中核的人材養成研修の実施について
「新ノーマライゼーション」2025年7月号
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域生活・発達障害者支援室 発達障害対策専門官
西尾大輔(にしおだいすけ)
日本において、強度行動障害という言葉が使われるようになって30年以上が経ちました。その課題解決が急がれる中、令和6(2024)年からはすべての都道府県を対象として中核的人材養成研修が実施され、「標準的な支援」の普及と実装が全国に広まりつつあります。ここでは中核的人材養成研修の実施に至るまでの強度行動障害支援の経緯と標準的な支援の概要について説明します。
強度行動障害支援の経過
「強度行動障害」という用語は、平成元(1989)年の行動障害児(者)研究会「強度行動障害児(者)の行動改善および処遇のあり方に関する研究」で初めて使用されました。この時の強度行動障害の定義として「精神的な診断として定義される群とは異なり、直接的他害(噛みつき、頭突き等)や、間接的他害(睡眠の乱れ、同一性の保持等)、自傷行為等が通常では考えられない頻度と形式で出現し、その養育環境では著しく処遇の困難なものであり、行動的に定義される群」とされています。強度行動障害は医学的な診断名ではなく、行動上の問題が継続している状態像に対する呼称ということになります。
重度の知的障害と自閉症の特性を併せもつ強度行動障害の支援において、特に難しさがあったのは自閉症の支援でしたが、1990年代以降、日本でも支援方法が少しずつ明らかになってきました。支援についての大きな変化は、自閉症の原因を心理的なものとする心因論的アプローチから、脳機能の違いに着目した行動科学をベースにしたアプローチへ展開されてきたことです。このような支援が実践されていくことで、効果的な支援方法の知見が蓄積され、平成25年には強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)、翌年からは実践研修が開始されることで、今日までに多くの支援者が修了しています。
一方で、強度行動障害の状態にある方への虐待や、障害福祉サービスが利用できない、受け入れを拒否されるといった課題は依然として残っていました。このような状況を踏まえて、厚生労働省では令和4年度に「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」を8回にわたり実施して報告書をまとめました※1。
同報告書では、強度行動障害の状態像にある方の支援の現状を整理するとともに、6つの各論をまとめて、地域における支援体制のあり方と構築に向けた道筋を示すことができました。
この中で示されたテーマの一つが中核的人材の養成です。強度行動障害の状態像にある方への支援人材の専門性の向上と現場での実践が求められる中、従来の強度行動障害支援者養成研修に加えて、同研修で学ぶ「標準的な支援」を踏まえて現場において適切な支援を実施し、組織の中で適切な指導助言ができる人材となる中核的人材の養成が必要であることが指摘されました。
この指摘を受けて、令和6年度から独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園で、全都道府県を対象とした中核的人材養成研修が開始されています。この研修は合計17時間以上で7つの科目の講義と演習で構成され、受講者自身が事業所での実践を通してディスカッションする形式としました。実践型の研修の形式とすることで「標準的な支援」について座学やロールプレイにとどまることなく、実際の支援現場で実装していくことを学び、体験することができています。
強度行動障害の状態にある方への「標準的な支援」
令和元年度障害者総合福祉推進事業「強度行動障害児者に携わる者に対する体系的な支援スキルの向上及びスーパーバイズ等に関する研究」では、全国で先進的な自閉症支援を実践している事業所は、強度行動障害支援者養成研修で学ぶ「氷山モデル」の考え方を採用していることが報告されていました。この考え方の特徴は課題となる行動の制止だけに注目せずに、課題となる行動が起きにくいように周囲を変える「環境調整」をメインとした支援をすることです。
「標準的な支援」は、この氷山モデルの考えを基本として、2001年に世界保健機関(WHO)において採択されたICF(国際生活機能分類)の理念と、行動科学をベースとしたアプローチから、障害特性を踏まえた機能的なアセスメントを行い、強度行動障害の引き起こしている環境を調整するものと定義しています。この「障害特性を踏まえた」という点は、一般的な障害特性ではなく、自閉症のある方の個々の障害特性を指すものです。つまり「標準的な支援」は、画一的な支援ではなく、一人ひとりに合わせた支援の展開を標準にしていこうとする考え方です。また課題となる行動に替わる新たな行動を教えることも大事な視点であり、この時にも「標準的な支援」の考え方が有効です(図1)。
図1 強度行動障害を有する者への標準的な支援
(拡大図・テキスト)
現在の強度行動障害支援者養成研修においても、一人ひとりの自閉症の特性を理解することや本人らしい自立的な生活を目指すこと、予防的な支援が必要であることなど、「標準的な支援」の要素について学ぶことができるようになっています。個々の特性や支援の記録や評価に基づき、一人ひとりのライフスタイルに合わせてオーダーメイドされた支援が、都道府県等にある発達障害者支援センターや広域的支援人材と中核的人材が連携を図って、それぞれの事業所に実装されていくことを目指しています。
中核的人材養成に求められること
中核的人材には、強度行動障害の状態像にある方に対してチームで「標準的な支援」を実践することや、家族の不安等を理解して共感に基づいた信頼関係を構築すること、支援の提案ができること、後述のコンサルテーションではコンサルティ(助言や指導を受ける側)の役割を担えることが求められます。あわせて、強度行動障害の状態にある方への支援を組織において継続的に実践していく上では、法人や事業所全体が中核的人材の役割や必要性を理解し、チームの支援者を孤立や疲弊させない整備を進めることも重要です。
また報告書では、課題となる行動が非常に激しくなって家庭や事業所での生活が難しくなった場合に、広域的支援人材が集中的支援を実施することも取り上げられました。これは、広域的支援人材が概ね3か月間のコンサルテーションを行い、強度行動障害の状態像にある方の特性、現在の支援方法、生活環境のアセスメントを現場の支援者と一緒に実施するものです。さらに集中的支援の終了後も相談支援専門員等と連携して、継続的な支援ができるような提案や、その支援を実践できるチーム体制をつくることが望まれています。広域的支援人材は都道府県等に登録されており、利用している施設の支給決定自治体から申し込めるように、各行政機関等が体制整備を進めているところです。
今日においても、障害福祉サービス等の利用ができず、孤立している強度行動障害の状態にある方や、支援に糸口が見えず不安になっている支援者も少なくないと思います。今回の支援施策が広がっていくことで、自閉症のある方が自分の特性を尊重され、その人らしい生活を送り、活躍できる社会を目指していきたいです。そして、その先には「強度行動障害」という言葉を使わなくなる日がくると願っています。
※1 強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書2023
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32365.html