社会福祉法人 上横山福祉会
八女地区障害者地域生活支援拠点センター すいれん 総合コーディネーター
大池慶介(おおいけけいすけ)
八女・筑後圏域は、八女市・筑後市及び八女郡広川町の2市1町で構成され、福岡県の東南端に位置し、人口は、八女市60,674人、筑後市49,218人、広川町19,338人(R5.4.1現在)となっています。緑豊かな山々から筑後平野まで広がり、東西に清流「矢部川」が貫流し、茶畑や田園風景の美しい自然豊かな地域です。
平成28年度に、当法人の運営する入所施設が山村地から八女市中心地へ新築移転計画(平成30年3月末完成)の中で、新施設内に地域のための居室を提供したいと八女市に相談したことが地域生活支援拠点等整備(以下、「本事業」という)を検討する契機となり、地域自立支援協議会承認後に検討会での協議が始まりました。
検討会では、「緊急時の受け入れ・対応」機能から検討を始め、過去の緊急受け入れ対応の事案分析から、障害福祉サービスの受給者証を持たない新規者(以下、「要支援者」という)の緊急受け入れ対応と把握を課題としました。
要支援者を把握するために、保健医療・高齢福祉・地域福祉・民生委員などの他分野と情報共有できる体制整備に取り組むことにしました。その要支援者の受け入れ対応を想定した「緊急一時的な宿泊事業(市町村補助事業、12,000円/日、最大5日)」を創設しました。この事業は、市町村と受け入れ対応する施設間で協定を締結し、要支援者の緊急事態時に、市町村決定及び責任で、迅速に受け入れ依頼するスキームとしました。
その拠点機能を運用するため、「地域の体制づくり」にコーディネーターを専従配置することになり、2法人1)に委託し、八女地区障害者地域生活支援拠点センターすいれん(以下、「すいれん」という)を平成30年4月1日に開設しました。
多機能拠点整備型と面的整備型の混合型(拡大図・テキスト)
要支援者の把握は、関係機関を通じての緊急一時的な宿泊事業(以下、「緊急一時宿泊」という)の事前登録による把握や他分野の関係機関との情報共有から把握した気になる人など、属性を問わずアウトリーチしています。その対象者は、8050問題で親の年金で暮らすひきこもりや精神疾患の疑いのある人または病識のない人など、親亡き後に生活に困ると想定する人をアウトリーチチームから内職の仕事をもらい、“お金”をキーワードに定期訪問するなど、細く長く関わりながら、ニーズが顕在化した必要なタイミングで福祉や医療に繋いでいます。
緊急一時宿泊は、24時間365日受付(営業時間外は外部委託)、緊急時には駆けつけ、市町村及び緊急一時宿泊登録施設2)の判断を仰ぎながら、登録施設へ橋渡しを行います。事前登録がない場合は、受け入れに必要な情報を聴きとり後に引き継ぎます。開所後5年間で、27名(延べ102日)を緊急一時宿泊登録施設へ橋渡しを行いました。
すいれんを開所した初年度の課題で、精神障がい者の緊急受け入れがあったことから、精神障がい者のレスパイトのあり方や一人暮らしに近いグループホームがない地域課題から、民間アパートを活用した「一人暮らし自立体験ルーム3)」(以下、「体験ルーム」という)を「体験の機会・場」機能として令和2年1月に開設しました。
体験ルームは、すいれんと常時の連絡体制を確保した見守りのみで、食事などの身の回りのことはすべて自身で行うこと等、一人暮らしに近い環境としているのが特徴です。利用者には、自立支援計画書を作成し、そのスケジュールに沿って体験します。柔軟な利用ができるように、日割り利用を可としました。体験後に、これからの生活設計を振り返るスキームにしています。利用者は、自立したい動機だけではなく、グループホームや家族から離れて暮らしたいなど、それぞれの事情に応じて利用できるようにしています。
開所後3年間で、利用者33名、延べ606日利用、一人暮らしへの地域移行者7名と利用者からの反響が良くリピーターもいます。もちろん体験利用後に、グループホームや今の生活を選択される人もいます。体験ルームは、一人暮らし体験を通し、今の生活と比較し、これからの生活設計をイメージ形成することを目的にしています。また、一人暮らしに地域移行するには、自立したい気持ちが一番の強みで、少しずつ自信や経験をつけてもらう想いもあります。
本事業を開始し、今年度末で約6年が経過します。「要支援者の把握」「緊急一時宿泊」の運用から始めましたが、緊急一時宿泊を利用した障がい者等の大半が事前登録のない新規者でした。関係機関を通じて周知をしていますが、なかなか浸透しないことや日常的に繋がりのない新規者の緊急受け入れは、当日の夕方あたりに相談が入る傾向で、受け入れは夜中になることも度々ありました。夜勤帯の少ない職員配置での対応やアセスメントに基づく支援方法が分からない新規者は、現場にかなりの緊張を持ち込むことになります。実際に受け入れている施設からは、現在の報酬面だけでは運営上のメリットはあまり感じず、困った人に手を差し伸べる法人の公益性や職員の心意気で対応している現状と課題があります。障がい者や地域事業所が対応してきたさまざまな地域課題の実情にあわせてサービスを提供する仕組みを体系化しなければ、現実と理想が乖離し、本事業を整備する必要性が定まらず、みんなで支えていこうとする福祉風土は風化していきます。
その整備後の運用課題に取り組むために、「地域の体制づくり」機能に拠点検証・検討委員会を位置づけ、市町村及び協力事業所等と共通認識を持つために拠点機能の実用性を検証し、機能充実と新たな体系化に取り組んでいます。そして、県内でいち早くコーディネーターを配置するなど、本事業を整備する市町村との共通認識やバックアップ体制があったからこそ、官民一体となった地域づくりが推進できました。これからもすいれんを中心とした複数事業所と協力する面的整備型の促進に向け、できることから一つずつ取り組んでいきたいと考えています。
1)現在の受託法人:「社会福祉法人上横山福祉会」「NPO法人リーベル」
2)登録施設:社福)上横山福祉会「蓮の実園」「蓮の実団地」社福)伍福会「さくらぁと」
3)体験ルーム:家電製品・日用品を完備、八女市中心地の民間アパート1室(1K)、利用料1,500円/日(家賃光熱水費込み)、年間50日