという回答が多かったです。
 ⑧です。医療機関に、こんなことをお願いできたら、言うのもはばかられそうなこともありますが。
 就業・生活支援センターの役割としては、高次脳の方以外にもいろいろな方の相談を、その人を通じて初めて知るような病気や障害だったりするので、そこから知って いくというように、広く知りながら取り組んでいますので、医学的な専門用語が並ぶと、一緒に話を聞いていても「何だったんだろう」となるので、できたらひらたい言 葉でお話しいただけると、我々はそこからしっかりと調べていきます。
 そんなフォローをいただけると我々としてはありがたいと、心の叫びとしてあったので、紹介をさせていただきました。
 ⑨その他です。
 いろんな関係機関と連携していると改めてわかった一方で、高齢でいう、ケアマネさんに当たる障害福祉のサービスの計画相談をやっている事業所さんとの連携がまだ 少ない、これから増えていくのかな、みたいなことがアンケート結果から見えてきました。
 関わり例です。
 これは、我々豊能北の例です。
 ①の事例は、相談開始は20代です。
 受傷後復職を願ったのですが、うまくいかず、転職相談でハローワークを通じて我々につながってきました。
 この方はまだ若かったので、入院リハとか、そことも連携ができた方でした。
 我々と相談につながった後、気づきを促したり、手立て構築のために通所したほうがいいかなということで、つないだりです。
 改めて高次脳のアセスメントをしっかりしようと、職業センターの職業評価を依頼したり、就職が決まるときは、手厚い支援があったほうがうまくいくのではと、ジョ ブコーチのコーディネートをしたりです。離職もありましたが、また転職して継続している、若い例です。
 ②は40代後半でした。
 能力開発校からスタートして、受傷後20年たって就職された方です。受傷は30代でしたが、入院リハで地域に戻って、能力開発校や作業所を10年ぐらいでした。
 働くことはイメージになかったけど、またチャレンジしてもいいのかなと、そんな声を通所先がキャッチして、我々のところにつながり、40代からの関わりでした が、頑張ってみようかと、就職に向けて一緒に通所先と連携しながら就職が実現しました。
 この方はもうすぐ定年です。定年後の身の振り方も相談しているところです。
 ③は相談開始が50代くらい、もうちょっとで60かなというところでした。
 受傷して自立支援センターから地域につながってきた方です。
 職場復帰を目指した関わりということで、自立センターさんから、「使たらええで帳」、大阪府で作っているものです。検索してもらえたら、誰でも使える感じで出て きます。しっかり整理されているので、就業・生活支援センターとしては非常にありがたいもので、連携しながら支援をさせてもらえたケースです。
 この人も定期的に訪問して、会社の人もいい感じですよとか、疲れすぎない程度にやっていますと、確認しながら継続されています。
 高次脳の方が活躍しているお勤め先としては、元々のところに戻る方は少ないのですが、あらたに転職や配置換えということで、負担の少ない現場が多いです。
 勤務先でのサポートとしては、時短やこまめな休息、疲れやすいからということで配慮いただいています。
 物の環境を整理整頓されているほうが、どこにあるか皆が分かるようにしてもらったり、メモを取る時間を確保していただくなど。
 そんなサポートを受けながら継続されている方が多いです。
 アンケートをする中で、大阪府も北から南までありますが、拠点病院の地域の例としては、高次脳機能障害の拠点病院からナカポツに相談があって、拠点病院に受診同 行したり、リハビリ計画など、手厚い連携が実現している、そんなエリアもあるのだと、地域によって差があると改めて感じました。
 アンケート結果から見えてきたことです。
 ナカポツにつながるケースは、高次脳に限っては、そんなに多くないことが見えてきました。
 言い換えると、全くニーズがないわけじゃないけれど、医療機関、家族、職場のサポートで就業生活に戻っていけるので、我々のような支援機関がなくても大丈夫な ケースも一定あることが見えてきました。
 さらに言い換えると、我々ナカポツにつながるケースは、就労支援機関の支援力がいるというケースなんだなと。
 ということは、医療機関からの情報がしっかりとあった方がスムーズというケースが多いです。
 医療機関との連携で、連続性を持った関わりとなるために、スムーズな対応や本人の自己理解の促進につながるためには、連続した関わりができた方がいいんだなと見 えてきました。
 実は、ナカポツはどんなタイミングからでも相談ができるところです。
 年齢も、働いている、働いていない、これから働くねんという、どこからでもつながることができます。
 「働きたいねん」という自己実現の気持ちがあれば、いつからでも向き合えるところです。
 我々としては、必要なタイミングにつながりやすくするためには、ナカポツの役割をいろんなところに発信していかないといけません。長い目でみると、我々も関係機 関の顔ぶれも変わっていくので、継続して発信していく必要があるのだなと思います。
 相談に来られた方も安心して、何とかなると思ってもらえるところになると思います。
 我々ができることや、いつでもつながって来られることを、皆さんに知ってもらえるように我々も発信しないといけないと、今回のアンケートで改めて気づいたところ です。
 
長倉/ありがとうございました。お時間の関係で内藤さんへの質問は、次の全体ディスカッションでお願いします。
 内藤さん、ありがとうございました。
 
 それでは、シンポジウムを始めます。
 シンポジストの方は、前の方へ上がっていただきたいと思います。
 最初の流れのところでシンポジスト間のディスカッションをやろうという話をしましたが、時間の関係もありまして、最初にまず指定発言として、高次脳機能障害の当 事者である道崎さんからお話をしてもらおうと思います。お聞きください。
 
道崎/はじめまして。道崎圭介です。
 私は専門学校を卒業後、株式会社A社に就職し、このときは一般社員として入社しました。
 A社に勤めているとき、スノーボードで転倒し、生死に関わる大けがをして、頭に傷を負い、高次脳機能障害になりました。
 両上肢軽度機能障害6級と体幹機能障害・歩行困難3級があります。
 現在は記憶の定着が難しく、視野狭窄で両目とも右半分が見えません。
 また足が悪いため、長時間の立ち仕事やしゃがむ作業、動作が苦手です。
 コミュニケーション能力には自信があったので、いろんな人と明るく接することができます。
 その後、立ち仕事が困難なため退職しました。
 就労移行をし自分の障害に向き合い、企業実習を重ね就活しました。
 平成28年にB社に入社しました。
 記憶の障害でミスをしたと、直属の上司から頻繁に注意や、しかられることで、人間関係に悩み、人事の方や支援者に相談し、改善に努めましたが、上司との関係が悪 くなり、退職しました。
 その後、アップル梅田に戻り、就職活動を中心に頑張り令和2年にC社豊中店に入社。
 現在も職場の方々の理解を受け、自分らしく働けています。
 会社からの合理的配慮は、身体的に重いものが持てない点を理解いただいています。
 指示は一つ一つ優先順位の順番で出していただいています。
 自分の努力として、自分で障害を説明します。
 メモをとり、確認しながら進めています。
 わからないこと、困ったことは応援を頼みます。
 社員の方々とコミュニケーションをとるように努めています。
 以上です。
 
高岡/ありがとうございました。
 今もC社には勤められているということですね。
 今は楽しくお仕事できているんでしょうか?
 
道崎/ぼちぼちです。
 
高岡/仕事だから楽しいとは限らないですよね。
 でもぼちぼちということは、継続できるということで、いいなと思います。
 一つ質問します。
 一番最初にもとのA社に戻ったときには、特別な支援は受けないで、治療が終わったらすぐ戻ったということでしょうか?
 
道崎/そうです。
 何の支援も受けないで、そのままリハビリテーション病院から退院してそのまま会社に復帰した形で、何の支援も受けていないです。
 
高岡/なるほど。
 そこのリハビリテーションセンターは大丈夫だったんだろうかと思っちゃいますが、あんまり言うといけないですね。
 
道崎/一応ジョブコーチの方からは支援を受けました。
 仕事現場を見て確認してもらいました。
 
高岡/じゃあ、リハビリテーション病院が悪かったなんて、簡単に言っちゃいけなかったですね。
 今から思ったら、もう少しやっておいた方がよかったことはあると思いますか?
 
道崎/もっと自分の障害とかについて、いろんな人に理解してもらうために、会社の人とかにもしっかりと言った方がよかったなと思います。
 会社の方にも言っていなかったので、重いものを持って、初めてぎっくり腰になってしまいました。
 
高岡/重たいものを持ったりとかね。
 もう一度、道崎さんに拍手をお願いします。
 では、道崎さんのお話を受けてということでなくてもかまいませんが、最初にシンポジストの中で最初に確認しておきたいことがあれば、手を挙げていただければと思 います。
 特になければディスカッションに入ります。
 今日、病院の急性期・回復期・リハビリテーション・就労支援の期間のお話をいただいたんですが、どう連携をするか、どういうタイミングでつないで支援に入っても らうのかというのは非常に大事だというお話をしました。
 医療からではなくて、後ろの方というと言い方が悪いんですが、就労支援をしているナカポツセンターや職業センターから見て、どういうタイミングでバトンタッチし てもらうといいのか。
 内藤さんはどんなタイミングでもいいという話でしたが、復職とか期限があるときには、どのタイミングでもいいとは言い難いと思います。
 理想としては、どういう感じのところでバトンタッチしてくれるといいのか、お話しいただきたいと思っています。
 言い難い部分もあると思いますので、私が最初に申し上げます。
 我々は回復期のあとの医療なんですが、復職の期限がある人の前提で考えると、回復期は退院後、外来で少し引っ張って治療してくれるんですね。
 休職期間が3か月を切ったくらいで、我々のところに就労支援よろしくって紹介してくるんですね。遅いっていう話なんですよ。3か月じゃ何もできない。
 でもやるんですけれども、十分なことができないということがあるので、あまり回復期で引っ張りすぎないでくれよと普段から思っています。
 もっといいタイミングで送ってほしいと私は思っています。では内藤さんからお願いします。
 
内藤/我々のところに来なくても、恐らく復職できている方は一定数いらっしゃいます。率直に言えば、早めにとは思うのですが、状態がまだ安定していない中で、例え ばご家族の方から、お父ちゃん意識がないんだけど、まだ入院しているんだけど、もう相談に行ってもいいですか? という連絡もよくあります。
 まだ何ができるのかわからないので、私たちはこういうところなんですと、ご家族には説明しています。
 ある程度、病状が回復してきて、こういうふうに地域に戻れそうだという段階になったときに、そこから伴走ができると、実際の関わりはもう少し先になるとしても、 理想的な感じだと思います。
 ただ、本人さんの受け止めのタイミングを後回しにしておくと、我々としては、外堀だけ埋められて、向き合う準備をしていたけれど、本人さんが拒否してしまった場 合、せっかく準備してきたのに何も向き合えなくなる、もったいないということになってしまいます。
 そのようなこともあって、どのタイミングからでも大丈夫、そのときの状況でなんとかしていくというのが正直なところです。
 
高岡/確かに早すぎても困るというのは我々もありますね。
 早く来るんですけど、もうちょっと様子を見ていたらよくなるのでは? ということも確かにあります。
 ただ、早めに相談いただければ、継続してみていく中で、そこはうちで支援しなくても大丈夫だねと言えるので、そういう点では、早めがいいことがあるかもしれない と思います。
 
内藤/就業・生活支援センターの状況にもよると思います。
 豊能北は田舎を担当していますので、どちらかというと逼迫してないと思いますが、人口規模が大きい、登録者が何千人というところもあります。
 どこも同じように対応すると受け止められると、豊能北の内藤さん、何言ってるのと言われそうです。
 
高岡/それは内藤さんに処理していただくということで。各地域で役割がちょっとずつ違っている、ほかの支援機関との関係もあると思うので、そこはすべてナカポツセ ンターに早く行けという話ではないことは確かです。
 では、引き続いて、松本さん、お願いします。
 
松本/なかなか難しいですが、職リハは回復を目指している支援ではないので、ある程度、障害、後遺症が回復されて、この先は大きく変化はないという段階になると、 今度は、それにどう対処するかという対処方法の獲得という支援になりますので、具体的なところは、その辺りなのかなと思います。
 ただ相談という形では早めにいただけるといいのかなと思います。
 本人を介する相談ではなく、実は、こういう方がいて、こういう状況で、今後こういうサポートが必要になると思うという相談をいただくと、こういうところをやって みてください、という話もしやすくなります。
 本人の直接相談となると、本人も具体に期待されますので、その前段で支援者間の相談がまずあるといいと思います。
 特に休職中の方の復職支援ですと、会社へのアプローチをいつ、どうするのかが重要です。
 どうしてもここが置いて行かれるんです。
 相談いただいても、まだ何もそこは関わっていないですと。
 会社は復職に関してどんな考えをお持ちですか、お仕事は検討できそうですか。
 この辺りは、具体的に職リハが始まってからでは遅いんだろうなと思います。
 もう少し前の段階で、この後遺症が治らない、サポートを受けながら復職を進める、そこに協力してくれるところがあるのか、ということがあるといいです。
 少し話に入れて進められると、具体的に転がっていきやすいと思います。
 
高岡/職業センターだと、企業側というか会社側へのお話もやっていただけますか。
 
松本/もちろん、企業に対して、この仕事は難しそうなどの具体的なところは話していきますが、まずこの方の疾患からくる後遺症はこういうもので、これはもう治らな いというところは、私が思うには、専門の医療機関やドクターからしっかりとお伝えいただいたほうが、会社にもそういうものだと理解いただけると思います。
 我々が介入すると、元の状態になって戻って来るのを待っていますというような返しになることもあります。
 そこは早めに話があって、会社としてどうしていくのかを社としても考えていただく時間が必要だと思います。
 具体的に支援をして、あと3か月です、ということだとなかなか進んでいかないのが現実です。
 むしろ連携して進めていく、サポートはこういう支援機関がしますというのが、本当に連携なのかなと思うところです。
 
高岡/そこは、具体的に医療機関と連携されていくのですね。
 会社は全く悪気がなくて、良くなったら戻ってきてねとおっしゃるんですよね。
 それはそうだなと思いつつも、良くはなるけど、完全に元には戻らないんだよなと思いつつ、どのタイミングで言ったらいいのか、我々も迷うところでもあります。
 引き続き、田代さん、就労移行支援の立場、今は相談の立場でしたが、どうでしょうか?
 
田代/復職のケースですと、満了期間から逆算して、できれば半年くらいから支援を開始したいと思っています。なので、それより前に相談したいので、理想は本当は9 か月ぐらいあると、いろいろとできると思います。
 相談自体はこういった方がいるんですと、医療機関や支援者からいただいて、実際の就労移行では、できれば半年くらい期間がほしいのが現状です。
 なぜかというと、休職期間満了をもって退職になってしまうこともありますし、それとともに傷病手当がそこまでとなり、経済的な問題も絡んできますので、そういっ た意味でも相談は早めにいただいて、実際の支援は6か月くらいいただけるとうれしいなと思います。
 
高岡/ありがとうございます。
 同じ施設なので、突っ込むところはないですが。
 私も半年はないと困るなと思います。
 本当は9か月と言われると、そのとおりかもしれません。
 我々のやり方の問題もあると思いますが、改めて外来医療としての評価を行ったりした上で進めることもあります。
 余裕を持っていただければ、本当は9か月くらい。
 意外と最近の事例を見ると、1年近くかかっての復職の方もいらっしゃるにはいらっしゃる。
 先ほど、すごく短くて大変だと、そういう方もいますが、比較的早く、よくわかってくださるところはつないでくださいますので、余裕を持って対応すると、なんだか んだ1年くらい就労支援に通っていましたという方も、最近いるかなと思います。
 今度は送るほうの立場として、中村さんからお話しいただきます。
 中村さんのところは、回復期のところでよく取り組まれているので、一般的じゃないかもしれませんが、お願いします。
 
中村/一般的では全くありません。
 言いたいのは、就労に向けての出口というか、回復リハはそういう役割を持っていると思います。
 回復リハのスタッフは全体的なスパンを見ながら考えていかないといけません。
 あと1点。
 休職期間は、みんな一緒なんですか?
 会社によって違うんですか?
 
田代/今年令和6年の1月の最初の外来だった方で、休職期間が5か月だった方がいて、いらしたときには、もう残りが1か月となっており、きちんと会社に確認してい ただくことは必要だなと思います。
 
中村/わかりました。
 私ができることは、そういう現状を作業療法士に伝えることと思います。
 大阪府の作業療法士会は、就労に関する委員会を設置しチームを組んでやっていますが、就労側との情報交換の場が少なくないのが現状です。
 医療側からの申し送りなど、相互に伝えたい情報のコンセンサスが得られていないんじゃないかなと思うところがあります。検討課題だと思います。
 ここに来てまさにそう思いました。
 あと一点、みんなで頑張っていき就職期間を延ばせるように頑張らなければいけないということだと思います。労働側の問題なんですが。
 
高岡/休職の期間については松本さんから明確にしてもらったほうがいいかもしれません。
 必ずしも法律で決まってないですものね。
 
松本/会社にもよるし、在職期間によって変わってくるケースもありますし。
 確認しないといけないんですね。
 傷病手当を終わったあと賃金補填する会社もあるようです。
 本人がなかなか聞けないという場合もあるので、自分の会社がどういうシステムになっているか、確認を促す必要もあると思います。
 
高岡/休職そのものは本当に決まりがなくて、会社によっては休職制度なんてなくてもいいなんて言うところもあります。
 正当な権利ではなくて、配慮によってある休職の制度だと聞いています。当然休職できるんだという態度ではいけないということです。
 
堀/当院は急性期期間の病院で、ご病気を発症されて来られるので基本的には病気の治療が終わってから、回復リハビリテーションにつなぐことが多いです。
 どの時期に紹介すればいいのかは、当院としての役割は、まずは患者様に急性期はしっかり治療してもらいながら、ご家族等に就労情報をインテークして回復期病院に つなげることが大事だと思っています。
 スライドでもお見せしましたが、ソーシャル等からインテークした内容をいかに伝えるか大事なところだと改めて思ったところです。
 
高岡/急性期から回復期にバトンタッチできるケースでは、回復期にお任せしようというふうになるんですけど、結構、頭を打ったけど元気だから帰るかとおうちに帰っ た人の中に、実は…ということもあるそうですが?
 
堀/ご指摘のとおり、麻痺等も何もなくて、おうちに帰られて、当院では、慢性期の脳外傷で高次脳機能障害が起こりそうな患者様にはリハビリを介入させていただい て、評価を行った後、注意障害がみられる患者がいたら、極力、リハビリ科で定期的にフォローし、その中で就労・就学に困りそうな場合は両立支援コーディネーターと 相談しながら、つないでいく取り組みは行っています。
 
高岡/言い方は悪いですが、ちょっとあやしいな、もしかしたら課題が出るかもしれない方は、フォローをしていこうというところですね。
 次に、堀さんのお話の中で、いったん戻った方に定着の支援が必要ではないかという話がありました。
 定着支援を誰がどうやるかという課題があると思います。
 堀さんのところでは、どういう形で対応するといいと思いますか?
 
堀/なかなか定着支援も、医療だと結構途切れてしまって、いつの間にか病院にかからなくなることがあるのが実情です。
 ただ、高次脳機能障害が残った方で、麻痺がある方で身体障害者手帳等を持っている方は、障害年金も一緒に受給されていることが多いです。
 基本的には半年に一度くらいは私どもの中ではフォローしながら障害年金の診断書を書くのと一緒にあわせて「お仕事どうですか?」と聞くと、やはり実は上司が替 わって、こういうことで困っていますとか、職場配置転換がいつの間にか行われていて困っていますというお話を伺うことがあります。
 理想を言えば私どもでもフォローを続けたいということがあります。
 ただ数がどうしても、全員をフォローすることができないこともあるので、そういったところを福祉の立場でしていくことができる可能であればいい。そこで困ったこ とがあれば、また医療機関にご相談いただけると連携になると思います。
 
高岡/同感です。中村さんのところでは定着支援に関して、回復期リハでの取り組みで考えられることはございますか?
 
中村/先ほど言われたように医療は病院に来ていただいて、そこで初めて門が開きます。
 なかなか難しいですね。
 リハビリテーション医療の中には、デイケアや訪問という手段もあります。
 軽い人は別ですが、そういう資源を使って継続的にみる仕掛けはあるかなと思います。
 あと一点、介護保険はつなぐときにケアマネさんがカンファレンスに参加し、経過や方向性を共有します。
 うちの病院から退院するときにカンファレンスの場に、就労側のスタッフも参加できる仕組みがあったらと思います。そういう仕組みが全くないので、今後の検討課題 と思います。
 一つアイデアとして考えました。
 
高岡/ありがとうございます。引き続き定着ということで、田代さん、どうでしょう。
 
田代/就労移行支援事業所は、定着支援6か月が必須となっています。
 そこは必ずしているので、本人と会社との関係ができていれば、会社の方にも状況は聞くことは可能かなと思います。
 当センターの特徴としてなんとなく1年くらいは本人さんに連絡をとっていたり、場合によっては当センターの外来が続いていたりして、そういった意味では、定着と いうよりは、モニタリングが可能だと思っています。
 高次脳機能障害の方だと、堀先生もおっしゃっていましたが、精神保健福祉手帳は2年に1回更新がありますし、年金も同じなので、そういったところでも、順調に働 いていても、2年後の年金や手帳の更新時に状況を伺うことができます。そういった意味でモニタリングが何となく続いているのが現状かなと思っています。
 
高岡/ありがとうございます。
 松本さん、定着支援ではないかもしれませんが、いかがでしょうか。
 
松本/定着で言うと、職業センターは相談で利用されている方に関しては、必要な方には定着支援は継続的には支援します。
 ジョブコーチ支援などで集中的にサポートした方は、その後も一定期間はフォローアップします。
 ただ際限なくではなく、ある程度目標を立ててここまでとして、あとはいったん終える。
 再度、何かあったらヘルプ出してよと、それを本人や、会社にもお伝えをして、フェイディングをしていく形です。
 
高岡/ナカポツセンターだと、定着支援とはちょっと違うかもしれませんが、かなり長期にみていく点では有利といいますか、見られる感じがありますが、いかがでしょ うか。
 
内藤/通所している就労移行がやっている就労定着支援とか、ジョブコーチが集中的に支援をしている就労定着支援とは、スタンスが違います。
 同じ就労定着支援というワードではありますが、それぞれの役割としては、全く別ものになってきます。
 我々のところで言う「定着」は、自助力 自分で対応できる力、ともに働く会社さんの支援力、雇用管理力といったところが、おそらく就労移行でもジョブコーチ支援 でもフォーカスしてパワーを注いでいます。
 自分のとこで運転できるようにしましょうというスタンスで関わっています。
 ただ、何かあったら相談してね、また一緒に考えるから、というスタンスだとは思います。
 就労移行になると、退所後のフォロー期限が終わる半年後や就労定着支援のサービス利用が終わる頃に地域の就業・生活支援センターによろしくと来られます。
 同じように毎月支援や面談をやってくださいと言われると、限界性があったりします。
 もちろん、自助力でできそうなところ、会社の雇用管理力が高まれば、支援としての介入の度合いはぐっと下がるので、そこを目指した関わりになります。
 とはいえ、急に支援ニーズがぐんと上がったり、全然違う職域をやることになると、また介入の度合いを一瞬ぐっと上げて、いい感じとなったら、小さい子どもさんが 自転車に乗るときに、補助輪を付けていたのが、なくてもいけるかどうか、安全に平坦なところから始めて、平坦な道がうまくいったら、ちょっとアクティブなところへ 行こうかと、そんな関わりになってきます。
 何かあったら早めに相談してねと言っていますが、場合によっては、「こういうふうに解決できたよ」と近況を教えてくれる会社や本人、そんなところを目指して関 わっています。
 際限はないですが、頻度はぐっと少ないといったところです。
 
高岡/仕事の定着に関しては、生活面が安定しなくなり、それで仕事が続かないなど、仕事だけじゃない面もあると思うので、ナカポツセンターでは、そういうところも 含めてみていただけている気がしています。
 内藤さんのお話でした。
 ここで、会場からご意見あるいはご質問があったらお受けできるかなと思います。
 いかがでしょうか。
 
会場/神戸で就労移行支援事業をしています。
 中村さんの発表に少し違和感を覚えて、先ほどの討議の場で、ああなるほどと思った部分もありますが、それでも、少し違和感があります。
 大昔の同僚のよしみで失礼を承知で質問します。
 何かというと、事例の発表とかもありますが、医療から就労・就学まですべてに渡って病院で自己完結する、そういうイメージを持ちました。
 それだけ高次脳機能障害の持っている医療の占める役割が大きいんだろうなということと、討議の場所で、回復リハの役割として、次のステージにつないでいくという のも、そういうことなんだろうなということで、一部納得しました。
 それでもなおかつ、その人の長い職業人生とか、さまざまなライフステージにずっと関われるわけではないでしょうから、早めにその人を支える地域のネットワークづ くりが必要なのではないかと思います。
 カンファレンスの場に地域の人が入ってきて、座長が言っておられるようにバトンタッチするということですが、バトンタッチをしてしまうと、地域連携は果たせない んだろうと思います。
 時計の振り子のように医療もバトンタッチしたから知らないということではなく、症状が変化したときなどは、ずっと関わっていく地域づくりを、病院中心にして当初 はやってほしいです。
 つまり、私の連携のイメージは、得意技を持って苦手なことを解決するアイテムを手に入れる主体的な行動だと思っています。
 医療機関はまさに得意技としては、医療の知見だと思います。
 ぜひ回復期リハなど呼びかけて、地域の中に本当の連携基盤をつくっていくような働きかけをしていただきたいなと思いました。
 
高岡/先に私がバトンタッチと使ってしまいましたが、完全に渡すという意味ではございません。
 主体はどこかに渡すかもしれないけれども、伴走する、並走するつもりで私はやっております。中村さん、よろしくお願いします。
 
中村/言われたとおり、今回の事例は、目標がはっきりしていて、連携している相手、ターゲットがはっきりしています。
 本人の意識が高くて、能力も残されていました。
 少しのアイデアや、気づきを得られる機会や環境を作ったら、復職や就学が可能になった、恵まれた事例だと思います。
 病院完結とみられるかもしれませんが、私から言いますと回復期リハの良さはそこにあると思います。
 回復リハビリテーションはADLが主体となっていますが。
 もう少し回復リハの中でも、やることはいっぱいあると思うんですよ。
 そのためには病院から作業療法士やSTもそうですが、現場に出すような仕組み作りをしていただいたら、もっと回復リハも変わっていくと思うんです。
 当然、ほとんどの方が在宅で生活されるわけですから、そこの入り口のところですけれども、そこをもう少し太くしたら、もう少し楽な生活ができるのではないか。そ ういうメッセージを込めてあのような話をさせていただきました。
 当然、病院も地域の中にありますので、その地域をどうやって耕していくかの話がありました。
 その方向でやっていかなければならないということだと思います。
 ひとりよがりにならないように注意します。
 
高岡/よろしいでしょうか。次の質問をお願いします。
 
会場/横浜市総合リハビリテーションセンターの伊藤です。
 私も同じ質問をするようですけれども、このシンポジウムの対象は高次脳機能障害ですから、ちょっと違和感があるのは、医療、生活支援、就労移行、就労、そういう 流れは、身体障害の歴史の中でつくられてきた社会の仕組みだと思います。
 高次脳の場合は、期間的にも長短があります。
 もちろん身体障害を伴うこともありますけど、軽度な人たちは、ほとんど医療から直に復帰しています。
 そして困って戻ってくるということが多い印象です。
 中重度の人たちは取り残されています。
 このことを考えると、高次脳について改めて仕組みを作っていく必要があると思います。
 高次脳については、とりわけ、就労でやっているジョブコーチ、人が入るのがとても有効な仕組みだと思っています。
 個別ケースとしてやるのではなくて、社会の仕組みとしてジョブコーチが入るということを想定してはいかがかと思います。
 今、回復期の話が出ました。
 そこで訪問リハが行われる。
 回復期は、回復期リハ病棟なんです。回復期リハ病院ではない。回復リハ病棟で行う訪問リハの主目的はADLを支援する環境整備で、そのほとんどが脳卒中対象です ね。
 訪問リハで就労支援をやるのは総合的でいいと思うんですが、今のご質問にあったように、ここはあまり長く引っ張るところでもないと思います。
 どうやって就労移行につなげるか。
 ここの連携が仕組みとしてできていない。
 ジョブコーチと同様に、セラピストがつなげるという日常的な仕組みを作るという目標をもつ必要があると思います。
 そこに疑問をもっていますので検討してほしいと思います。
 
 
高岡/特に反論できないんですけれども。
 内藤さんから今のコメントに関してございますか。
 
内藤/就業・生活支援センターのように、働くとか、働き続ける、場合によっては働くことを卒業していくところも寄り添っていくところです。
 働くというキーワードではありますが、その人の2~3年先とか5年先もイメージしながら、今の家族構成が変わってくるなとか、今の収入がどれぐらい維持できるか なとか。
 我々も何でも解決できるというより、その方が地域で生きていくためにはどんな支援機関、応援団、チームに入ってもらったらいいのか、こういうときは、ここに助け てもらったら、ニーズがはっきりしなくても向き合ってくれるよとか。
 地域で支えていくために、どこを巻き込むべきかの視点で、なおかつ働く、働き続けていく、健康を維持していくとか、定期的に通院してるかなとか お薬のんでるか なとか、その人がナカポツがなくても地域で生きていけることを考えるところです。
 なので、いろんなタイミングで、就労移行が終わってからとか、つながってきますが、働くということについてはやるんですけど、ちょっと待って、この人、病院行け てないみたいだけど、体調を崩さないかな? とか。
 よく聞いたら、ご高齢の親御さんと一緒に住んでいる、この人の応援、誰がするんだろう? 
 とか。
 支援が要る子どもさんがいるね、この人は誰が支えるんやろ? などのようにかかわっていくと見えてきます。
 高次脳の方に限ったことではないのですが、そういうことも含めて、家族の応援団とか、行政や支援機関に限らず、地域のお隣さんとか、民生委員さん、見守ってねと か、そういったことも含めてコーディネートしていく。就業生活と言いながら広い視点で見ていく。
 その中に医療機関があったり、ジョブコーチを入れた方がいいのかな、通所に行った方がいいのかな、よくわからないけど、初めての支援機関と連携したり。そういう ことが多いにあるのが便利なナカポツと言われる部分なのかもしれません。
 地域差はあると思いますが、そんな視点で向き合っていると思います。
 
高岡/中等度者への対応として、中村さん、今の伊藤先生のコメントに対していかがでしょう?
 
中村/労働を考える場合、労働開発ということがありますよね。
 そういう意味では、中重度の人の労働がどうあるかということの研究が、まだまだ進んでいないし、AIとかさまざまなデバイスを使ってできることもあるんですけ ど、高次脳機能に焦点を当てて労働の可能性にまだまだ取り組めていないのが現状だと思います。
 ただ、やっぱり残された機能、能力を使ってその人らしく生きていく、それで労働がある程度できるようになる。そういう目標に向かって取り組んでいくべきだと思い ます。
 また怒られるかもしれませんが、そういう意味では、病院の機能は、回復期リハが思っているところは、障害を十分理解しているところもあると思います。
 病院そのものを労働環境の1つとして捉えて、中重度者でもそういう役割が担えるような環境にできればいいのではないかと思っています。
 
高岡/ありがとうございます。
 何を持って「軽度」と言うかは、非常に難しいなと、逆に高次脳の場合は思います。
 比較的スムーズに期間を区切って復職なり新規就労にいけるかなという人と、伊藤先生がおっしゃったように、なかなかその期間では戻れない、あるいはつながらない という、簡単に言うと重たい障害のある方がいます。
 そういう方たちは、いかに経過を見ていくのか、あるいはステップを踏んでいくのかというところの計画を立てないといけないと、日頃感じています。
 ここはこのぐらいにします。
 手を挙げられていた方がいたので、質問がある方、よろしいですか? どうぞ。
 
会場/吹田から参加しました。
 高次脳機能障害という障害がなかった頃からの当事者です。
 暦でいうと、35年という、けっこう長く、失敗も経験もいろいろしてきた人間です。
 今日、違和感をすごく感じてしまいました。
 症状を理解してくれと先生は言われたけど、僕の考え方では、自分でできることは、自分で考え、工夫せえと言われた時代でした。
 だから、障害者はいつでもできひんと見られてしまって、できることまで奪われるという現状です。
 その辺は、僕一人でなんぼ言っても解決できないので、先生方も一緒に協力して変えていってもらいたいと、今日は参加したんです。
 その辺の協力、よろしくお願いいたします。
 以上です。
 
高岡/ありがとうございました。
 なかなか議論を深めることは、この時間の中でできなかったところもありますが、そろそろ終わりにしなくてはならなくなってきました。
 最後に、各演者の方から、今日の感想でもコメントでも、順番にいただきます。
 まず堀さんから、順番にお願いします。
 
堀/本日は大変貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
 私は急性期病院に勤めていることが多かったので、正直な話をすると、今日の午前中からの話を聞いて、福祉の実際の現場で皆さんがどう働いていらっしゃるか、どう いう支援をしているか、今回の機会で深めることができました。
 本当に貴重な機会をありがとうございました。
 
高岡/ありがとうございます。中村さん。
 
中村/貴重な機会をありがとうございます。
 栗原実行委員長が本当にきめ細かにいろいろな段取りをしていただきました。
 これぐらいきめ細かにする必要があるんだなというのが感想です。
 仕事の向かい方というのでしょうか、それを教えていただいたシンポジウムでした。
 人権だとか、障害者権利条約も見直しましたし、働くこととはとか、人とは、とかを学ぶ機会になりました。
 それをなかなか伝えられず、もどかしい気持ちはするんですが、ただ、回復期リハビリテーション、リハビリテーションというのは、そもそも全人間的復権が目標で す。まさに総合リハビリテーションという考え方が求められていると改めて感じることができました。いろいろなご意見をいただきました。
 あと1つ、千里リハビリテーションの話をしましたが、私はあまねく、日本のどの病院でも、リハビリテーションを標榜しているのであれば、こういうことができるよ うな人材育成と仕組みづくりをこれからやっていかなくてはいけないと、改めて思いました。どうもありがとうございました。
 
高岡/田代さん、お願いします。
 
田代/今日は本当にありがとうございました。
 今日私がすごく感じたのは、医療と福祉と労働と、双方向がキーワードなのではないかと感じています。
 高次脳機能障害の方は生活期というところでリハビリをしていくことが非常に長いですし、その期間でかなり本人が変化していく。良い方向でもいろんなことがあっ て、そのときに課題があることも含めて、福祉部門と医療と社会全体でそういうところを双方向として考えることが必要なんだなと感じました。ありがとうございまし た。
 
高岡/松本さん、お願いします。
 
松本/今日はありがとうございました。
 高次脳機能障害の方に限らないと思いますが、支援は本当に連携してつながっていかないといけないと思います。
 支援者というのは、地域の資源の情報をしっかり持っていないといけないと思います。うちはこれが得意、でも、これはできない、どこができて、協力しあえるのか。
 各機関がしっかりこれらを持っていて、地域の中でつながることが大切です。
 社会資源は地域によって状況は全く違います。
 大阪でも南と北では違うだろうし、他県ではもっと違う。
 自分たちのところでどういう機関とどういう連携がとれるのか。
 障害のある方はどこの門をたたくかわからない。
 叩いた門によってサービスが違ってしまうことは避けないといけません。
 高次脳機能障害の方で早期に退職されている方がいらっしゃいます。相談に来られたある方は、20年働いて、早く辞めてしまい、復職の相談はしなかったと言われま した。
 何で復職の相談を1回でもしなかったのかと、支援者として悔しい思いをしたことがありました。
 そのときに、復職のことを考えられて、相談もできるんじゃないかということで、支援ができるところに投げてもらえれば、もしかしたら違う選択ができたかもしれな い。
 僕も含めてですが、地域の支援機関と、こういう機会の中でつながれる、声がかけられる、何かあったときに、ちょっと教えてと相談ができる関係を作っていけたらと 思いました。
 
内藤/貴重な機会をありがとうございます。
 我々は、支援者といわれる立場の人間ではありますが、中途障害のある方と向きあうときに、もしかすると、自分も相談に来る人になっているかもしれないと、常にご 本人を真ん中に置きながら、今どういう思いで話を伝えようとしてくださっているのだろうと、寄り添い、今はできないけれども、もうちょっと考えさせてとか、今はよ くわからないよとか、心の声をしっかり受け止める必要があります。この人のタイミングがきっとあるはずです。
 我々もまだまだだと思ったりしますが、中途の障害を、私だったらどうやって受け止めていくのか、その人の立場に立ったときに、我々としてどう振る舞っていくべき かも、常に一緒に働くスタッフには伝えています。
 知らないからできないのではなく、知っているところに教えてもらいながら、得意そうなところに恥ずかしがらずに聞いて、教えてもらってつないでいくとかができる のが、ナカポツの売りの1つでもあるかと思います。
 今後も呼ばれたら、伝えられることを伝えて、やり取りをする。真ん中にいる相談に来られている方が「よかった、なんとかやっていけるかも」と、安心ができる応援 団になっていかないといけないと思いました。それぞれの立ち位置の役割を担っていかなければと、背筋がピッとなった感じです。
 
長倉/シンポジストの皆さん、ありがとうございました。
 私はこのシンポジウムでは、高次脳機能障害を中心でということで、堀さんの、「目に見えない障害、困りごとに直面した場合」からスタートしました。
 先ほど、軽度、重度の話もありましたが、目に見える障害も含めて、何ができて、何に困っているか、きっちり整理して対応していく必要があると改めて感じたところ です。
 医療機関として何ができるのか、長く持ちすぎず、きっちりと次につなげていくことが大切であると思いました。
 障害を持っている人は、長時間かけて、行ったり来たりしながら、職場が変わるかもしれないけれど、多様な経験をし、その人の人生がステップアップしていくことが できるのだと思います。
 定年という上限がなくなって、長く支援が続きます。
 とてもいい機会をいただきました。皆さん、ありがとうございました。
 
高岡/もっと議論すべきこともあったかと思いますが、時間の関係もありますので、お許しいただきたいと思います。
 今日は就労について議論してきましたけれども、高次脳機能障害に限りませんが、就労以前の問題というのも非常に大きい課題が残っていると思いますし、まだまだ高 次脳機能障害があることに気づかれていない方も多いと思います。
 今後、高次脳機能障害の方の医療から生活・就労までをもっと考えていくことができればいいなと思っています。
 また、一般の方々の高次脳機能障害への理解促進にも貢献できればいいと思います。
 本日はありがとうございました。
 以上で終わりにさせていただきます。

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