アクセスプラネット事務局長 ラクシミ・ネパール
「障害者保護福祉法」は、ネパールにおける、障害者に特化した最初の法律です。この法律は、1982年に当時のネパール政府によって制定されました。しかし、1994年に施行規則が承認されるまで実施されませんでした。前文には、この法律が制定された理由が次のように書かれています。「障害者の利益を保護し促進すること。人が障害を持つようになる状況を防止し無くすこと。また、障害者の健康、教育、世話、訓練、および平等の権利や雇用に必要な福祉規定を設け、障害者を社会の有能な構成員にするだけでなく、積極的に生産的な国民にすること。」
この法律は、現在の視点で分析すると、権利に基づくものではなく、慈善と福祉のアプローチに従っているという印象を受けます。しかし、この法律は当時の南アジアでは進歩的であると考えられており、ネパールで障害者の権利を確立するために何らかの形で貢献しました.
「ネパール王国憲法2090」の「国家原則と規則」の節で、障害者の問題がネパールで初めて憲法に取り上げられました。次の一歩として、2006年のネパール暫定憲法では、障害者に社会保障を受ける権利が与えられました。暫定憲法には「国家障害者委員会」という概念も盛り込まれましたが、残念ながら2015年の憲法に引き継ぐことはできませんでした。
2006年の武力衝突と人民革命の終結後、ネパールの政治体制全体が変わりました。ネパールは2015年に新憲法を制定し、君主制を廃止し、統治構造を中央集権制度から連邦制に移行しました。「ネパール憲法2015」では、ネパールを多民族、多言語、多宗教、多文化の国として定めており、階級、カースト、地域、言語、宗教、性別による差別を排除し、経済的平等、繁栄、社会正義を確保するために、比例的、包括的な参加の原則を実施しています。「2015年ネパール憲法」は、すべての人が尊厳をもって生きる権利、平等の権利、社会正義の権利を基本的権利として保証しています。障害を持つ人々も、この国の他の人々と同じようにこれらの規定を享受できます。また、現行憲法は、障害者問題への取り組みという観点から見て進歩的であると考えられています。
「2015年ネパール憲法」が定める、特に障害者に関連する権利は以下の通りです。
第3部 基本的権利(第16〜46条) 第18条 平等の権利 第2項 一般法の適用において、出身、宗教、人種、カースト、部族、性別、身体的状態、健康状態、婚姻状況、妊娠、経済状況、言語または地域、イデオロギー、または同様の他の理由で、いかなる差別も行ってはならない。 第3項 国は、出身地、宗教、人種、カースト、部族、性別、経済状況、言語、地域、イデオロギー、または同様の他の理由で、国民を差別してはならない。ただし、社会的または文化的に遅れている女性、ダリット、先住民族、先住部族、マデシ族、タル族、イスラム教徒、被抑圧階級、ピチャダ階級、マイノリティ、疎外された人々、農民、労働者、若者、子供、高齢者、ジェンダーおよび性的マイノリティ、障害者、妊娠中の人々、能力喪失者または無力な人々、未開地の人々、低所得者層のカース・アリアを含む国民を保護し、エンパワーメントを促進し、成長させるための法律による特別条項の作成を妨げるものはないとみなされることを条件とする。 第 24 条 排斥および差別に対する権利 第1項 何人も、その出自、カースト、部族、コミュニティ、専門的職業やその他の職業、または身体的状態を理由として、私的および公的な場所で、いかなる形態の排斥や差別を受けてはならない。 第31条 教育に関する権利 第3項 障害を持つ国民および経済的に困窮している国民は、法に従い、無償の高等教育を受ける権利を有する。 第4項 視覚障害のある国民は、法に従い、点字による無償の教育を受ける権利を有し、聴覚または言語障害のある国民は、手話による無償の教育を受ける権利を有する。 第39条 子供の権利 第9項 無力な子供、孤児、障害児、紛争の犠牲者、避難民、または弱い立場にある子供は、国から特別な保護と便宜を受ける権利を有する。 第42条 社会正義を受ける権利 第1項 障害者は、包摂の原則に基づき、国家機関に参加する権利を有する。 第3項 障害のある国民は、尊厳と名誉、多様性あるアイデンティティを持って生活し、公共サービスと施設に平等にアクセスする権利を有する。 第5項 武力紛争中に障害者となった者は、法に従い、教育、健康、雇用、住居、社会保障において、公平な扱いと相応の敬意を受け、優先的な機会を得る権利を有する。 第43条 社会保障を受ける権利 第1項 障害のある国民は、法に従い、社会保障を受ける権利を有する。 第51条 国家の指導原則、政策および義務 第h項 国民の基本的ニーズに関する政策 副条項(14) 交通機関への国民の平易で簡単かつ平等なアクセスを確保するとともに、運輸セクターへの投資を強化する。また、公共交通機関を奨励し、民間輸送を規制することにより、環境に配慮した技術の使用を優先し、運輸セクターを安全で体系的な、障害者が利用しやすいものにする。 第84条 代表議会(下院)の構成 代表議会は、165の選挙区から単純小選挙区制によって選出される165人の議員と、有権者が全国を単一選挙区として政党に投票する比例代表制によって選出される110人の議員の合計275人の議員で構成される。 第2項 連邦法は、比例選挙制の下で代表議会議員の選挙に向けて政党が候補者を擁立する際、人口に基づき、女性、ダリット、先住民族、カース・アリア、マデシ族、タル族、イスラム教徒、未開地の人々から厳正拘束名簿式に基づき代表者を確保すること。候補者擁立の際には、地理的、地域的バランスも考慮することとする。 第3項 第2項に基づいて候補者を擁立する際、政党は障害者の代表も含むものとする。 第86条 国民議会(上院)の構成と議員の任期 第2項 国民議会は次の59人の議員で構成される。 (a)連邦法に規定されているように、州議会議員、村議会議長および副議長、並びに地方自治体首長および副首長で構成される選挙人団によって各州から選出される56人の議員である。少なくとも女性3人、ダリット1人、障害者またはマイノリティの1人を含む。選挙人の票の重みは州議会議員、村議会議長および副議長、並びに地方自治体の首長および副首長により異なる。 (b)ネパール政府が推薦し大統領が指名する3人の議員で、少なくとも女性1人を含むこととする。 第176条 州議会 第6項 連邦法は、比例選挙制の下で州議会議員の選挙に向けて政党が候補者を擁立する際に、人口に基づき、女性、ダリット、先住民族、先住部族、カース・アリア、マデシ族、タル族、イスラム教徒、未開地の人々、マイノリティのコミュニティから厳正拘束名簿式に基づき代表者が確保されることと規定。候補者擁立の際には、各州の地理的バランスも考慮することとする。 第7項 第6項に基づいて候補者を擁立する際、政党は障害者の代表も含むものとする。 第258条 国家包摂委員会: |
憲法上、疎外されたグループやコミュニティの権利の保護と促進を担当する国家包摂委員会が存在します。この委員会は、会長1名と委員4名から成る5名で構成されています。障害者などの社会的包摂へ多大な貢献をすることは、当委員会の委員になるための基準の1つと言われています。 同様に、憲法の「別表8」では、地方レベルの権限に関し、高齢者、障害者、能力喪失者の管理は地方政府の責任であると述べています。
ネパールの憲法は、障害者の権利に関してある程度進歩的であるように見えますが、障害者セクターからの大きな支援があるにもかかわらず、障害に特化した別の条文を憲法に割り当てることができず、障害に関する委員会の規定もありません。必要なことは、書かれていることを本当に実施するということです。
障害者権利法(ARPD)は、「国連障害者権利条約」と障害者の権利を保護する2015年憲法の条項を実施するために2017年に制定されました。この権利法は、障害者に対する差別を撤廃し、障害者の国民的、政治的、経済的、社会的、文化的権利を尊重し、障害者に力を与え、彼らが政策立案と開発のプロセスに参加することで、自立し、自尊心を持って生活ができる環境を整えることを目的に、障害者の権利を擁護する人々の長い提唱運動の後に制定されました。この法律に含まれている規定には、基本的なサービス、人権、健康、教育、および雇用等の機会へのアクセスを障害のある人に提供することなどがあります。
障害者権利法(ARPD)では「障害者」の定義を「長期にわたる身体的、精神的、知的、感覚的、機能的な障害のために、または障壁があるために、他の人々と同じ基準で完全かつ有効に社会生活に参加することを妨げられている人」としています。
障害者権利法(ARPD)では、障害をその性質に基づいて次の10種類に分類しています。
1. 身体障害 2. 視覚障害 3. 聴覚障害 4. 盲ろう 5. 音声・言語障害 6. 精神障害または心理社会的障害 7. 知的障害 8. 血友病 9. 自閉症関連障害 10. 重複障害 |
障害者権利法(ARPD)は、障害の程度により次の4つのタイプに障害を分類しています。
この法律の第3章では、障害者に次の権利を保証しています。
7. 現行法に基づく権利を享受する権利 8. 差別に対する権利 9. 地域で暮らす権利 10. 保護の権利 11. 政治参加の権利 12. 政策決定へ参加する権利 13. 組合を結成する権利 14. 文化的生活に参加する権利 15. サービス、施設および司法へアクセスする権利 16. 社会保障を受ける権利 17. 情報への権利 18. 移動の権利 |
障害者に対する上記の一般的な権利に加え、法律の第4章は、特定の疎外された障害者グループに追加の権利を供与しています。この法律の下で規定されている追加の権利は次のとおりです。
19. 障害のある女性の権利 20. 障害児の権利 |
これらの権利に加えて、ARPDには、障害者の権利としての教育、技能開発、雇用、健康、リハビリテーション、社会保障、レクリエーションについて規定した別の章もあります。
地方自治体運営法、2017
地方自治体運営法は、障害者の管理責任を地方自治体に割り当てています。したがって、地方自治体は障害者カードの配布、社会保障手当の交付、データと記録の保管、および障害者のためのエンパワーメント活動の実施に責任を負っています。
2012年に閣僚会議で可決された、公共インフラのアクセシビリティを確保するための最低限の基準と仕様に関するアクセシビリティ・ガイドライン
インフラ交通省の道路、鉄道、運輸セクターの5カ年戦略計画(2073-2078)では、都市部ではすべての道路が歩行者や障害者に優しいものになると述べています。しかし、計画ではそれがどのように、また、いつまでに行われるかについて、それ以上の詳細を述べていません。
ネパールの憲法と法律は、障害者の権利に向かって進んでいるように見えます。しかし、法律が実際に実施されず、条項が記載されているだけでは障害者の生活水準改善のために十分ではありません。ネパールが障害者の権利の達成に向けて国内的および国際的に取り組んできたことの目標を達成するには、まだ長い道のりがあります。法律と憲法に権利を明記することで、少なくともこのセクターの進歩への道が開かれました。目標を達成するためには、政府の3層すべてとすべてのセクターの関係者が協力する必要があります。ネパールにおける包摂的な開発と障害者のエンパワーメントには、官民パートナーシップと国際協力が不可欠です。
ネパール政府。障害者権利法、2074年(2017年)、修正第1条2075年。
閲覧資料:http://www.lawcommission.gov.np/en/wp-content/uploads/2019/07/TheAct-Relating-to-Rights-of-Persons-withDisabilities-2074-2017.pdf
ネパール政府。ネパールにおける障害者権利法に関する規則。
閲覧資料:https://www.lawcommission.gov.np › 2021/01
ネパール政府。ネパール憲法(2015年)。
閲覧資料:https://www.mohp.gov.np/downloads/Constitution%20of%20Nepal%202072_full_english.pdf
ネパール政府。ネパール王国憲法(2090年)
閲覧資料:http://www.asianlii.org/np/legis/const/1990/index.html