日本障害フォーラム 代表
(社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 会長)
阿部一彦(あべかずひこ)
私が日本障害フォーラム(以下、JDF)と知り合ったのは東日本大震災(2011年3月)の時です。JDF幹事会メンバーが仙台市を訪れ、私たち宮城県内の障害者団体と情報交換を行いました。そしてみやぎJDF支援センターが開設され、各地から駆けつけた支援員による活動が展開されるとともに、被災地の団体との情報交換会が繰り返されました。想定外の大きな被害と長期にわたる困難な避難生活の中、JDFなどの支援を受け、地元の私たちはつながり・支えあうことの大切さとありがたさに元気づけられました。
さらに、福島県内と岩手県内にそれぞれ支援センターが開設されました。各支援センターは被災した障害者への個別的な支援とともに、障害者施設の被災状況の調査や再建支援に取り組みました。
2015年3月の国連防災世界会議に際しては、新たに策定される国際防災枠組に障害者の参加とインクルージョン(社会的包容)が確保されるよう、政府に要望書を提出するとともに、陸前高田市(岩手県)と仙台市で報告会を開催しました。同世界会議では初めて障害者がステークホルダー(利害関係者)に位置づけられ、策定された仙台防災枠組(2015-2030)では、「障害のある人の参加は、ユニバーサルデザインに配慮し、多様なニーズを持つ人たちに応えることのできる防災・減災計画とその実施のために重要である」と明記されました。
その後、熊本地震(2016年4月)、そして能登半島地震(2024年1月)においてもJDF支援センターが開設され、地元の障害者団体との連携のもとに支援員による活動が展開されています。
JDFの被災者支援に関する実践活動によって得られた課題は、報告会開催や府省庁への要望活動そして関係する委員会などに出席しての検討につながるとともに、障害者権利条約に関する市民社会(障害者団体)からの報告書として国連障害者権利委員会に提出されました。その結果、権利委員会の総括所見(2022年9月)では、第11条(危険な状況及び人道上の緊急事態)に関して具体的に勧告されました。
JDFが要望した内容の一部は災害対策基本法などの改正、そして障害者基本計画や災害対策基本計画などに記載されています。過去の大規模災害時の反省によって、例えば、避難行動要支援者名簿作成の義務化(平成25年)、個別避難計画作成の努力義務化(令和3年)、福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改正(令和3年)など、被災者支援に関していくつかの改善がありました。
しかし、能登半島で被災した現地の皆さんの報告をお聞きしますと、現実には障害があるとさまざまな苦難に遭遇していることが判明しました。法律、制度の改正が、地域の取り組みに十分には反映していないのです。
現在、政府により防災庁の創設が目指されています。今後、JDFでは被災地での支援活動を行う一方、これまでの経験を踏まえてインクルーシブ防災という視点から、防災庁の創設、法律、制度の改正に関わっていく必要があります。さらに、国レベルの制度を地域(市区町村)での実践に結びつけるための活動を地域の障害者団体と連携して展開していくことが大事です。災害時の避難支援や避難所運営などに関わるのは地域の方々ですので、インクルーシブ防災に関する地域の理解を進めることが大切です。災害時に最も不便と困難を強いられる障害のある私たちの立場から声を挙げていく必要があります。今後、いつ、どこで起きるかわからない大規模災害に備えるための活動がJDFには求められているのです。