リハビリテーション世界会議2024参加報告

目白大学リハビリテーション学研究科保健医療学部作業療法学科
教授 會田 玉美

2024年9月23日~25日にアブダビで開催された「リハビリテーション世界会議 2024 World Congress on Rehabilitation 2024:WCR 2024 )」において「高次脳機能障がい者のためのコミニティメンバーによるオンライン多職種コンサルテーション」を発表させていただきました。またその概要を第23回リハ協カフェ(2024年11月22日(金)13:30~15:30)にてお話しさせていただきました。その後、アブダビの人々の生活についていくつかご質問をいただき、そこでお答えした内容に肉付けしたもの報告いたします。

本カンファレンスはリハビリテーション・インターナショナル(Rehabilitation International:RI)と国際社会保障協会(ISSA)そしてザイード高等機構(Zayed Higher Organization for People of Determination:ZHO)の主催により、中東地域で開催された初のRIカンファレンスでした。カンファレンス会場であるアブダビ国際会議場(Abu Dhabi National Exhibition Centre :ADNEC)と周辺のホテルは連結しており、24時間安全に通行できました。カンファレンス前夜にはGARAディナーが開催され、主催者代表および各国の国際リハビリテーション協会(Rehabilitation International: RI)委員、カンファレンススピーカーが参加しました。アラブ首長国連邦(UAE)では、障がい者を「People of determination: 決意ある人々」と呼んでいます。ZHOは人工知能における世界的な技術進歩を活用して決意ある人々を支援し、公的生活のあらゆる側面で包括的にエンパワメントすることを目指しています。

まず、私の発表内容をここでご紹介させていただきます。外傷性脳損傷や脳血管障害などにより生じる高次脳機能障害には、記憶障害、注意障害、社会行動障害などが含まれます。2012年より「専門性の高い相談支援」に位置付けられ、精神障害者保健福祉手帳の申請対象となりました。近年はテレビドラマなどに取り上げられることが多く、一般にもその名が知られるようになりました。しかし、先進的な支援を行っている地域とそうでない地域の差はまだ存在しています。また、医療、介護、障害福祉、教育など複数の制度の支援が必要であるため、社会的認知度が重要な障害であると考えられます。高次脳機能障がい者は、日常生活動作ではなく手段的日常生活動作という仕事、家事、外出、人との交流、そして金銭管理など、社会参加をするために必須な作業に困難があることが多いです。一見してわからない障害のため、専門家や家族にも理解されにくく、有効な支援にたどり着かず、社会参加が困難なことも想定されます。

私は東京都板橋区にて、高次脳機能障がい者の地域リハビリテーションネットワークの構築に取り組んでいます。病院関係者、障害福祉サービス事業者、介護事業者、地域の障がい当事者と家族で構成する私たちのグループは身近な地域における医療、介護、障害福祉サービスの連携を確立することにより、高次脳機能障がい者の社会参加を促進することを目的に活動をしています。活動内容は支援者連絡会、当事者家族交流会、事例検討会の運営とともに、地域における高次脳機能障がい者の課題について検討することを中心に行っています。高次脳機能障がい者は複数の社会福祉制度の支援を必要とすることが多いため、支援を受けるまでのプロセスが非常に煩雑です。そこで私たちは高次脳機能障がい者の円滑な支援促進する目的で、高次脳機能障がいオンライン相談会「Cognitive Impairments Crowd Community(CICC)」を試行しました。CICCは、過去に私たちの活動に参加した地元のサービス提供者、当事者・家族会の約150人に対して、3か月ごとに高次脳機能障がい者の支援について相談するための申し込みフォームを電子メールで送信しました。その後日程を調整し、Zoomを使用して相談を行いました。CICCのメンバーは6名で、医療および障害福祉の専門家と当事者会のメンバーでした。CICCの試行期間は2022年12月から2023年9月まででした。その結果、CICCの依頼は3事例あり、ケアマネジャーから2事例、医療ソーシャルワーカーから1事例でした。3事例の高次脳機能障がいの対象者は40歳から65歳で、2事例は脳血管疾患、1事例は外傷性脳損傷でした。事例1は就労支援に関する情報を求めており、事例2は単身生活を希望し、事例3は施設入所を希望していました。3事例に共通することは、高次脳機能障害による自己認識の欠如と、社会保障制度(医療、介護、障害、貧困)にまたがる支援の複雑さが、これらの目標達成の阻害要因と考えられました。相談の結果、事例1には複数の就労支援プログラムとその相談窓口を紹介し、事例2には障害者や家族の自助グループへの参加を薦め、障害の理解、金銭管理、単身生活の家事支援の情報を提供しました。また事例3には生保ケースワーカーとの連携や入所可能な施設の情報を提供しました。考察として高次脳機能障害に対する理解の促進を継続することと、CICCにアクセスできるリンクの設定が必要と考えられました。

次に、リハ協カフェ参加者の皆さんからアブダビの人々の生活についてご質問をいただきました。アブダビは7つの首長国からなる連邦制国家UAEの首都であり、UAEの中ではドバイに次いで二番目に人口が多い(約151万人)都市です。UAE国籍の国民は全体の13%であり、あとは移民で構成されています。ホテルやタクシーなど、旅行者が訪ねるところの労働者はパキスタンかネパールからの移民者を多く見かけます。UAEは所得税、法人税がないことでお金持ちを誘致してきたことで有名です。石油や天然ガスの収益を使い、国民に税金を課さずに教育や医療を無料で提供しています。人口が少ない自国民に対して高福祉が施されており、UAE国民も外国人居住者も医療費は基本無料です。病院には公的医療機関と民間医療機関があるそうです。UAE国民は海外の医療機関を受診することも多く、国はその医療費および渡航費までも拠出しているとのことです。近年は外国の資本を利用した、高度な医療機関が次々と建設されており、医療を受けるためにドバイに入国する外国人を誘致している最先端の科学機器と専門機器を装備した医療地区「ドバイ・ヘルスケア・シティ(DHCC)」も造られたそうです。

アブダビはたった5年で町が様変わりするくらい、急激な発展を遂げている都市です。アブダビのザイード国際空港は最新鋭の機器が備えられており、入国審査、出国審査も並ばずに通過できます。9月のアブダビは非常に暑く、平均最高気温は約40.8℃、最低気温は約28.2℃、湿度も高いため、街を歩くことは困難でした。またアブダビの街は礫砂漠に点在していますが、どこに行くにも国営タクシーを手軽に利用できます。アブダビの人々の服装、ふるまいや文化など、初めて目にするものが多く、視野を広げることができたと感じています。リハビリテーションという包括的な分野の様々の専門家が世界中から参加しており、その国の経済、公衆衛生や社会保障制度および社会福祉制度などを反映したリハビリテーションの現状を聞くことができ、私も日本のリハビリテーションに携わるものとして、WCR2024への参加で得られたことを身近な地域に還元していきたいと思います。

・参考文献

日本貿易振興機構(ジェトロ)ドバイ事務所:UAEにおける医療ヘルスケア産業の現状と展望.2020.
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Marketing/world/ae/uaepf_health2011.pdf(2025.01.07参照)

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