第17回「リハ協カフェ」 第10回国際アビリンピック(フランス・メッス大会)報告

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)
障害者雇用開発推進部長 村田裕香

2023(令和5)年7月14日(金)に、第17回目となるリハ協カフェにおいて、今年の3月22日から25日に開催された第10回国際アビリンピックについて報告する機会をいただきました。

「アビリンピック」は「アビリティ」と「オリンピック」を合わせた造語です。「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施しています。その目的は大きく3つあり、1つには、障害者が日ごろ培った技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図ること、2つ目は、企業や社会一般の人々が、障害者が持つ高い技能を認識することによって障害者雇用への理解を深めること、3つ目は、企業や社会一般の方々が障害者への理解や認識を深めることによりその雇用を促進することにあります。

アビリンピックは、1972年に、JEEDの前身にあたる社団法人障害者雇用促進協会が、技能五輪とパラリンピックを参考に「第1回障害者技能競技大会」を開催し、その愛称として名付けたところから始まりました。

この日本の取り組みについて、RI(リハビリテーションインターナショナル)にて紹介し、1981年の国連が定めた「国際障害者年」を記念して日本で国際的な大会を開く用意があることを説明したところ、参加各国からの賛同を得て、1981年、東京で第1回「国際アビリンピック」が開催されました。以降、国際アビリンピックは概ね4年ごとに開催されています。

このように、アビリンピックは日本を発祥とし、世界に広がった大会となります。1985年にコロンビアで開催された第2回国際アビリンピックでは、元RI会長である香港のハリー・ファン博士が国際アビリンピックを継続的に開催・推進していくための国際組織設置を提唱され、1991年、香港で開催された第3回国際アビリンピックで、国際アビリンピック連合(International Abilimpic Federation)IAFが発足しました。このIAFには国際アビリンピックの目的に賛同する各国・地域の団体が加盟しており、2023年7月現在、IAF加盟団体は51か国・地域、75団体となっています。初代IAF会長は現JEED、当時の日本障害者雇用促進協会の会長の吉本實が就き、現在に至るまで、IAFの会長はJEEDから輩出しています。

国際アビリンピックはRI加盟国を中心に参加いただき立ち上げた経緯から、RI加盟団体がIAFのコアなメンバーとなり、現在も、IAF理事には、加盟する各国の団体からの推薦を受けた方に加え、RIから推薦された方も選任されています。

先般のRIの100周年記念式典においても、RIの発展過程と切り離せないものとして、国際アビリンピックについての言及もあったところです。

今回の第10回国際アビリンピックは、前回大会から7年の歳月を経て開催されました。実はいったん2021年5月にロシア・モスクワで開催されることが決まっていましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックの状況を踏まえ翌年に延期され、2022年2月にはウクライナ侵攻があり、中止の選択を取らざるを得なくなりました。代替開催を検討する中で、直近の第9回大会の開催国であるフランスから、2023年3月開催の提案があり、フランス・メッスで開催することとなりました。2022年4月のロシア大会の中止決定後、2022年7月にメッスでの開催が決定し、翌3月に開催ですので、かなりタイトなスケジュールとなりました。

大会は、ワールドスキルズ(技能五輪)フランス・グランテスト圏の予選会と一緒に開催されました。コロナ禍ではありましたが、27か国・地域からの参加があり、参加選手は329人、実施競技数は44と、これまでの規模や内容とそん色のない大会を開催してくれました。

日本からは、17の競技種目に30名の選手の他、介助者、医師・看護師、通訳や手話通訳等を含め、総勢112名で臨みました。大会日程としては、3月22日から25日までの4日間ですが、移動等を含め日本選手団の派遣旅程としては20日から29日までの行程となりました。

フランス大会での日本選手団の活躍の様子については、Youtubeにて公開しています。ぜひご覧いただければと思います。

完全版QRコード

https://youtu.be/n9brgfy1Znw(完全版86分)

ダイジェスト版

https://youtu.be/NihgRDm3cUM(ダイジェスト版20分)

最近の国際アビリンピックの状況ですが、地域別の参加者数をみると、第7回静岡大会あたりから東アジアだけでなく、ヨーロッパ、アフリカ圏からの参加が増えてきています。今後もアビリンピックを認知し、またその意義を理解いただける国が増えてくることを期待しています。第10回国際アビリンピックには新しい国々からの参加もあった一方で、コロナの影響が残り、今まで常連でご参加いただいていた国々の中に、参加を見送った国も多数ありました。次回第11回国際アビリンピックの開催時には、コロナの影響がなくなる中で、今後のアビリンピックがどのような形で発展していくのかを占う大会になるのだろうと思います。

アビリンピックの意義をどうとらえるかは、色々なご意見があります。

例えば、そもそも「職業技能」自体が、求められるサービスや商品がどんどん変わっていく中で、それを競うことができるのか、あるいは競うような性質のものなのか、といった考えもあるかもしれません。一方で、障害があるという同じ境遇にある方同士が、日頃努力し培ってきた職業技能について評価や、場合によっては栄誉、賞賛を得ることができる貴重な機会だととらえる考え方もあります。また、このことを通じ職業能力の向上を図ることができるとも考えられます。ひいては、障害者の技能に対する理解と認識が高まると考えられます。

他にも、既に健常者と肩を並べて職業人として活躍しているなら、あえて障害者を対象とした大会に出る必要がないのはないか、技能五輪に出たらよいのではないか、といった考え方もあるかと思います。これに対し、アビリンピックに出ていただいて、障害のある労働者の技能の高さに注目いただくためにも、こうした機会が重要なのだという考えもあるかと思います。

また、アビリンピックは、もともと、職業技能の前に障害の種別は問わないという考え方に立っていますが、これに対し、パラリンピックのように障害種別に開催すべきではないか、とか、知的障害者が身体障害者と同じ条件で争うのは難しいという意見もあります。競技性を追求すれば、どうしても障害の軽い人が有利になってしまうという実態もあります。

いずれも、その時々の社会の現状を踏まえながら、障害のある方がたが、アビリンピックを通じ、その先の就業意欲喚起などにつながり、またそうした障害者への企業等の理解が進むような最も効果的な大会のあり方を、国際的にも、国内的にも関係者とのコンセンサスをとりながら進めていく必要があると考えています。

JEEDでは、毎年、各都道府県で地方アビリンピックを開催しています。そこで優秀な成績を収めた選手が全国アビリンピックに出場します。

本年度の全国アビリンピックは11月17~19日に愛知県国際展示場で行われます。WEBでもご視聴いただけますし、会場においでいただくことも可能です。ぜひご覧いただければと思います。また、アビリンピックへの参加者もお待ちしています。ぜひアビリンピックをお知り合いの方にご紹介いただければと思います。

後に。私どもJEEDは今年の2月にブランドメッセージを作成しました。

「らしく、はたらく、ともに」というメッセージとJEEDの文字

年齢や性別、障害の有無に関わらず、働くことを通じて一人ひとりが持てる力を発揮するためには、一人ひとりの「らしく」を見つけ、一人ひとりにあった「はたらく」につなげていく必要があります。また、「らしく、はたらく」ためには、一人ひとりが、社会、組織、仲間や身近な地域からの「理解」や「支援」と「ともに」あることが大切と考えます。こうした社会の実現に向けてJEEDが貢献していくという思いをこめて、このメッセージを作成しておりますので、ご承知おきをいただければと思います。

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