静岡市保健福祉長寿局健康福祉部障害福祉企画課
大石茉由(おおいしまゆ)・増山あかね(ますやま)
当市は、北に南アルプスの山々、南に日本一深い駿河湾と豊かな自然環境が広がり、温暖な気候と暮らしやすい生活環境を有する静岡県中部の政令指定都市です。市内には、徳川家康公のゆかりの地である世界遺産「三保松原」や、国宝「久能山東照宮」などの地域資源もあり、長い歴史と文化に恵まれた都市でもあります。
当市の人口は680,913人(令和5年3月31日現在)で、各種障害者手帳の所持者数は、身体障害者手帳が22,847人、療育手帳が7,427人、精神障害者保健福祉手帳が6,146人となっており、障害者手帳の所持者数及び障害福祉サービスの利用者数は年々増加傾向にあります。
当市は葵区・駿河区・清水区と3つの行政区によって構成されています。各区に委託相談支援事業所が3か所ずつあり、重症心身障害児者向けの委託相談支援事業所1か所を含めると、市内に計10か所設置されています。この委託相談支援事業所と行政が協力し、地域の課題や困難事例を検討する、行政区ごとの「障害者相談支援連絡調整会議」や、サービス種別ごとに開かれる「障害福祉サービス事業所連絡会」など、事業所間の情報共有や課題解決を図るための場を地域に多く持っていることが特徴です。
第4期静岡市障がい福祉計画(平成27年度~平成29年度)において、「平成29年度末までに市内に地域生活支援拠点を1か所整備すること」を目標としていたため、静岡市障害者自立支援協議会の下部組織である「地域生活支援部会」に平成28年度から「地域生活支援拠点プロジェクトチーム」が設置されました。このプロジェクトチームでは、地域生活支援拠点が備える機能の方向性や、地域における役割分担等を整理し、協議を重ねた結果、「面的整備型」を基本とすること、清水区にある「百花園宮前ロッヂ」を地域生活支援拠点として位置づけることなどが決定されたことを受け、平成30年度から本格的に整備が開始されました。
当市の地域生活支援拠点は、「地域のみんなで手を取り合って障がい者が安心して生活できる体制をつくっていこう」という意味を込め、「まいむ・まいむ」という名前が付けられています。まいむ・まいむは国が示している5つの機能の整備に満遍なく取り組んでおり、この取り組みを行うための調整役として、「相談調整コーディネーター」と「サービス調整コーディネーター」の2名を配置しています。相談調整コーディネーターは「相談」と「専門性」を、サービス調整コーディネーターは「緊急時の受け入れ」と「体験の機会・場」を担当し、「地域の体制づくり」は両コーディネーターが協力して進めています。以降は、各機能の取り組みの概要をご紹介します。
当市で特徴的な点は、指定特定相談支援事業所が取得可能な「機能強化型加算」を、複数事業所で協働しながら実際に取得している事例があることです。運営規程において「地域生活支援拠点等を担う事業所であること」を定め市町村へ届け出ることがこの加算の要件の一つであり、取得事業所が増えることは、地域生活支援拠点の協力者が増えることにもなるため、令和5年度に市内相談支援事業所へ加算説明会を開催し、まいむ・まいむの輪をさらに広げようとしています。また、相談支援体制が十分に整備されていない地域において、民生委員や地域包括支援センターと共同で出張相談会を定期的に開催するなど、多分野の支援者と連携しながら、相談支援体制の強化に取り組んでいます。
市内短期入所事業所の特徴や空床情報を一覧にした「短期入所空床情報共有ツール」の運用を令和5年度から開始しました。空床情報共有ツールは、短期入所事業所に空床情報の定期的な入力を依頼し、その一覧表のURLを計画相談支援事業所へ共有することで、短期入所事業所選定時に、計画相談支援事業所が一覧表のデータを確認し対象事業所へ連絡することを可能にしています。
現在、当市では、入所施設・グループホームの相互理解促進等に取り組んでいます。令和5年度は入所施設職員に向けた「グループホーム見学ツアー」を実施しました。ツアーについては来年度以降も継続して実施していきたいと考えています。また、今後は後述の連絡会を活用した、意見交換の場の設置等も検討しています。
静岡県が開催している「強度行動障害支援者養成研修」の修了生等を対象に、講義と実技演習からなる「強度行動障害支援者フォローアップ研修」を年に1回実施しています。強度行動障害者支援に関して知識はあるものの現場での活かし方が分からない方や、支援方法についてより理解を深めたい方など、支援者個人のスキルアップの機会を設けることで、地域における強度行動障がい者に対する支援力の向上を図っています。また、移動支援事業のヘルパー不足が長年の課題ですが、「移動支援事業従事者養成研修」を開催することにより、知的障がい者及び精神障がい者向けガイドヘルパーの資格取得者を養成するなど、専門的な対応を行うことができる人材の確保と養成に努めています。
さまざまな障害福祉サービス事業所が市内に点在する中で、サービス種別ごとに情報交換や課題検討の場を設けることを目的に、入所施設・短期入所事業所・グループホームの各連絡会が令和4年度に発足しました。そして、連絡会参加事業所職員同士が連携を深めるとともに、地域のさまざまなニーズに対応できるようにするため、年3回の勉強会をまいむ・まいむが企画、運営しています。令和5年度は各連絡会の課題に応じて、「精神障がい者の基礎」や「施設虐待防止」について触れました。今後も地域の支援力や課題解決力の向上に向け、連絡会と協力しながら勉強会を開催していきます。
「相談」の機能における8050世帯等、緊急時の支援が見込めない世帯の事前把握の面では、高齢分野へのアンケート調査に取り組み始めているものの、対象世帯把握後の有効的な情報の活用方法や、緊急時の具体的な連携の仕組みづくりが今後の検討課題となっています。そのため、高齢分野の支援者とも定期的に意見交換を図りながら、緊急時の問題が顕在化する前に対応できる体制を地域全体で構築していかなければなりません。
緊急時の受け入れに関しては、今年度実施したアンケート(表)により、事業所が緊急時に受け入れを行う場合の要件として「1年以内に事業所の利用実績がある」という点が多く挙げられました。しかし、当市の現状として、平時から短期入所事業所を利用する方は少数となっています。そのため、今後は利用者等に平時からの短期入所事業所の利用を促すための方法を検討する必要があります。
表 緊急時の受け入れに関するアンケートの項目(自由記載)
1.事業所の緊急時短期入所利用者の受け入れ条件 |
2.過去に緊急時短期入所利用者を受け入れたケースについて |
3.緊急時短期入所受け入れのために事業所で工夫されていること |
4.過去に受け入れに結びつかなかったケースについて |
5.緊急時の受け入れを行う際に課題となっていること |
また、まいむ・まいむは令和5年度で設置から約6年が経過しましたが、まだまだ市内障害福祉事業所の皆さんに両コーディネーターの活動内容が浸透していないことも課題です。地域生活支援拠点の整備は、拠点等に関与する人を少しでも増やし、それぞれの結びつきを強化していくことでより進んでいくと考えています。地域の障害福祉分野の支援者はもちろんですが、他分野の方々も含め、まいむ・まいむの関係人口を広げていき、地域全体を巻き込みながら障がい者が安心して暮らせる支援体制の構築を進めることが大切です。