安心して育ち、働き暮らせる未来をつくる医療的ケア対応複合施設「すくすくハウス」の取り組み

「新ノーマライゼーション」2024年9月号

社会福祉法人ワーナーホーム柏拠点統括施設長
大久保夏樹(おおくぼなつき)

千葉県柏市にある「すくすくハウス」は、医療的ケアを必要とする子どもたちや重い障害をもつ子どもたちが、安心して育ち、そして働き暮らせる未来をつくることを目指して設立されました。居場所がある安心感を礎に、ここから広がる未来を目指して活動する「すくすくハウス」の取り組みをご紹介いたします。

すくすくハウスプロジェクトのはじまり

「すくすくハウス」を運営する社会福祉法人ワーナーホームは、1981年に千葉県柏市の小さな作業所から出発し、障害があってもその人らしく、住み慣れた地域で暮らすことができるように、障害児者とそのご家族への支援を積み重ねてきました。その地域活動の中で、私たちは医療的ケアを必要とする子どもたちとそのご家族に出会いました。2013年に運営を開始した「すくすく」は、医療的ケアを必要とする子どもたちが安心して過ごせる場所をつくりたい、24時間の緊張や不安を伴う子育てを少しでも一緒に担いたい、という想いで設立した障害児通所支援施設です。彼らと一緒に過ごす年月が長くなるにつれ、医療的ケアを必要とする子どもたちの子育ては、その成長の段階に応じてその困難が小さくなるのではなく、形を変えて大きくなっていくことを目の当たりにしてきました。ご自身よりも大きくなるお子さんを抱え、学校への送り迎えを続けるご家族の姿に、私たちにできることはないだろうか……日に日にその想いが強くなっていきました。そして実際に、「すくすく」には10人以上の高等部の子どもたちが在籍し、卒業後の行き先がないという現実がありました。

地域の力

そんな必要に迫られた状況ではありましたが、実は、法人の中で、障害児通所支援事業所は赤字事業でしたので、新しい事業展開を提案できる状況ではありませんでした。そこで、まずは、寄付活動を開始する法人内承認をもらいました。そして、就労支援事業所の方々に募金箱をつくってもらい、地域にあるさまざまな事業所や店舗に募金箱設置のお願いに伺いました。すくすくの子どもたちのことを伝えながら応援をお願いすると、多くの方が耳を傾けてくださり、募金箱の設置は100か所を超え、応援の輪が広がっていきました。応援してくださる方のつながりで、2000坪の事業用地を貸してくださる方が見つかりました。当初、なんとか高等部を卒業した後に通う生活介護事業所をつくらなくては、という想いでプロジェクトをスタートしましたが、当初の計画を超えた大きなプロジェクトとなりました。建設資金のためのクラウドファンディングにも挑戦し、延べ382人1,229万円ものご支援をいただきました。地域のみなさまの応援が法人に届き、宿泊可能な短期入所や診療所の機能を加えた、みんなの将来の暮らしを支える複合施設の建設が実現しました(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

事業概要

すくすくハウスでは、これまで行ってきた障害児通所支援に加え、大人になっても通うことのできる居場所や仕事、宿泊できる場所など、さまざまな機能でみんなの育ちや暮らしを支えます。具体的な事業の内容は、以下のとおりです。

〇児童発達支援、〇放課後等デイサービス、〇生活介護、〇就労支援、〇短期入所、〇訪問看護、〇居宅介護(有償移送・移動支援)、〇診療所(準備中)

未来をつくる地域活動

すくすくの子どもたちの多くは、近くの小中学校ではなく、医療的ケアや重度障害に対応できる隣市の特別支援学校に通っています。遠い場合は、車で1時間ほどかけて保護者が送迎しているため、学校に行く途中で誰にも会わず、学校の先生や放課後等デイサービスの先生たち以外、この地域の誰とも接触することなく帰宅します。

ある地域の医療的ケア体制を検討する会議で、保護者の方に「この子は、将来誰と暮らしていくのでしょうか」と問いかけられ、はっとさせられたことを今でもよく覚えています。その経験から、すくすくハウスは、子どもたちが安心できる場所を提供するだけでなく、地域全体に向けた活動を大切にすることを強く意識するようになりました。

〇Sandwich Cafe PAISIBLE&sukusuku coffee

法人内で運営するベーカリーのパンや近隣福祉事業所の野菜を使用し、サンドイッチを提供するカフェを運営しています。配膳ロボットを活用し、車いすの方も接客や製造などの仕事にチャレンジしています。

また、プロジェクトが始まったころに出会った高校生たちの発案で、東ティモールのフェアトレードコーヒーをドリップパックにして販売しています。オリジナルコーヒーのパッケージは、生活介護の方々がそれぞれの方法でデザインし、季節ごとに色とりどりのパッケージで販売されます。コーヒーを常備してくださっている施設に、定期的に配達をしながら、地域での関係を育くんでいます(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

〇インクルーシブプレイパーク

日本財団のご支援をいただき、すくすくの前にはインクルーシブ遊具を設置しました。障害の有無にかかわらず、一緒にいられる、一緒に遊べる場になるようにと、「みんなの広場」としました。子どもたちは、どんな医療デバイスがあるかとか、どんな障害があるかは聞きません。ただ一緒に順番を待ち、一緒に遊べるかを考える、そんな時間がみんなの広場には流れています。

〇コミュニティ農園

そして、今年度から取り組んでいるのがコミュニティ農園づくりです。LFCコンポストというバッグ型のコンポストを販売し、家庭の生ごみを投入してできたたい肥を持ち寄れる、コミュニティ農園を整備中です。コンポスト販売だけでなく、農園の水やりや農園の様子をSNSにアップする仕事、みなさんが地域とつながりながらやりがいを持って取り組めるさまざまな仕事が生まれます。重い障害があっても、さまざまな仕事にチャレンジできるよう、スイッチや視線入力の装置を活用したいと、スタッフもメンバーも一緒に勉強しながら取り組んでいるところです(洲崎福祉財団助成事業)(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

すくすくハウスができたことで、ほんの少しだけ、将来の安心につながる支援を充実させることができたかもしれません。けれど、そこにいていいよと与えられた場所が本当にその人がいたい場所かどうか、その暮らしがその人のありたい暮らしかどうかはみんなが自分で決めていけばいいと思います。必要なケアや障害に関係なく、すくすくハウスのみなさんにとって、居心地の良い場所や一緒にいたい人が、地域の中に広がっていくことが、私たちの目指す未来です。すくすくハウスのコミュニティが、そんな地域への広がりをつくり、地域の未来を紡いでくれる場になれるように、これからも、みんなで一緒にいろんなことにチャレンジしていきたいと思います。

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