セミナー2「精神障害者の就労支援の現状と課題~当事者と支援者の視点から」

講師: 
 目良 賢治  JSN語り部の会
 金塚 たかし NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク(JSN)副理事長・
        統括施設長、全国就業支援ネットワーク就労移行部会 部会長
座長:
 佐藤 裕子  (福)摂津宥和会
        茨木・摂津障害者就業・生活支援センター 所長

佐藤/セミナー2を始めさせていただきます。
 座長を務めさせていただきます茨木・摂津障害者就業・生活支援センターの佐藤裕子です。
 どうぞよろしくお願いいたします。
 就業・生活支援センターは障害のある方の就職支援、定着支援をさせていただいているのですが、それに伴う関係機関の連携が大事な仕事になっています。
 日々、仕事に追われる中で一番のやりがいは利用者の方が就職を勝ち取り、社会の一員として働かれ、もまれながらも成長され、輝かれている姿を見ることです。
 就労支援に携わる者としてさまざまな視点で物事を見ることは大事です。今回のセミナーは、当事者だからわかること、支援者だからわかることをお聞きできる良い機 会だと思います。
 本日はNPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク、金塚さんと、JSN語り部の会・目良さんに対談をしていただきます。
 目良さんは就労移行支援事業所JSNが開設された初期の頃の卒業生です。金塚さんをはじめJSNの職員の方がどのように就職活動を支えてこられたのか、また、 「働き続けるを支えること」をコンセプトに定着支援をどうしたらいいのか、定着へのヒントもうかがえると思います。
 そして当事者の視点から、いろいろな思いや支援者に対する気持ちも聞かせていただきます。
 短い時間ではありますが、金塚さん、目良さん、どうぞよろしくお願いいたします。
 
金塚/大阪精神障害者就労支援ネットワーク、JSNの現場の責任者の金塚です。
 今日は目良さんとQ&Aで話をしていこうと思っています。
 少し私どもの法人をご紹介させていただきます。
 病院として就労移行や就労支援をやっているところはあると思いますが、診療所の先生たちが複数名集まって、この法人を作ったという、1つ、特徴的なところであり ます。
 もう1つは、精神・発達障害の方に特化をした就労支援ではあるのですが、就職までだけの支援ではなくて、働き続けることを支えようということが、法人を立ち上げ たところからのコンセプトであり、今もそれを思いながらずっとやり続けています。
 今、大阪と東京に就労移行支援事業、定着支援事業、A型事業所を展開していて、それが基軸になるんですが、700名以上の方が就職をしていて、約7割の方が定着 しています。
 皆さん、ご存じかと思いますが、国が出している数字で、就職して1年後の精神障害の方々の定着率は5割を切るという数字があります。
 700名以上の方が就職をして、7割の方が定着しているというのは、そこに思いをかけてやっている中の1つの数字かなと思っております。
 それ以外に学生支援、メンタル不調の方のリワークにも力を入れています。
 まず、目良さん、簡単に自己紹介からお願いします。
 
目良/大阪の東淀川区にあります障害者が作った介護派遣事業所で事務員として働いている目良賢治です。よろしくお願いします。
 
金塚/今日のこういう公の場においても、目良さんの顔も名前もいつも出してOKですよと、オープンにさせていただいているのですが、なんでOKしてくれるんです か?
 
目良/自分が昔、通っていたデイケアに偉い先生が講演に来られたときに、精神障害を持った人とかが回復したら仕事が出来るようになるんですかね、と質問したんです けど、それは大変難しいことだと言われました。そこのデイケアのスタッフにも、精神障害の人は無理にストレスをかけずに、状態の安定をキープして、ゆくゆくは生活 保護をもらって、状態を悪化させずに過ごしていくのがいいと言われたんです。
 当時、自分は20代の半ばで、それが腑に落ちない感じで、状態がよくなったら働きたいと思っていたので受け入れられませんでした。
 実際に今、JSNを通じて働けるようになったのですが、あるとき病院のデイケアで、私は「こうやって働いています」という話をしたとき、その話を聞いた人が、自 分にも出来るのではないかと考え、その後にJSNに通って、働けるようになったんです。数年後、JSNのなかで年に一回総会があって、その人が私を見つけて声をか けてくれて、自分もあのときの話を聞いて、頑張ってみようと思ってJSNに通って就職することができました、ありがとうございますと言われたのです。
 こうやって私が自分自身の経験を語ることで、後に続く方が出てきたことがうれしくて、今後の参考になるのなら良いかなと思って、それで毎回、引き受けています。
 
金塚/ありがとうございます。いきなり核心を突くような話をしてくださって、そのへんの話も聞きたいと思います。自分の過去の思いを発表する中で、同じ障害のある 人たち、疾病を負う人たちが、勇気を持って、また次に続いてくれたらと、目良さんはいつも名前も顔も全部オープンにしてくれてるJSNの語り部の一人です。
 いま働いている仕事の話からしませんか。
 どんな仕事をされていますか?
 
目良/登録してくれているヘルパーさんの給与計算をEXCELに入力して、所得税などを計算してインターネットバンキングで振り込むというのがメインです。それは 最初からやっていた仕事なんですけど、16年働いているうちに仕事の量や種類も増えてきて、最近はスタッフの給与計算も手伝うようになりました。あと、ヘルパーさ んが介護福祉士とかケアマネを受けるときに必要な証明書を書いたりさせてもらっています。
 
金塚/事務全般ですね。
 16年くらい働いているんですね。
 入職当初は、どんな仕事をしていましたか?
 
目良/最初に入ったときは、とにかく電話応対がすごく苦手なので、出なくていいよ、とは言われませんでしたが、とりあえず出て、わからなかったら代わってもいいと 配慮してもらっていました。最初は月水金だけで、火木はJSNに報告するという形でした。
 仕事の内容も給与計算をするだけで、インターネットバンキングはややこしいから、計算して仕上げるところまでやってと言われて、だいぶ仕事内容は限定されていま した。
 
金塚/目良さんは職員の給与計算から事務全般まで、ほぼやってはるんですよ。
 でも、その当初は週3日から始まって、限られた仕事で、合理的配慮で電話も出なくていいよと。
 その当初、目良さんの仕事に対する、組織の配慮は、他に何がありましたか?
 
目良/最初はJSNの人が、就職してからも一緒についてきてくれることを許可してもらったことや、体調が悪くなったり調子を崩したりしたときに、今でもそうですけ ど、通院が平日でも出来るという配慮はしてもらっています。
 
金塚/私たちJSNの中にジョブコーチ専門の人がいて、目良さんの組織の人たちに対して、障害とか疾病に対する勉強会をしましたよね?
 
目良/うちの会社は障害者宅にヘルパーを派遣をするところで、精神障害の人の利用もあるので、登録ヘルパーも、精神障害についてしっかりと学ばないといけないとい うことで、JSNのスタッフ2人に来てもらって、ヘルパーさんとスタッフ向けに、精神障害についての勉強会をしてもらいました。
 
金塚/16年経っているけど、まだ組織の中で目良さんが仕事をする上で配慮って何かありますか?
 
目良/16年経っても、電話が苦手なのはそのままです。
 自分の仕事と直接関係のないところからかかってきて、その人にバーッと言われて、メモをとっても、汚い字でしかメモが取れなくて、あとで見てもわからない状態な ので、今でも電話は、出るには出るけれど、わからなかったらすぐ代わってもらっています。
 
金塚/目良さんによれば、神の手が横から伸びるらしいんですよ。
 いろんな人から電話がかかってきて、言っていることが、ん~? というとき、横にいる女性の方が出てくれたりするそうです。
 神の手が伸びるというのは、ルールではないですけどね。
 
目良/出なくてはいけないんですけど、どうしてもわからないときは助けてくれます。
 もし誰も人がいないときにそういう状態だったら、その人の名前と連絡先だけ聞いて、自分はわからないので後々にわかるものから電話させますと、逃げています。
 
金塚/目良さん、16年経った中で、離職の危機、もうヤバイ、やめんなあかんかな、辞めさせられるかなとかいう経験もあったのではないですか?
 
目良/もともと趣味で一人で旅行するのが好きで、ちょうど就職して4年目の年末年始に、台湾に一人で旅行に行きました。
 帰ってきたときに、気分がハイになっていて、帰ってきてから寝てもいなくて、余りストレートに言うべきことじゃないことを、職員の人に対して私が言って少し衝突 したことがあったんです。
 でもそのときも、JSNの人に間に入ってもらってなんとか乗り切ることができました。
 
金塚/目良さんは京都外大出身で、TOEIC800点以上あったということですが、今はどうですか?
 
目良/たぶん低いと思います。
 
金塚/バックパッカーで何十カ国旅行したんだっけ?
 
目良/24カ国です。
 
金塚/ずっと海外をまわっていたんですよね。
 病気になって、精神障害という手帳を取って、働いて台湾に行ったんだよね。
 一人旅なんだけど、お正月のときに、台湾の花火を見に行ったんですか?
 
目良/12月31日の大晦日に、台湾のイチマルイチという大きなタワーがあって、そこで年が変わって花火があがるんです。精神的な病気になったけど、回復すること ができて、久しぶりの海外旅行で、新年に花火が上がったのを見て、ここまで頑張ってきてよかったなと鳥肌が立ったのを覚えています。
 
金塚/目良さん、あとでまた聞こうと思っていますが、統合失調症なんですね。波があるんですよ。
 この波がある中で、10年前ぐらいでしたか、2人で長野に行った時に聞いたことです。
 今までも何度となく波があったのですが、あまり大きく揺れることなく、仕事に戻れていることについて「強くなったよね」というと、目良さん、何て言ったんだっ け?
 
目良/職場の中で弱さを出せるようになったから乗り切れたと、伝えたと思います。
 
金塚/あのとき、もっと衝撃的な言い方をされました。弱さを伝えるというより、「僕は弱さを暴露できるようになったんです」と言ったんです。
 覚えています?
 私は「うーん」となって。
 弱さを暴露できる組織だから、僕、大丈夫だったんですと言われたんです。
 今でこそ、組織の中でその人の持っている能力を発揮するために、安心・安全というワードがよく言われるけど、10年ぐらい前に目良さんは言ったもんね。今の組織 の中でと考えるとどうなん?
 
目良/もともと働いていたのが福祉の業界ということもありますし、障害者のところに介護派遣する事業所ということもありますし、職員の中でも目の不自由な人とか肢 体不自由の人とか、ほかにも障害者のスタッフがたくさんいるし、利用者の中にも精神、身体、いろいろな障害のある人がいました。そんな中で、みんなそれぞれ自分の 弱いところがあり、問題がありながらも、自分の強みを生かして仕事をしているような組織だったので、そうしたら自分も自分の弱いところ、苦手とか、臨機応変に動け ないとか、そういうことを出したとしても、自分の中で得意なこととか強みもあるから、100%完璧じゃなくても、これで大丈夫かなと、そのときにハッと気づいてそ んなふうになりました。
 
金塚/まさに多様性ですね。いろいろな方々が自分の弱さを抱えながら働いている中で、「強くなったね」というよりは、目良さんが言われたように、「弱さを暴露でき るようになった」という1つのエピソードです。
 長く働き続けられている要因を自分でどう分析してはるんですか?
 
目良/自分の場合は、自分で勝手に薬やめたりとか、極端にストレスがかかることを、仕事以外のプライベートでもたくさんしすぎないようにしています。
 仕事の中でも新しいこととか、苦手なことが出てきたときに、なるべく分からない状態で置いておかずに、早めに解決していくようにしているのがいいのかなと思って います。
 
金塚/その点は、目良さんと話をしていると、いつもポイントなのかなと思っています。
 よく私たち、支援者といわれる人たちは、自己理解みたいなことを言うよね。
 自己理解をしっかりしましょうと。
 自己理解とかって、JSNで訓練しているときから、話もあったかと思いますが、どう感じていますか?
 
目良/自分の場合は、もともと学生時代から部活で剣道をやっていたのですが、剣道自体は嫌いじゃなかったんですが、縦社会が厳しいところでは続かないと思っていま した。最初に就職したのは警察学校だったのですが、そこも厳しくて続かなくて、それから入院して2~3年たった頃に、一般企業に就職したのですが、そこも厳しいと ころで、わからないこととか教えてくれない、そういうところやったんです。今の福祉の業界のように、自分がこういうところは苦手でわかりませんと言ったら、しっか りフォローしてくれるような組織だったら、自分の弱さ、苦手なところをちゃんと伝えながら勤務できますし、自分も頑張ってやっていけると思います。
 家族的な雰囲気の職場なんでそうなのかなと思っています。
 
金塚/自分自身の強み、弱みを自分なりに理解できたというのは、どういう場面とかどういう経験があったからですか?
 
目良/今は3つ目の職場ですが、最初の警察学校と貿易会社のように、厳しいところがきっかけで精神障害を発症しました。人間関係や組織のなかで、うまくいかなくて 発症するのが、統合失調症やうつだと思うので、そういう環境からなるべく遠ざかると再発から逃れられるのかなと思いました。
 
金塚/長きにわたって働いているので、働くためのコツを掴んでいるなと思っていて、心身的に健康でいるためのバロメータ、物差しはいつも睡眠だと言っていますよ ね。
 入職してから、どれくらいで自分で自信を持って仕事できるようになりました?
 
目良/今でも新しいことがどんどん増えていて、これだけずっとやっていれば大丈夫というのはないのですが、最初、入職して、ヘルパーの給料計算を担当して、前の事 務員の人よりもミスが少ないと言ってもらえたことが一つです。
 元々は、書類のチェックとか、人の書類の間違いを見つけるのが得意で、JSNでも校正プログラムなど取っていたのですが、求人のチラシをチェックしたときに、職 場の電話番号が間違っているのに気づいて、そういったことを褒めてもらったこともありました。
 自己肯定感を感じられるようになったのが、2年か3年たってからです。
 
金塚/就職された方とご飯を食べたりお酒を飲みに行ったりするのですが、見た目には3か月か半年でバリバリやっているように見えるけど、本当に、彼らの内面を聞く と、1年くらいたって、何となく自信を持てるようになりましたとみなさんおしゃいます。目良さんもそうで、日々新しい事があるなかで、迷うことや悩むこともあるん ですね。
 悩みとか不安を抱えて家に帰ると寝られなくなることがあって、寝られないと体調を崩す事を自己理解している。
 睡眠というのは、すべての人の健康のバロメータだと思うんですけど、彼は特に寝れないことに対する不安があるので、不安とか不明なところがあったら、できる限り その日のうちに解消すると言っていたよね?
 
目良/はい、そうですね。でも結構いま事務所に、人手が少なくなってきていて、それができなくなることも最近、多々あるんですけど、今はスマホのような便利なツー ルもあって、直接会わなくてもできたりします。
 
金塚/初めて聞いたけど、スマホって何? スマホに相談しているの?
 
目良/このことがわからないとか、スタッフにLINEを送ります。
 
金塚/私がAIにはまっているので、AIに相談するのかなと思ったけど、スマホで先輩に聞くということですね。
 
目良/直接その人と話せないときは、スマホでメールしたりしています。
 
金塚/JSN時代の話をしましょうか、ちょっと怖いんだけどね。
 恐れずに言いますが。JSNに通ってて役に立ったことはなんですか。
 
目良/やらせてもらった所内作業内容については、一つもありません。
 磁石の組み立てや、疑似餌といって、魚を釣るルアー作りを一日やりましたが、自分は元々事務職が希望なのに、なんで一日これをやらないといけないのか、職員との 関係性を築くためにやらないといけないのかとか思いました。
 
金塚/これは目良さんにいつも打ち合わせの中で怒られるんです。「何でこんなことせなあかんの、僕は事務職希望やで」
 
目良/そんなことを言ってましたっけ。
 
金塚/うちは、リアルをとても大事にしているんですよ。就労するためにはどういうことが必要か、SNSでいっぱい情報が流れてくるじゃないですか。SNSで見れる んなら、別に就労移行支援所は要らないんじゃないかなと思われるかもしれません。
 そうではなく、リアルを大事にしているので、SNSでは絶対得られないもの。体験実習を大事にしていて、実際の企業体験をしてもらいます。
 
目良/私も実習に2か所行って、1社目は事務職ではなくてスーパーの品出しと、賞味期限が切れているものとか、近いものとかを探して、それを上の人に伝えるという 仕事をやらせてもらいました。
 もう1つが今の仕事の直接のきっかけになったんですが、介護事業所での請求事務の手伝いをやらせてもらいました。
 
金塚/実際にリアルでやってみて、スーパーでは、失敗したこともあって、次は事務で。
 あのへんの経験はどうですか。
 
目良/JSNの所内の作業よりも、何十倍も実りがあるものだと思っています。
 スーパーでお米の品出しをしていて、お米が重たいのですが、日付を見ると、新しいやつを下に置かなきゃと気づき、落としてしまってお米の袋が破けてしまい、パ ニックになりかけました。JSNの支援員と一緒に謝ったら、ミスは誰でもするから報告すればいい、と言われて、それがきっかけで、人間誰でもミスをするから、自分 のミスをそんなに責めなくていいんだなと思えたんです。
 
金塚/店長が良かったものね。あの店長がきっかけになったのかなと。
 私も店長に1~2回会って、目良さんにとってはよかったなと思っています。
 医療との関係について話しましょう。
 目良さんは今、月に何回通院しているんですか?
 
目良/年に6回、2か月に1回です。
 JSNに行っていたときは、2週間に1回くらい行っていました。
 
金塚/病名は統合失調症ですよね。
 今は、受診したとき、先生とはどんな話をしているの?
 
目良/特に体調とか問題なかったら、前に受診してから今回までの間の出来事、例えば旅行でどこどこに行ったとか、仕事でどんなことがあったとか、そんな一般的な話 です。
 
金塚/就職する前とかに、働くことを先生に相談したりしたの?
 
目良/今の主治医ではなくて、1か所目のデイケアに行っていたときの先生に相談したことはあります。今の主治医からは、働く前に、2か所目のデイケアから卒業し て、JSNにつながっていくことに対して、特別に何も言われずに、病院のケースワーカーが面倒をみてくれたので、あまり先生とのやり取りはなかったです。
 
金塚/1か所目のデイケアは、目良さんにとってはあまり有意義なデイケアではなかった?
 
目良/1か所目のデイケアは、病気のことを詳しく紐解いて教えてくれて、和気あいあいとして良かったのですが、あんまり波風立てるというか、大きなストレスをかけ ないためには、ずっとこのデイケアに5年も10年も通って、仲間との関係を築いて、親が年を取ったら一人暮らしして、生活保護をもらってはどうかと言われたんで す。
 
金塚/これについては、目良さんに当時も話を聞きました。そういうことが私達の周りにもいっぱいあって、社会で病んだんだから社会に戻る必要ないやん、生活保護も あるし、年金もあるし、それで心の安定を図りながら生活したらええやんって言われるんです。でも、目良さんは当時は二十歳代で、それは許されへんと、僕の夢はどう なる、僕はこのままでいいのかと思ったんですね。
 2か所目のデイケアで、そこの先生なりスタッフなりが、支援があればできると、目良さんの背中を押してくれたんだよね。
 
目良/そこのデイケアは、2回目に入院した病院だったんですが、そこを退院してから、精神障害はスポーツをすることがいいということがあって、病院内にあるデイケ アのソフトバレーボールのチームに入って、秋の国体が終わったあとの全国障害者スポーツ大会に参加させてもらったりしました。体力もつけて、デイケアで仲間と一緒 に活動したり、疾患の勉強をしたり、そんなことをやっているうちに、そのデイケアのスタッフが、どれも順調にこなしているし、JSNとかから支援を受ければ、目良 さんは働けるんじゃないかなと言われました。
 JSNに来る前に、病院の喫茶店で半年間ほど働かせてもらって、それから高槻の横に茨木市があるのですが、そこにJSNができたから、行ってみたら? と言われ て、通うことになりました。
 
金塚/お医者さんに、僕は、働けるかな? とか働くことの相談をしたことはあったんだっけ?
 
目良/今の主治医にはないんですが、今日の冒頭でも話したように、最初に行ったデイケアに精神科の偉い先生、年配の先生が、講演しにきてくれたときに、偉い先生や から、ちゃんとした答えをもらえるかなと思って、こういう病気の人は回復したら働けるんですか? と聞いてみました。経験もある先生だから、ちゃんとした答えをく れると思ったら、「それはあまりないことや、難しい」と言われたんです。
 
金塚/うちの法人は、冒頭にも話をしましたが、精神科のドクターが集まって作ったんですね。
 なので先生とのつながりとか、本音の話はいろいろさせていただいて、そんな関係で医療との連携の相談をよく受けます。
 今日ここにもドクターの人たちがおられるので誤解を恐れずに言うんですが、精神科のドクターに働けるかどうかの判断は、私はできないと思ってるんですよ。
 これは当事者や、私達が働く事をどう可能にしていくかというだけの話です。
 目良さん、診察時間って何分だっけ?
 
目良/5分あるかないかですね。
 
金塚/2週間に1回、5分ぐらいの診察で、目良さんが働けるかどうかなんて、わかる訳がない。
 それを可能にするかどうかは、本人であって私たちである。
 でも、先生たちの判断を明確に仰ぐときがあります。
 働いている人が体調を崩して調子が悪くなったときには、先生の判断を明確に仰ぎます。
 これはちょっとヤバいから休職しなさいという判断には従います。
 医療との関係って、ホントに難しいです。特に医療ってヒエラルキーが強いし、私達も医療、先生となると一歩構えます。幸いにして先生たちとの付き合いがあるの で、いろいろな話ができますが。
 目良さん、就労支援における医療の役割については思うところはありますか?
 
目良/本人がちゃんと服薬してるというのは前提だと思いますが、それでも、それを上回るようなストレスとか、いろいろな出来事が起きて、ホントに調子を崩している ときに、入院するとか、薬を増やすとか、ちょっと休職するとか、そういうふうにしたほうがいいときやのに、本人が無理して頑張ろうとするときに、ストップかけれる のがいいかなと思います。
 
金塚/ところで、目良さんが入って、あそこの法人は、変わったところはありますか?
 
目良/辞めていかれた人も多くいて、人数がすごく少なくなって、介護派遣料も減ったのですが、その分、ヘルパーの給料計算の数も減ったんですけど、いろいろ資格手 当を払うとか、勤続年数も考慮するとか、仕事内容はどんどん細かくはなってます。
 
金塚/昨日、尾上さんたちの話にもあったんですが、我々は障害者雇用を広げたいと思っていて、一つのポイントは、トップに理解してもらうことなんですよ。
 企業のなかで、障害者雇用が本当に価値あるものだとトップの方を説得するときに、数字がとても大事になっています。最後に事例を一つだけ紹介します。
 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「働く広場」という冊子の中の「編集員が行く」というコーナーを担当しているんです。
 昨年、11月号に私が取材した札幌で小売業をやっている企業ですが、とてもステキなところです。
 もちろん合理的配慮はしていただいています。
 ただ、企業の中で合理的配慮は当たり前になっているんですが、その先というのがなかなかないな、と思っていて、障害のある方々を戦力化していく目標設定や評価が 少ないと思っています。
 でもその札幌の小売業はそれをしっかりやっている。ステップアップシートというものを作っていて、評価するだけでなくて、そのシートは、評価をしていく仕組みと ともに、コミュニケーションのツールでもあるんです。
 特に入職当時は2週間に1回でそのステップアップシートを見直しています。
 仕事ができていることもさることを評価しながら、コミュニケーションがしっかりとれている事が次へのステップにつながっていると思います。
 もう1つは、本人にとっての可能性を見ておられる。靴売り場の担当だとか、清掃が担当だった人が、1年くらい経過する中で、レジも担当できるようになったとか、 仕事内容がどんどん拡大していっている。
 そうするなかで、店舗ごとに障害者を雇用している店舗と雇用していない店舗の売上に差が出ている。
 社長が、最初は「障害者雇用? はいはい、やったらええやん」と言っていたのが、結構、本気になってきたというのです。
 今の話を聞いてどう?
 
目良/そうですね。障害者の仕事の可能性を常に考えてくれて、仕事の幅が増えるのは有難いことだと思います。
 
金塚/目良さんとの掛け合いはここでいったん終了します。佐藤さん、よろしくお願いします。
 
佐藤/ありがとうございます。
 まだまだ聞いていたいと思いました。
 限られた時間のなかで、目良さんの人生のポイント、ターニングポイント、デイケアでのことや、JSNでの巡り合いや、実習に行った先での店長の言葉、今の就労先 の出来事など、いろんなポイントポイントがわかり、出会った人たちで、今の目良さんの人生があるんだなと感じました。
 また金塚さんの熱い思いもしっかり受け止めました。
 すみません、お時間があまりないのですが、目良さんや金塚さんにこれだけは聞いてみたいという質問がありましたら、挙手をお願いします。
 
会場/また質問させていただきます。
 目良さんのご活躍、まぶしく思いました。
 金塚先生に質問ですが、レジメの④にある職場環境、生活環境などの間接支援、地域ケアが必要だと思っています。
 ただこれをどういうふうに、制度的な報酬にしていくのか、そこを伺えればと思います。
 
金塚/これは基本的には、企業の中で彼らが働くとき、彼らが働きやすい環境をどう作っていくかというところです。
 福祉的サービスや制度の問題ではなくて、私たち支援者自身が、社会のこと、企業のことをいかに知っているか。企業からこんな事に困ってます、と言われたとき、 困っていることだけに応えるのではなくて、さらに良い提案出来るか、それが、たぶん、質だと思うんですよ。
 企業は困っています、ならこうしましょうではなくて、もう一歩進んで、こうしたほうがもっといいんではないですか、と提案できることが、彼らが働きやすい環境を 作ることや質を高めるということになってくると思うので、制度ということで書いたのではないということをご理解ください。
 
佐藤/ありがとうございました。あと1問くらい、質問いけると思いますが。
 
会場/貴重なお話をありがとうございました。
 実は私も精神障害の当事者で、手帳も取得して、かつ就労支援員という立場の者です。もともと就労支援員としてバリバリ働いていたんですが、異動があって、その先 でうつ病を発症して、その後会社の指示で、就労支援員として復職しました。しかし現在、上司からは「薬を飲んでいるあなたには仕事をさせられない、ここに来られて も困るし迷惑だ」、ということで、支援はほとんど出来ていない状況です。
 私は当事者だということと、障害のある人を受け入れる企業の気持ちと、両方知ることができて大変良い経験だったと思います。
 金塚さんに伺いたいのですが、仮に今、一緒に働いている仲間の皆さまが、例えば精神的に調子を崩されて復帰しますと戻ってきたときに、本当に支援員として雇うこ とができるでしょうか。
 その人の状況にもよるので、ちょっと答えづらいかもしれませんが、実際、障害者を雇う側になった場合、どうでしょうか。
 
金塚/JSNの中に手帳を持って働いてられる方が4名おられます。メンタル不調になられた方も、今現在はおられませんが、過去に数名いました。
 やはり大切なのは、環境です。
 環境要因はとても大きいなと思っています。
 時間があれば、すごく話したいことはいっぱいあるんですが、さっきの目良さんの話にありました、弱さを暴露できる環境だったから、目良さんは今ここにおられるか と思います。受け入れてもらえる環境とともに、自分自身も環境になじんでいくとか、組織の中でどう戦力化していくか、しっかりと考えていかなければならないと思い ます。
 
佐藤/ありがとうございました。
 時間になってしまいました。
 今日はご準備から、金塚さん、目良さんに全てしていただきまして、本当にありがとうございました。
 最後にお二人に大きな拍手を。
 ありがとうございました。

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