ひと~マイライフ-小さな一歩が未来を照らす

「新ノーマライゼーション」2025年7月号

畑中悠翼(はたなかゆうすけ)
文:畑中優子(はたなかゆうこ)(母)

青森県在住。養護学校高等部1年。重症心身障がい児。言葉はありませんが、表情やしぐさ、視線でたくさんの思いを伝えています。工夫を重ねながら「できる」を増やし、日々を楽しく、輝いて過ごすことを目指しています。

「まさか、うちの子がステージに立つ日が来るなんて」

「まさか、野球選手になり全国優勝するなんて」

少し前の私には、そんなこと想像もできませんでした。

息子には、知的と身体に重度の障がいがあります。発語はなく、ひとりで座ったり歩いたりすることもできません。周囲から「何もできない」と思われることも少なくありませんでした。でも、「きっとできることがある」と、息子の可能性を信じ続けてきました。

そんな息子が小学4年の時に出会ったのが、伊藤史人さん(岩手県立大学)が開発した視線入力アプリ「EyeMoT(アイモット)」です。パソコンの画面を見るだけで、簡単にゲームができます。初めてひとりでゲームをした姿を見た時は、本当にびっくりしました。「お母さんどっち?」という問いかけに、ちゃんと私の写真で視線が止まった時は、「おかあさん」って呼んでくれたような気がして、胸がいっぱいになりました。

視線入力を使うことで、息子は少しずつ自分の意思を伝えられるようになりました。絵カードを選んで気持ちを表したり、ゲームの楽しさを味わったりと、できることが少しずつ増えていきました。

やがて、全国の病児・障がい児がオンラインで参加する「ウルトラ・ユニバーサル野球大会」にも出場しました。視線入力でバッティングをし、チームの全国優勝に貢献しました。県知事や市長への表敬訪問という貴重な機会までいただき、本当に夢のような時間でした。

さらに、息子にはもう一つの大きな出会いがありました。心魂(こころだま)プロジェクトです。病気や障がいのある子どもたちやきょうだいに向けて、プロのパフォーマーが劇場空間を届ける団体です。この出会いによって、息子もキッズ団に所属し、パフォーマーとして表現するようになりました。オンライン公演では、「ありがとう」「感動しました」と画面の向こうから声が届きました。その経験は、「自分にもできることがあるんだ」「自分も誰かの心を動かせるんだ」という自信につながりました。そしてその自信が、たくさんの観客の前でパフォーマンスをする対面公演へとつながっていきました。

重い障がいのある息子がステージで表現する姿は、私たち家族にとって大きな喜びです。さらにその姿から「自分にもできることがあるかもしれない」と周りの人々にも「希望」や「可能性」を届けることができるなら、それがきっと息子がパフォーマンスをする意味、生きる意味につながっていくのだと思います。

すべては、「まずはやってみよう」と思った小さな一歩から始まりました。視線で「伝える力」を手に入れ、心魂プロジェクトで「届ける喜び」を知った息子。

「できる」ことは、本人だけでなく、周囲の見方まで変えました。「できない」と思っていたのは、もしかしたら私たち周りの想像力だったのかもしれません。

息子の可能性を信じて、小さな一歩を踏み出したことで、未来は大きく変わりました。夢や希望は、本人の中にちゃんと息づいていました。それを見つける手助けが、周囲にできることだと気付かされました。

息子の頑張る姿が、誰かの心に小さな灯をともせたら-そんな願いを込めて、これからも息子と一緒に「できる」を探し続けていきます。たくさんの挑戦と出会いを重ねながら、これからも人生をカラフルに彩ってほしいと思います。その色が、誰かの人生にもやさしく届くことを願っています。