全国医療的ケアライン(アイライン)について

「新ノーマライゼーション」2024年3月号

全国医療的ケアライン 副代表
村尾晴美(むらおはるみ)

1. 設立に至る経緯

医療的ケア児とは、生まれつきまたは疾病や事故等によって日常生活を送る上で医療的なケアが必要な子どもたちです。重度の身体的・知的障害をもっている子が多いのですが、中には、運動機能に支障がほとんどなく、動き回ることができる子どもたちも増えています。障害の種類や程度にかかわらず、医療的ケアが必要な子どもたちの課題は、看護師等のケアが担える人材の配置が壁となり福祉サービスの利用が制限されたり、学校にも家族の付き添いが必要であったりと共通することが多いのですが、これまではなかなか繋がる機会がありませんでした。

2021年9月、医療的ケア児支援法が施行されたことは、子どもたちや家族の日々の困難さが改善されていくことへの希望となりました。とはいえ、期待はしつつも、取り組みに熱心な地域の環境が良くなるだけで、全国の地域間格差は広がってしまうのではとの懸念もあり、本当に私たちが望む社会にするためには、自らの地域で会を築き理解を広げる活動や、他県の仲間たちと繋がりを持ち助け合いながら、国にも直接声を伝えていく必要性を感じ、2022年3月、全国医療的ケアライン(以下、アイライン)が設立されました。

2. 会の概要

アイラインは、医療的ケアに関わる家族会が都道府県単位に会員登録し繋がった、全国初の団体です。「ライン」という言葉には、これまでバラバラだった存在を1本の線で繋いで、強い絆を築いていく意思が込められています。活動の主体は各都道府県の家族会であり、重い病気や障害があっても、安心して住み慣れた地域で暮らし続けられるよう活動を行っています。

こうした家族会同士の情報交換や関係づくりを補助し、各都道府県での経験やノウハウを共有できる環境を提供していく役割を担うことで、各家族会が自ら学び地域に伝える力を高め、それぞれにとってのより良い地域づくりに繋がることを目指しています。

2022年3月の設立時に1,475名であった活動メンバーは、半年後の2022年9月に全国フォーラムを開催した時点で2,595名、さらに第2回を行った2023年11月時点では、3,607名と、多くの方々の参加をいただけるようになりました。内訳は、医療的ケアや病気や障害のある当事者992名、その家族1,768名、支援者847名となっています。

3. アイラインの活動

アイラインでは次の3つの活動を主軸に家族会やメンバーの交流の機会や共に学び考え、理解啓発やネットワークの構築を進めています。

繋がりづくりでは、コロナ禍で一気に活用しだしたZoomが大活躍しています。普段から子どもと離れることが難しい私たちには、自宅で全国の方に繋がり学べるツールは、表に出られなくても社会を広げられる貴重な資源となっています。Zoomを最大限活用して、研修、サークル活動、さらに総会もオンラインで開催しています。

1.オンラインサークル活動

医療的ケア児者や家族のより良い環境づくりを目的にオンラインでの情報交換や交流等の活動を行っています。現在、メンバーの関心の高いテーマに沿って『短期入所』『防災』『学校』『衣食住』『幸せな自立』『フリートーク』6つのサークルが活動しており、それぞれに関心のあるメンバーが全国から参加して活発な意見交換をすることで地域での活動にも役立てています。今後も新たなテーマでサークルが立ち上がり、身近な課題を共有し、解決に向けての活動に繋がることを期待しています。

2.課題発信と啓発活動

日々の活動を通して取りまとめた課題や現状を、各種会議への参加や講演会などの形で発信する他、アイライン内で行ったアンケート調査を報告書にまとめ発行することで、医療的ケアにまつわる課題を社会に伝えていきます。

3.全国フォーラムの開催

1年に1度、全国から仲間が集い交流を深めるほか、開催テーマに即した発表や議論の場を設けることで社会への発信の機会としています。

過去のフォーラムの様子はYouTubeでもご覧いただけます。

https://www.youtube.com/@i-line7098

4. 医療的ケア児者の支援で願うこと

私たち家族は支援者の方々に支えてもらいながら、医療的ケア児と共に家族として暮らしていく力を身につけていきます。各家族への支援の際には、時には家族が家族としての役割を果たせるように、もどかしく感じても家族の力を信じて見守っていただけたらありがたく思います。

また、当事者もどんなに重い障害があっても意思があり、その思いは尊重されるものです。自らの力で選択できる環境を整える支援であってほしいと願っています。それが、 昨年4月に公布されたこども基本法や、設置されたこども家庭庁のスローガン「こどもまんなか」にも通じるものであり、本人の自立に向けてもとても大切な経験になります。

さらに、医療的ケア児者に関心を持っていただき、私たちと一緒に、地域の中で暮らす医療的ケア児者が抱える問題に取り組みたいと思ってくださる方々には、まず地域の当事者家族に会い直接話を聞いていただきたいと思っています。医療的ケア児の問題は多岐にわたっているように思えますが、今はまだ、それぞれの地域にいる医療的ケア児者の数は決して多くはないはずです。皆さんの目の前にいる医療的ケア児やその家族との対話の中からこそ、地域の課題もその解決策も見えてくるのではないでしょうか。当事者や家族も一緒に考える仕組みをつくってほしいと願っています。

また、医療的ケア児者とその家族は孤立しやすい状況にあります。医療的ケア児とその家族が住み慣れた地域で暮らしていくためには繋げる支援も大切です。当事者や家族自身がそれぞれの地域で横や縦にわたる広いネットワークを構築できるようになると、先を見据えて安心して過ごすことができるようになります。また、全国の医療的ケア児者の家族と繋がることで、さらに地域の課題に向き合う力をつけ、広い視野で考える力もつきます。家族同士の繋がりをと考えた時には、アイラインを思い出し、地域の家族会にご連絡いただけましたら幸いです。

5. 最後に

発足から2年足らずのアイラインですが、担う役割は大きいと感じています。

国や自治体の会議に参加させていただくことも増え、当事者や家族の立場からの意見を伝える機会が増えてきました。医療的ケア児支援法も施行から3年目を迎え、改正の議論が始められる時期となります。専門家ではなく、日々暮らす当事者だからこそ感じる課題やこれからの社会に対する期待を積極的に伝えていき、制度上だけでなく、実際に当事者家族の生活が良くなったと感じられるようになるための法改正に寄与していきたいと考えています。

また、対外的な活動だけでなく、私たち自身が自分たちの力でより良い人生を過ごせることに繋がるような活動も、引き続き取り組んでいきます。

例えば、アイラインでは、全国フォーラム開催当初より、全国から東京に公共交通機関を使って集まることをチャレンジととらえ、助成金を元に、各都道府県あたり1組の参加者に対し、旅費交通費の一部を補助しています。移動する中では、いまださまざまなバリアに遭う一方で、バリアフリーの行き届いた場所を知り、合理的配慮によりバリアが解消される経験をすることもできます。「新幹線や飛行機に乗れた」「急なトラブルも何とかなった」「周りの方に助けてもらえた」そういった経験が、医療的ケア児者本人や家族の自信となり、日々の行動範囲が広がっていくことを願っての支援です。同時に、公共交通機関の職員の方々や街を歩くたくさんの人にとっても、医療的ケア児者やその家族との出会いの機会となり、社会への啓発にも繋がるものと考えています。

今後も、当事者だからこその視点での活動を継続することで、医療的ケア児者やその家族の経験値を上げ、結びつきを強くするだけでなく、医療的ケア児者とその家族への社会の理解を高め、支援の輪を広げる役割を担っていきたいと思っています。

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