当事者主体の災害準備-東松山市における要支援者避難の取組

「新ノーマライゼーション」2025年7月号

東松山市健康福祉部社会福祉課
福島朋和(ふくしまともかず)

1.東松山市の概況

東松山市は、埼玉県のほぼ中央に位置し、人口約90,000人の中規模自治体です。現在、筆者は東松山市健康福祉部社会福祉課地域福祉グループに所属しており、後述する避難行動要支援者避難支援制度や福祉避難所のほか、生活困窮者自立支援制度、民生委員・児童委員などを担当しています。

2.令和元年東日本台風の対応と顕在化した課題

令和元年10月12日に関東地方を通過した令和元年東日本台風により、東松山市では市内各地で河川が氾濫し、多くの被害が発生しました(注1)。筆者は担当職員として避難所運営に従事していましたが、延べ68人という、これまで経験のなかった規模の避難者の受け入れを行いました。一方、水害においては市内すべての避難所が同時に開設されるわけではなく、自宅待機する職員もいます。情報が行き渡るにつれ、待機していた職員も自発的に応援に加わり、心強く感じたことを覚えています。

また、参集から19日を経過した避難所の閉鎖後は、当時所属していた保険年金課において、国民健康保険の一部負担金の減免や国民健康保険税の減免の事務に携わりました。このような減免事務は、国民健康保険に限ったものではなく、各種の税金や保険料等にも同様の制度があります。その窓口ごとに申請を受付し、審査を行い、決定をするのが従来の流れでしたが、職員の提案により、窓口と申請書の一元化、添付書類の共有を行うことになり、被災者と職員双方の負担軽減につながったことが印象に残っています。

一方で、令和元年東日本台風の対応において、見つかった課題も少なくありません。以下、課題の説明と合わせて、東松山市がどのような対策を講じてきたか報告します。

3.避難行動要支援者避難支援制度の課題と対応

災害時に自ら避難することが困難な人に対する避難行動要支援者避難支援制度の運用については、対象要件の整理や活用方法の検討を十分に行っていなかったために、令和元年東日本台風をきっかけに「要支援者名簿に記載された人数が多く、また本当に必要な人が載っていないのではないか」「要支援者名簿を使って、そもそも我々は何をするべきなのか」といった疑義が、主に自治会や民生委員などの地域関係者等から多く寄せられました。

対象要件については、これまで「手上げ方式」を採用していた結果、個々の支援の必要度という観点が抜け落ち、また、登録する人数が過度に増える傾向が見られました。そこで、令和3年度から、市が把握する障害者手帳の等級や要介護認定の区分等で対象者を絞り込んだうえで、市からその対象者に直接通知を送付し、名簿登録の要否を尋ねる「同意方式」に変更することで、必要な方が登録される仕組に変更しました。ただし、地域関係者等が必要であると判断した場合には、引き続き「手上げ方式」による登録も可能とし、市が把握することができていない要支援者も名簿に登録できる仕組としました。

活用方法については、一律で市から提示や依頼をするのではなく、地域の実情に応じて工夫しながら取り組めるよう、令和2年度から毎年度、地域関係者等に対する要支援者名簿の配付を対面で行い、質疑応答の時間を設けるなど、話し合いの場を多く持つようにしました。このことにより、市が行う出前講座や避難訓練について事例を積み重ねることができたほか、横展開を図ることで「自分たちの地区でもやりたい」という申出をいただくなど、好循環が生まれています。

また、活用方法の検討において専門家や先進自治体のアドバイスを取り入れることは、関係者全員が目的やイメージなどを共有する上でとても重要です。東松山市では、令和5年度に内閣府が実施するピアサポートに申し込み、避難支援の具体的な内容を記載する「個別避難計画」の作成について、地域関係者等や市職員を対象とした講義やワークショップを企画しました(注2)。取組を通じて、従前は郵送による本人記入の個別避難計画の作成のみを行っていましたが、新たに地域関係者等の聞き取りによる個別避難計画の作成を行うための道筋をつけることができました。

4.福祉避難所の課題と対応

災害時に要配慮者を受け入れるための福祉避難所の運用については、一般避難所からスクリーニングを経て要配慮者を移送する「二次避難」としての位置づけのみだったことと、協定の締結のみに留まり、開設から閉鎖までのフローが未検討で、市職員も含めて関係者の間でもそのフローが共有されていなかったことが大きな課題でした。そこで、市では「福祉避難所への直接避難を推進する」「運用フローを整理する」という目的を掲げ、取組を進めることとしました。

直接避難の推進については、締結した協定書の変更も必要になることから、協定施設の理解と協力が不可欠です。避難行動要支援者避難支援制度と同様に、専門家の意見を聞きながら進めるため、埼玉県が行う災害時要配慮者避難体制サポート事業を活用し、令和4年度に開催した会議の中で、市としてどう取組を進めるべきかを議論しました(注3)。会議の結論として、直接避難か二次避難かの二択ではなく、施設の状況に応じて選択できるようにすることとし、変更協定書の締結を行いました。

運用フローについては、市の災害対策本部の動きを時系列で示し、要配慮者、協定施設及び市職員が、どの場面でどの動きを採るのかを図で整理した上で「福祉避難所開設マニュアル」としてまとめました。また、前述の県によるサポート事業を令和5年度も引き続き活用し、当事者や協定施設、地域関係者等が参加する避難訓練を実施することで、開設と運営の流れを確認しました。なお、避難訓練は1年に1施設以上を目標に、令和6年度以降も継続して実施しています。

また、想定したフローに基づいて行動するためには、担当職員が協定施設のことを事前に把握していることが重要であると考えています。そこで、担当職員全員による協定施設の見学を年に一度設けるとともに、輪番で防災倉庫の点検を月に一度行うことで、現場を見る機会、協定施設の職員と顔を合わせて話をする機会を確保するようにしました。

5.今後の方向性

これらの取組を総合すると、地域福祉を所管する立場から「行政だけでは避難行動要支援者避難支援制度や福祉避難所を維持運用できない」という前提のもと、国や県、有識者などのサポートも受けながら、地域や協定施設などの多くの関係者と、話し合いや意見交換をしながら進めることができた、というふうにまとめることができます。

その反面、地域福祉担当がこれらの制度を所管していることの弱みとして、支援が必要な当事者の特性に対する知見や個別性に対する認識が不足していたことが挙げられます。これは避難訓練等の過程でも徐々に明らかになった点ですが、「当事者に寄り添った対応」を次の課題として捉え、関係課と連携を図りながら、引き続き取組を進めていきたいと考えています。


注1 令和元年東日本台風水害対応に関する検証報告書(東松山市)
https://www.city.higashimatsuyama.lg.jp/soshiki/27/2145.html

注2 令和5年度個別避難計画作成モデル事業報告書(内閣府)
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/r5modelhokoku.html

注3 本事業を踏まえた支援マニュアルが公開されている。
災害時の要配慮者のための支援マニュアル(埼玉県)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0604/kenko/shogaisha/shien/saigai/index.html