強度行動障害の状態にある人を支える体制づくり~中核的人材養成研修による人材養成~

「新ノーマライゼーション」2025年7月号

国立重度知的障害者施設のぞみの園 総務企画局研究・人材養成部研究課
内山聡至(うちやまさとし)

1. 強度行動障害の状態にある人を支援する人材の養成

〇強度行動障害支援者養成研修の経過

強度行動障害の状態にある人への支援の課題として、支援の難しさから虐待の対象となりやすいこと、受け入れ体制が整わずに利用できる障害福祉サービス事業所が少なく、社会参加の機会が乏しいことや家族や一部の支援者が疲弊していることなどの状況を解消する取り組みとして、強度行動障害支援者養成研修(平成25年度から基礎研修、平成26年度から実践研修)が始まりました。

これらの研修は、講義と架空事例を用いた演習による座学を中心した構成になっています(各12時間)。基礎研修は令和5年度末時点で、全国で14万人以上が修了しており、障害特性に沿ってチームで一貫して継続的に支援をする重要性は広く普及していると考えられます。

しかし、強度行動障害支援者養成研修で学ぶ支援方法を継続的に実施している支援現場は少ないという報告があります1)。要因として、「職場で統一した理解のもと支援を行うことが難しい」「支援が適切かどうか不安」などがあげられており、強度行動障害支援者養成研修で支援方法を「知る」ことはできましたが、「理解」して、チームで「できるようになる」ための取り組みが必要と考えられます。座学だけでは、支援現場での実装が難しいという調査結果(図1)1)があり、強度行動障害支援者養成研修修了後に現場で「できるようになる」ことを目指してフォローアップ研修を開催している地域もあります2)

図1 トレーニングの要素ごとの成果の割合
図1 トレーニングの要素ごとの成果の割合拡大図・テキスト

〇強度行動障害支援の定着を目指して

研修で学んだことを支援現場に定着させるためには、事業所の管理者と事業所の核となる「中核的人材」が、年単位のOJTや支援経験が豊富な人材による助言(コンサルテーション)の活用などを行うことが重要です。当法人では、令和6年度から全都道府県を対象に「中核的人材養成研修(以下、中核研修)」を行い、支援の現場実装を目指しています。

中核的人材と併せて、令和6年度障害福祉サービス等報酬改定では、法人や事業所の外部から支援に対する助言(集中的支援)等を行う人材、「広域的支援人材」が位置付けられました。広域的支援人材には、強度行動障害支援に対する専門的な知識や豊富な実践経験に加え、他事業所への助言経験(コンサルテーション)やスキルも求められます。助言方法もOJTで学んでいくことが望ましいですが、多くの支援者にとってはその機会が乏しいため、中核研修では、その機会を設けることで、広域的支援人材の養成も見据えた研修となっています。

2. 中核的人材養成研修の実施

〇研修の目的

中核研修には、1.中核的人材の養成(対象:受講者)、2.広域的支援人材の養成(対象:サブ・トレーナー)の2つの目的があります。具体的には、受講者に対しては「標準的な支援を事業所において実施し、かつ事業所のチームの中で指導・助言ができる人材の育成」、サブ・トレーナーに対しては「標準的な支援を事業所において実施し、かつ事業所のチームの中で指導・助言ができる人材であり、さらに広域的支援人材として活動するための知識技術を体験すること」としています。この目的を達成するために、中核研修では受講者の所属事業所の利用者1名に対し、受講者はトレーナーからの助言を受けながら講義を受けた内容に沿って受講者が支援現場でアセスメントと計画作成、支援の実施、見直しを行うより実践的な形式とし、サブ・トレーナーはトレーナーの基について助言方法等を学ぶようにしました。

〇実施体制

中核研修は、図2のとおり、受講者4名に対し、助言者であるトレーナー1名、助言方法等をトレーナーから学ぶサブ・トレーナー1~2名を配置しています。さらに、トレーナーのサポートを行うトレーナーSV(スーパーバイザー)、研修の全体統括を行うディレクターを配置しています。なお、令和6年度は、各都道府県あたり受講者2名、サブ・トレーナー1名の参加とし、都道府県からの推薦で募集しました。トレーナー、トレーナーSV、ディレクターは、強度行動障害の状態にある人や事業所への支援経験が豊富な人が担っています。

図2 研修の実施体制
図2 研修の実施体制拡大図・テキスト

〇研修の枠組みとプログラム

研修は全6回、1回あたり2.5時間とし、1.受講者が現場で標準的な支援の実践を行うための知識を伝達する“講義”、2.受講者が現場で取り組む内容の準備、実践結果をグループ・ディスカッションによって振り返る“演習”、3.トレーナー等によるフォローアップの“訪問”を基本に設計しました。研修の最後には受講者全員が実践報告を行い、取り組みを振り返ります。実践に必要な知識の事業所での共通理解が図れるようにすることや研修当日の演習時間を確保するため、講義はすべてeラーニングにし、いつでも視聴できるようにしました。

研修内容は、強度行動障害支援者養成研修の内容と厚生労働省が示している強度行動障害の状態にある者への「標準的な支援」をベースにして組み立てています。「標準的な支援」は、特定の手法に則ったものではなく、一人ひとりに合わせた支援の展開を標準にしていこうとする視点であり、個々の障害特性を踏まえた機能的なアセスメントを行い、強度行動障害を引き起こしている環境を調整するものと定義されています3)。一人ひとりに合わせた支援を行うために、中核研修では、生活の全体像(できること・参加していることや人・物・状況などの環境因子)とQOLを考えるためのICFの視点や自閉症の障害特性・学習スタイルからの視点、行動の意味・思い(機能)を把握するための機能的アセスメントの視点からアセスメントを行い、チームで情報共有しながら支援を考え、実践しながら修正を繰り返していきます。研修プログラムの概要は表1をご覧ください。

表1 中核的人材養成研修プログラムの概要【事前課題】▼受講者の現場事業所や研修で取り上げる対象者の状態をBPI-S(プレ)、ICFシート(プレ)でケース概要を整理する。【科目1.:研修ガイダンスとチーム支援】▼「自閉症の特性と学習スタイル」を踏まえた「氷山モデル」を整理することで支援の糸口を見つけていくことを理解する。▷演習のグループディスカッションで、現在の支援状況と、今後優先的に取組む支援の確認を行う。▼現場に戻って、対象者の観察(動画撮影)を行う。【科目2.:特性理解とアセスメント】▼「行動観察と記録のポイント」と「行動の増減のしくみと機能分析」を理解する。▷演習のグループディスカッションで、撮影した動画を基に対象者の状況説明を行う。▼現場に戻って、スキルチェックシート、ABC記録とストラテジーシート、スキャッタープロット(プレ)などを用いた評価(動画撮影)を行う。【科目3.:支援計画の検討】▼「見てわかる工夫(構造化)」「コミュニケーション方法の支援」「機能分析に基づく支援」を理解する。▷演習のグループディスカッションで、撮影した動画を基にアセスメントに基づく仮説に沿った優先課題(標的行動)を提案・検討する。▼現場に戻って、優先課題に対する氷山モデル、構造化、コミュニケーション支援、ストラテジーシート、FASTなどのシート作成を通して、ハイリスク場面の整理(動画撮影)を行う。【科目4.支援計画の立来と実施】▼「支援計画」と実施のための「手順書の作成」について理解する。▷演習のグループディスカッションで、撮影した動画を基に実施計画を検討して作成する。▼現場に戻って、支援を実施する。【科目5.支援計画の見直し】▼「支援実施後の評価と改善の方法」を理解する。▷演習のグループディスカッションで、仮説に基づいた支援の途中経過を報告する。▼現場に戻って、スキャッタープロット(ポスト)、BPI-S(ポスト)、ICFシート(ポスト)で、支援の振り返り(動画撮影)を行う。【科目6.:実践報告会】▷全体演習で、受講者が行ったアセスメント、支援計画の作成、支援の実施についての実報報告を行う。【フォローアップ】▼トレーナー、サブ・トレーナーによる受講者の事業所訪問(またはオンライン)により、受講者の事業所における標準的な支援の実装状況に対する助言を受ける。

研修各回の間は1か月設けていますが、この間に事業所内チームで研修課題を検討し、実践を行うことはハードであったとの声が受講者から上がっています。受講者が研修内で取り組む実践が研修の核となり、その実践をチームで円滑に行えるようトレーナー等が随時サポートしていくことも研修の特徴です。トレーナーには必ず1回は受講者の事業所を訪問して利用者や環境などを観察し、より現場に沿ったサポートができるようにしています。訪問に加えて、実践を進める中で、「チームで協力して行うためにどのような工夫があるか」「支援のアイデアがほしい」など悩んだ際に迅速に対応するため、Zoomやグループチャットを活用して相談体制を整えました。グループチャットよりは、実際に資料を見ながら相談ができるZoomでのフォローアップのほうが実施回数としては多く、研修の回数を重ねていくと受講者とトレーナーの距離も縮まり、相談内容が深くなっていく様子もうかがえました。

〇研修の効果と課題

令和6年度中核研修終了後に、受講者、サブ・トレーナーを対象にアンケートを行ったところ、「効果があった」「やや効果があった」の回答が9割を超えました。受講者からの意見として、「フォローアップにより研修内容の理解が深まり、実践が進みやすくなった」「アセスメントや支援記録をもとにチームで支援を検討する機会が増え、支援力向上につながった」、サブ・トレーナーからは「受講者に必要な視点に気づかせるための質問、助言などを行う際のコーチングスキルを学ぶことができた」といった回答がありました。他にも、他傷や自傷、常同行動の頻度や強さを把握する質問紙であるBPI-S(問題行動評価尺度短縮版)を研修受講前後で回答してもらい、モデル利用者の行動の変化を比較したところ、すべての項目で改善を示す結果が得られました。受講者やチームの支援力向上、モデル利用者の課題となっている行動の減少だけでなく、生活の中の快適な環境の拡大などQOLの向上もみられ、効果がある研修であると考えています。

一方、課題として「アセスメントや支援計画作成のための作業量が多いとする一方で、現場訪問の数が足りない」「研修での成果があっても、それを維持・継続していくための仕組みが個々の事業所では確保できないので、フォローアップが必要」などの意見がありました。研修を継続して実施し、受講者、トレーナーなど研修に関わってくださる皆様から意見をいただきながら、改善していく必要があると考えています。

3. 今後の中核的人材養成研修の展開

〇都道府県での開催を見据えて

中核研修は、令和9年度を目途に都道府県主体で開催が予定されているため、都道府県での研修が行いやすいよう研修内容の調整や運営マニュアルの作成、トレーナーや運営ができる人材の確保・養成が必要だと考えています。現状、トレーナーは強度行動障害への支援経験や事業所への助言経験(コンサルテーション)が豊富な方にお願いをしていますが、将来的には受講者がサブ・トレーナーになり、サブ・トレーナーがトレーナーになっていくという養成ルートを想定しています。中核研修は、トレーナーがいなければ成り立ちません。多くの人に中核研修を受講してもらい、受講者を増やしながら将来的なトレーナーを確保していくことが必要です。令和7年度は、都道府県に加え政令市を受講対象に加え、令和6年度に比べ1.5倍の規模感で研修を実施します(1自治体あたりの受講枠は変更ありません)。受講希望の方は、まずは各都道府県へお問い合わせください。

〇強度行動障害の状態にある人に対する地域支援体制の向上を目指して

強度行動障害支援者養成研修の開始によって、強度行動障害の状態にある人への支援体制整備が地域によって取り組みの差こそあれ進んできました。

令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定で新設された「集中的支援」や「中核的人材」「広域的支援人材」によって、さらに支援体制整備が進んでいくことが期待されます。中核研修は、標準的な支援をチームで実施できる人材の養成だけではなく、新たな人材の発掘や、地域の支援者、行政等がつながって体制整備がさらに進んでいく機会になると考えています。今後、中核研修を継続的に実施していくことが重要であり、各地域で実施、継続していくためのサポートを当法人では行っていきたいと考えています。


【文献】

1)全日本自閉症支援者協会(2020):令和元年度障害者総合福祉推進事業「強度行動障害児者に携わる者に対する体系的な支援スキルの向上及びスーパーバイズ等に関する研究」報告書.

2)国立のぞみの園(2023):令和4年度厚生労働科学研究「強度行動障害者支援のための指導的人材養成プログラムの開発および地域支援体制の構築のための研究」分担報告書「強度行動障害者支援のための人材養成に関する実態調査」.

3)こども家庭庁・厚生労働省(2024):強度行動障 害を有する児者への地域の支援体制整備の促進について.