なんでも創る・みんなが楽しい-「面白い=ユニバーサル?」(パラ)ブレイキンが持つ面白味とは

「新ノーマライゼーション」2024年9月号

日本アダプテッドブレイキン協会 代表
高橋俊二(たかはししゅんじ)

ブレイキン(ブレイクダンス)とは?

今年のパリオリンピックで唯一の新競技として採用されたブレイキンを皆さんご覧になりましたでしょうか? ご覧になった一人ひとりにさまざまなご意見があると思いますが、スポーツの祭典でブレイキンが取り入れられることには正式決定の前から賛否両論が常につきまとってきました。ほとんどのスポーツでは競技を「平等」に行うためのルールが事前に細かく決まっていて、ルールで公平性を担保できない場合には体重や障がい特性などによるクラス分けを行います。一方でブレイキンは競技を「自由」に行うために事前ルールは明確には決められていません。踊る長さや順番さえも確定せず、DJの選曲も事前には知らされず、ジャッジの審査基準さえも明瞭な数字化がなされていません。同じ身体を動かす喜びを目的にしていながらも、一般スポーツが「平等」から生まれる楽しさを目的にしているのならば、ブレイキンは「自由」から生まれる楽しさを目的にしています。

実は私自身も元々は日本代表チームとして世界大会に出場していた時期もありましたが、その時からブレイキンが持つ競技性以外の多様な選択肢に面白味も迷いも感じていました。そもそもブレイキンは、ヒップホップカルチャーと呼ばれるアメリカ貧困層から「文化」的に発生し、エンターテイメントとしてその派手な動きが「娯楽」的に広まり、アーティスティックな表現者は「独創芸術」的に、アドリブで踊る表現者はジャズミュージシャンのような「即興芸術」的な面も持ち合わせ始めました。また近代リズムダンスとして協調性を重要視した「教育」的な面の後押しもあり、遂にはスポーツとしての「競技」的なゴールの一つであるオリンピックにまで到達することになりました。以上のように、オリンピックで知った方々には多様的な面をブレイキンが持っていることをまずは知っていただきたいです。時には協調性よりも個性の方が重要視され身体的な特徴をもつ障がい者が独創的だとリスペクトされることさえもあり、私自身も実際に世界大会で片足のブレイクダンサーと対峙した時には彼の独創性に負けないように気合いを入れたものです。

日本アダプテッドブレイキン協会が考えるアダプト(適合)

これら多くの顔を持つブレイキンは現在の多様性が重要視される世の中と偶然にも相性が良く、急に認められだしたというのがブレイクダンサーたちの率直な実感です。取り巻く環境も急ピッチで整備され、内閣府に承認された団体によるブレイキン指導者資格や健全な指導者を養成するための指導研修会など教育的な普及活動が行える環境も整えられてきています。

一方で、私が代表を務める日本アダプテッドブレイキン協会(2019年設立)を中心に障がい者への普及とその名称についても協議がなされています。まずは我々が掲げる「アダプテッドブレイキン」ですが、前述したようにブレイキン自体が自由なものなのでルールを各障がいにアダプト(適合)する必要はありません。次に「パラブレイキン」の名称ですが元々健常者と障がい者がインクルーシブに活動しているブレイキンの世界をパラとして分ける必要もありません。便宜上の名称があってもブレイキンはブレイキンなのです。ただし、オリンピック以後は競技的認知度が上がってしまったために障がい者が始めるにはハードルが高いというイメージがバリアになってしまっています。そのバリアを払拭するためには名称を一般的に適応するためパラブレイキンという呼称はあった方がよいと思っています。我々アダプテッドブレイキン協会は競技ルールによるバリアではなく一般イメージによるバリアを取り除くため、環境の方をアダプト(適合)させていくべき活動を行っています。

審査基準が明確ではないからこそ面白い世界大会

曖昧にもみえる審査方法と共に進化してきたブレイキンを楽しんでいる人たちからすると「ダンサー同士を相対的に比較して勝敗を付けること」こそが面白味だと感じています。審査基準を明確にすることは大会に出る人を限定してしまうことにも繋がり、最初にふるいに掛けられるのは障がいのある人たちかもしれません。我々が主催している一番大きな大会は「ユニークゾーンワールド」という障がい者限定の世界大会です。決勝トーナメントに進出したのは、知的障がい者5名、精神障がい者1名、身体障がい者6名、聴覚障がい者3名、視覚障がい者1名の計16名で、審査基準が曖昧であるからこそ国の代表になった選手たちです。もし明確な審査基準があった場合には障がいの種別に偏りがあった可能性もありますし、予選のステージに立つことさえできなかった可能性もあります。誰だろうとまずはステージに上がって輝いてもらい、どちらの輝きの方が優っていたのかを経験値の高い審査員が相対的に判断する。この面白味を維持し正しく広めることが我々の使命だと思って各大会をこれからも続けていきます。

面白いから努力できる、面白味の有能性

多様性が前提にあるブレイキンを楽しんでいる人たちは共通して、たとえ方向性が違っていても「互いが違って当たり前」ということを無意識に認め合っており、このようなブレイキンの特異な有能性を広めることで世の中が少しずつ多様的になっていくと思っています。オリンピック効果でスポーツとしてブレイキンシーンに入ってくる人たちも結果的には一人ひとりが独自の道を見つけることになるでしょう。

ブレイキンを広める上で重要なのは、始めるきっかけのハードルを下げること、そして発表の場の選択肢を増やすことです。レッスンのハードルを下げるためには、障がいに理解のある講師を増やし将来的には障がいのある当事者が講師となりインフルエンサーとしても有名になることも必要です。発表の場は似た障がい者同士や、似た趣向同士のコミュニティを用意し、決して発表会をゴールとはせず通過点として自他理解を深め自信に繋がるように誘導していきます。個性を大事にするからこそ先に協調性を育み、インクルーシブを目指すからこそまずは障がい者のみで催事を行います。

努力する人は努力している人を笑いません。誰もが持っている「努力する権利」が環境によって奪われないように、自分の好きな努力を自ら選択できる世の中を目指して、その努力をしやすい環境を整えることが我々の役割です。理想論と言われることもありますが、ブレイキンにはそれくらい特別な力があり、結果的にブレイキンの世界自体が世の中でいうユニバーサルな世界であると信じてこれからも活動を続けていきます。

<問い合わせ先>日本アダプテッドブレイキン協会
Mail:Jaba.information@gmail.com

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