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【調査報告】コメント:アンケートの結果からみえてくること

発達障がい者に対する障害者自立支援法に基づくサービスのニーズ把握に関する調査
平成20年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業

コメント:アンケートの結果からみえてくること

尚絅学院大学 教授 八巻正治

※時間をかけて、膨大なアンケート結果を数回、読ませていただいた。以下は、その中から、特に私が関心を持った項目、および回答をピックアップし、それに関して簡単なコメントを附記してみたものである。

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介護給付で実施している事業

◇やはり生活介護の割合が多いが、私個人としては、今後、重度障害者等に対する包括支援に対する事業参加が増えることを期待する。

訓練等給付で実施している事業

◇予想されたごとく、就労移行支援、および就労継続支援(B型)の割合が多いことが判明した。

地域生活支援事業で実施している事業

◇当事者からの必要度が高いと判断される移動支援サービスや、日中一時支援事業を展開しているケースが多いことは評価できると思われる。

地域活動支援センターのタイプ

◇相談支援活動を含む「Ⅰ型」が多いことは良い傾向である。

その他を選択した場合の中身

◇これらの中で私が注視したのは、「ピアサポート支援事業 地域移行支援事業 社会復帰支援事業」「法人独自に行なっている事業として専門職派遣事業ということで、地域の保健センターと連携し、保育士やPT、STの派遣をし療育相談等へ協力をしている。また、発達障がい児への支援として、学習塾という形で学習の面やソーシャルスキルトレーニングを行なっていける形での学習塾を11月より開始している。」「障害児の放課後や長期休み、緊急時に一時的に預かる事業」である。

◇その中でも「ピアサポート支援事業」「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」「一時的に預かる事業」といった支援活動は、利用当事者を主体とした、ニーズに即した支援事業として注視に値するものと思われる。

その他の私的サービス等でその他を選択した方は,どういうサービスですか?
◇回答の中で、「障害福祉サービスや地域生活支援事業の日中一時支援事業のサービス提供時間以外でのお預かりをしています。またご本人の兄弟姉妹も一緒にお預かりしています。」「パーソナルサービス(時間制)~家事・掃除・配食等の制度外サービス」、さらには「障がい者レスパイト事業・・・日中一時見守り、送迎や宿泊など」 といったレスパイトサービスに注目した。その中でも、「ご本人の兄弟姉妹も一緒にお預かりしています。」といった活動は、当事者家族へのパーソナルな支援サービスとして、きわめてニーズが高いサービスであろうと思われる。

役員・理事の平均報酬

◇容易に予想されたごとく、無償、もしくは100万円未満が圧倒的多数であることが確認できた。また「従業員(常勤)の平均報酬」についても350万円未満が全体の66%であり(年齢や経験年数にもよるが)、やはり低賃金であることが容易に読み取れる。さらには「従業員(非常勤)の平均報酬」も、予想されたように100万円未満が圧倒的に多い。支援スタッフの「低賃金・加重負担」を再確認したような項目であった。

事業所設置場所

◇回答をみると、「中心市街地住宅地区」と「郊外住宅地区」の数が多い。つまりは「住宅地域」である。これは地域に密着した支援活動を展開するうえで、とても良い傾向と思われる。

相談支援事業所の機能程度で積極的を選択した方にお聞きします。そう思う理由として該当するものを全て選択して下さい。

◇当然ながら、「相談支援事業所との連携がしっかり取れている」との回答がもっとも多かった。

相談支援事業所の機能程度でよくわからないを選択した方にお聞きします。その理由を具体的にお書き下さい。

◇個々の回答をみると、その理由として情報提供不足が挙げられている。当然であるが、必要十分なる情報開示と提供とが必要であろう。

相談支援事業所の機能程度で機能しているとは思えないを選択した方にお聞きします。その理由。

◇これはアンケート全体を通して顕著であったが、発達障がい者に関する専門的知識が不足している、といった回答がいくつかあった。支援スタッフへのトレーニングの必要性を感じる。

相談支援の受け皿として機能していると思われるもの全てを選択して下さい。

◇やはり「相談支援事業所」「市町村の福祉課」の割合が多いことが判明した。

相談支援事業所が充分に機能するために必要と思われること。

◇当然ながら、「継続的な支援体制」「相談員の質の向上」「財政支援」「身近な相談体制」との回答数が多い。

相談支援事業所が充分に機能するために必要と思われることで,その他を選択した方にお聞きします。それはどのようなことですか? 具体的にお書き下さい。

◇人的問題や情報不足を挙げた回答があったが、的確なる情報提供の必要性が、そこから読み取れる。

あなたの地域で、発達障がい者が利用しているサービスで該当するもの全てを選択して下さい。

◇情報提供といった面からは、「コミュニケーション支援」が少ない点が気になった。

発達障がい者が利用しているサービスでその他を選択した方にお聞きします。それはどのようなサービスですか?

◇回答で特徴的なのは、「発達障がいの現状が良くわからない。」「発達障がい者がどの事業所に通っているのか全くわからない。」といった点である。こうした傾向はアンケート結果の全体を通して言えることでもある。

発達障がい者のニーズがあるのに提供していないサービスでその他を選択した方にお聞きします。それはどのようなサービスですか? 具体的にお書きください。

◇「発達しょうがいの明確な範囲が示されておらず、お答えできません。」「発達障がい者の方のニーズがどのようなものか、実態がよくわからない。」といった回答が見られたが、やはりこうした回答も、本アンケート全体を通して顕著であった。

発達障がい者のニーズが顕在化してこない原因でその他を選択された方にお聞きします。どのような原因だと思いますか? 具体的にお書き下さい。

◇私としては、以下に列記した回答に注視した。その理由は、「果たして発達障がい者は、障害者福祉の分野・範疇に含まれるのか否か?」といった根源的な疑問や懸念が顕在化していることがそこに読み取れるからである。

◎特に知的障害を伴わない発達障害(高機能自閉症、ADHD,LDなど)の障害を持つ保護者にこういう福祉サービスがあるという情報が周知されていない、また知的障害をもたない発達障害の方に対して、福祉サービスの対象になるのかどうか、法的な位置づけが不明瞭
◎発達障害の方は、知的障害者福祉の利用に違和感を感じている方が多い。自分が受けるべきサービスは違うと思われているようだ。
◎現状の障害福祉サービスにおいて、発達障がいを想定した制度・報酬体系の組み立てになっていないため、サービス開発ができていないのではないでしょうか。

発達障がい者に対して、都道府県又は市町村が独自に行っているサービスや支援策があればお書きください。

◇回答の中で、私としては、以下に列記した回答に注視した。例えばSSTについて言えば、近年、SSTは精神保健福祉分野における支援技法から次第に拡大し、その応用化が図られ、発達障がい者支援分野でも有効になりつつあることの証左だからである。また、高等教育を受ける機会の保障も重要な視点である。さらには就労支援を円滑に展開するためには、ジョブコーチやジョブサポーターが果たす役割が大きいため、こうした事業展開は注視に値すると言ってよいであろう。

◎発達障がい児を対象とした市独自のSSTプログラム
◎IQが高く、知的障害者手帳の交付が困難な方に、精神障害者手帳を交付することで、サービス利用を可能にしている。
◎高等技術専門学校によるOA科の設置(平成20年度の7月から)
◎ジョブサポーター派遣事業

暮らしの印象で暮らしにくい理由をその他と選択した方にお聞きします。暮らしにくいと思われる理由を具体的にお書き下さい

◇私自身は以下の回答に注視した。その理由は、そこにケアマネジメントを主軸としたソーシャルワークの必要性が指摘されているからである。すなわち、的確なるケアマネジメントが効果的な支援サービス提供にとって重要と判断されるからである。

◎その困難さの理由である障害について、きちんと診断し本人および家族へ説明のできる医師が少ない。理解をもって個別対応を受け入れられる事業所が少ない。
◎生活をマネジメントできる人材がいないから。また、その発端となる診断を出来る医師が少ないから。
◎発達障害を理解する支援・療育機関及び専門員が少ない、ライフステージが変わるごとに支援が繋がらず一貫性に欠ける
◎発達障害に対する理解が進んでおらず、本人や家族に自覚がない場合が多い。精神障害と混同され、家族からも病気扱いされて施設入所や入院を勧められるような状況。

発達障がい者の日常生活の阻害要因にはどのようなものがあるとお考えですか? 該当するものを全て選択して下さい。

◇予想されたごとくに、やはり「就労の場の不足」および「理解者の不足」といった、ハード&ソフト面での不備についての回答が多い。

日常生活の阻害要因でその他を選択した方にお聞きします。どのようなことが考えられますか? 具体的にお書き下さい。

◇回答の中で、以下の表現に注視した。と言うよりも正直、驚いた。それは、もしもこれがSST(社会生活技能)や、SFA(社会生活力)的な視点からの意見であれば問題ないが、社会福祉法(2000年)制定以前に強固に流布されていた社会適応能力的な視点(つまりはADL向上)といった旧態依然とした指導観から生起したものであれば、やや乱暴な意見と思われるからである。ただし、ここで使っているリハビリテーションの意味を、真の意味での「自立」の概念、すなわち「必要なる経済的・人的支援を受けつつも、その人らしく生きるために必要とされるスキル獲得」と理解しているならば問題はない。

◎主体たる本人へのリハビリテーションが最も重要。社会環境の整備とともに、社会に適応できるようにリハビリテーションしていく機会の場を構築していく必要があるのでは? すべてを社会の責任にするのはお門違い。

日常生活の阻害要因で学習機会の希薄さを選択した方にお聞きします。問題解決のために必要と思われることで該当するもの全てを選択して下さい。

◇「発達障がいを熟知した人材の育成」が最も多かったが、私自身もこの考えに同意する。と同時に、安易に他の人に委ねるのではなく、支援スタッフ自身のスキルアップも必要であろう。

日常生活の阻害要因で教育機関の理解不足を選択した方にお聞きします。問題解決のために必要と思われることで該当するもの全てを選択して下さい。

◇「定期的研修機会による理解と専門知識の養成」が圧倒的に多かったが、当然のことであろう。また、スーパービジョンやピア・スーパービジョンが定期的・継続的になされる必要もある。

就労先の不足の理由としてその他を選択した方にお聞きします。解決策がありましたら具体的にお書き下さい。

◇厳しい状況下で苦労を重ねている回答者の心情そのものは理解できる。しかし、「◎」の回答のように、臨床現場における支援実践者が、こうした「開き直り」的な表現を用いることに対して、私個人としては賛同できかねる。なぜなら厳しい状況下で創意工夫を凝らしつつ、歩みを重ねてゆくのが支援実践者としての生命線(矜恃)であると考えているからである。嘆いてばかりでは何らの解決策も見いだせないからである。社会福祉発達史を紐解(ひもと)くまでもなく、福祉支援実践の歩みを振り返るならば、いわば「先人たちの屍(しかばね)を乗り越えつつ」といったケースが実に多いことに気づくであろう。ゆえに決してあきらめてはならないのである。

◎「企業や個人商店など「実習だけでもお願い致します」と相談しても、今の景気では人は雇えない・障がい者の接し方が解らない・仕事がない、などの理由で断られる事が多いのが現状です。解決策については、こちらがお聞きしたいくらいです。」

日常生活の阻害要因で余暇活動の場の不足を選択した方にお聞きします。問題解決のために必要と思われることで該当するもの全てを選択して下さい。

◇回答で、「サークル活動団体等との連携と理解者醸成」の数が多いが、これについては、「ファシリテーター」「コーディネーター」「ケアマネージャー」としてのソーシャルワーカー(SW)が果たすべき役割が大きいであろう。逆に言えば、質の高いSWが不足しているということでもあろう。

相談できる場所の不足の理由としてその他を選択した方にお聞きします解決策がありましたら具体的にお書き下さい。

◇以下のような回答が見られたが、これはかなり辛辣な意見である。しかし的確なる指摘でもある。

◎「相談支援事業所自体が発達障害を理解していないので、発達障害者の人が相談できない。」

「引きこもり」といわれる方たちの実態を把握していますか?

◇「把握したいが難しい」「把握していない」がもっとも多い。

「うつ」や「精神疾患」といわれる方たちの実態を把握していますか?

◇同じく、「把握したいが難しい」「把握していない」がもっとも多い。これらは「二次的障害」と言えるものである。ゆえにこそ当事者本人に関する実態把握と、適切なる支援アプローチが急務である。とりわけ「発達障がい」ゆえの引きこもりであるならば、すみやかなる実態把握、および、それに対する支援アプローチが必要であろう。

発達障がいの範囲についてどう思われますか?

◇以下の回答の割合が高かったが、いずれも重要な問題提起と思われる。

◎発達障害や高次脳機能障害などの定義づけを見直す必要がある
◎「医療モデル」から「社会モデル」への転換を図るべきだ
◎手帳未交付者がサービスの対象外なのは問題だ

発達障がいと診断されている方のうち、知的障がいを伴わない方たちの困っていることは何ですか?

◇数多くの回答の中でも、以下にピックアップした回答は、いずれも重要と思われる。支援現場では、往々にして、こうした「はざま状態」の当事者本人が支援の関心から、こぼれ落ちてしまう、といった現象がみられる。それゆえ、支援は個別性が高い、といった意識を持つことが肝要であろう。なお、支援サービスを展開するにあたっては、「ストレングス・モデル」に基づいた支援、すなわち、当事者本人の「強さ」や「プラス側面」に着目した支援が必要であろう。

◎知的障がいを伴わないと外見が普通に見えるが故に、健常者とおなじ扱いを受けてしまうこと。
◎生活していくうえでの生きにくさを周囲の人たちに理解してもらえない。
◎周囲の理解が得られず、生活の中で生きづらさを痛切に感じる所ではないでしょうか?
◎手帳等の法制度の未整備
◎周囲の理解を得にくい。(家族・学校含めて)自分自身の生きにくさがどこから来るのか分かりにいくい。「困難さ」や「世界観」「感覚」を共有できる人や場所が少ない。失敗を振り返ったり、分析して次につなげる事が苦手で、「辛い経験」「マイナス」のイメージでしか残りにくい。ペース配分が苦手。
◎本人の障害受容。高学歴者が多いのでプライドが高い。障害と自分のイメージが合致しない
◎生活上のつまづきやその原因に本人や周囲が気づかない
◎障がい者手帳がないため、社会資源が活用できない。地域の無理解。
◎社会状況、特に就学時から社会生活に移行する際に不適応を起こす方が多く、それらに対する家族の問題性の認識不足や適応できる福祉サービスの少なさが感じられる。
◎知的障がい者と発達障害者の区別が難しい
◎現在、大学4年に在学されている方の相談を個人的に受けている。その中で知的能力の高い方は「精神保健福祉手帳」、そうでない方は「療育手帳」というのが一般的な迂回路となっているが、その方自身も「精神保健福祉手帳」を取得し、「障害者雇用枠で」就職活動を続けているが、「自分は精神障がい者ではないのに」ということが腑に落ちないまま就職活動を行なっている、とのことである。
◎手帳が交付されず、サービスが受けられない。周囲から障害を理解されずに、支援のない状況にさらされて、不適応を起こし易い印象。
◎本人の希望する生活と、社会の受け入れ態勢のギャップが大きい。
◎知的に問題がないとちょっと変わった人(子)と言う判断で終わってしまい、必要な療育に結びつきにくい
◎人との関わりがうまく出来ない。そのため傷つきこもりがちの生活となってしまう。サービスの利用もなかなかつながらず、経済的な不安、将来への不安を抱いている。
◎(1)乳幼児段階の集団生活・教師保育士の対応の難しさ、(2)小学校中学年頃からのいじめや孤立感、(3)思春期以降の診断の自己理解、(4)学力と進学・進路、(5)引きこもりや精神科的な不適応行動と入院治療、(6)退院後の生活支援体制の整備、(7)卒業後の就労、(8)就労後の不適応・再就労、(9)キャリアのある社員のメンタルヘルス、(10)家庭のある人の子育て・教育機関・学校との付き合い方等
◎現行の福祉サービスを利用できない。周りから理解されない。自分自身も理解しにくい。手帳がとれない。二次的障害を発症しやすい。
◎支援する上で、難しいのはまず支援者としてスキル不足で、発達障がいについて勉強不足で、どう支援したらいいのかがわからないことがある。
◎障がいのことを理解して無い為、知的に障がいがあるように勘違いされ、外出がおっくうになったり、仕事も出来ない。
◎精神病として一括りにされているように思う。
◎他の精神疾患と誤診されることも少なくない事で二次的な障害を伴っている現状がある。
◎「発達障害」という障害が理解されていない。表面上は(外見や短時間の接触)では、「何か(どこか)ふつうと違うようだ」という見方をされることがあり、「変わった人」と思われてしまうことが多い。(「こんな配慮があれば仕事や社会生活が継続する」というような)対応のポイントのようなものを理解してもらいにくい。
◎自分自身が障害を受け入れられない事
◎知的障がいを伴わない方は、自身の障害を受容できない。精神科に受診されているケースがあり、連携の必要性を感じる。
◎二次障がい的に精神疾患を伴っているが、それに自覚できずに、より社会不適応感を増幅させているのはないでしょうか?
◎手帳の種類によって精神障害でないのに精神障害手帳を交付されるために就労等で誤解が生じる。手帳なしの人達に対するサービスが受けられるのか受けられないのかの線引きはケースワーカーの判断にゆだねるしかない部分や就職する際に障害者枠で就労できない部分など周りの理解不足。判断の難しさ。
◎資源の少なさ(手帳、年金、専門性の高い施設、専門性の高い支援者)、支援者の中でも、精神障碍者と同じ様に対応してしまう人もいる。
◎・保護者の理解が薄い。・診断できる医師不足。・教員の理解不足・地域住民の理解不足などなど目に見えない障害なので日常生活において困っていることは多いと思う。

発達障がいと診断されている方のうち、知的障がいを伴わない方たちを支援していく上で困っていることは何ですか?

◇本アンケートの回答でも散見されるが、(精神保健福祉士でもある)私としては、この改善のためには、先に紹介した「SST」が有効であろうと考えている。周知のように、SSTは認知障害や統合失調症を抱える当事者本人に対するグループワーク・スキルとして広く用いられている。最近では刑務所の受刑者たちや、学校教育現場でも導入されてきている。当事者(本人、および関係者たち)に対しては、個別支援としてのカウンセリングやケースワークよりも、小集団支援としてのグループワークの方が効果的と考えられる。但し、臨床現場に精神保健福祉士の有資格者がいない場合や、いた場合にも、そのスタッフが定期的にSSTの研修会に参加してスキルアップをしていなければ効果は期待できないであろう。

◎重い知的障害を中心とした人たちの通う就労継続事業所では、一緒に支援していくことに限界があり(重度の人たちへのセクハラなど問題行動)、受け入れたものの他施設へ紹介せざるを得なかった。
◎知的障害者へと同じ手法の支援を拒否する人が多い。
◎自己認知と社会性、他人想像し思うコミュニケーションが取れない 被害的意識が強い
◎知能が高く、高学歴であることが多く、プライドが高く、支援を受け入れないこと。また、職員は本人の障害も特性も分かっているので、それに合わせた支援ができるが、他の利用者はそれを知らないため、本人の特有の行動を理解できない。
◎本人の自己理解、自己認識を深める事。「障害」のカテゴリーに入れられる事への抵抗があるため、支援に乗りにくい。相談して一緒に考えて行くことが難しい場合がある。情報の伝え方や、共有の仕方に工夫が必要。支援の媒体が少ない。
◎本人が説明を理解はできても、受け入れることに葛藤がある。
◎本人や家族が障害を受容するのに時間がかかる。手帳取得に抵抗を示す。スタッフの不足。
◎就労援護のシステムにのれない(障害者手帳が取れない)、本人の障害受容、支援者の理解など
◎支援スキルの未熟・支援人材の不足
◎長期間自分の存在を阻害視されている感じを受けていることが多い為、自己の存在を認めてもらおうと依存的傾向が強くなってしまう傾向にあるので巻き込まれることが支援者側に起きる事がある。
◎ご本人・ご家族とも、障害の理解と受容の程度に差が大きい。告知を受けず別の診断名が伝わっていることも多い(うつ、神経症、統合失調症、等)
◎注意欠陥多動性障害があるが周囲の無理解により腹立つ方々がいる。
◎自分の世界の中にはいってしまい、その世界の同意者でないと排除される。
◎本当に困っている。難しい課題で、個別性が高く通り一編の支援では地域生活支援が、うまくいかない

「親亡き後」の発達障がい者の生活をどのようにお考えですか? また、そのために準備していることがあればお書きください。

◇今から35年ほど前、私は東京都の肢体不自由児養護学校の教員として働いていた。その当時から、いわゆる「親亡き後」は大きな課題であった。そのとき私は、「自らの生涯をかけて、保護者たちの心的負担感を減らし、この子どもたちが安心してその生涯を過ごすことのできる社会を構築するために歩もう!」そう心を定め、遅々たるながらも歩みを重ねてきた。しかし、この35年間で、どれほどの進展があったのかを考えるとき、忸怩(じくじ)たる思いでいっぱいである。逆に言えば、それほどまでに問題性の深い課題でもある、ということである。

◇わが国の政府は、いわゆる「長男の嫁」に該当家族の介護業務を背負わせるのと同時に、知的・身体・精神面で著しい制約状態を有する当事者たちへの支援問題に対しても、当事者家族にその負担を背負わせる施策をとってきた。しかし、例えばニュージーランドの場合は、21歳を境として親とは同居せずに生まれ育った家から離れる、といった国民文化・慣習が根付いている国である。そのため、高齢者福祉・介護においても公的制度や、その取り組みが整備されてきた。それは知的・身体・精神面に制約を有する当事者たちについても同様である。すなわち、わが国の場合は「当事者家族の問題は、当事者家族で対応すべし」といった「冷徹なる文化」が強固であったと言ってよい。それゆえ、常に不安定なる制度・施策に基づく支援システムに対する不安感が付きまとってきたのである。したがって、今後は、子どもへの養育支援や、当事者への介護支援問題は国家的責務である、といった意識を醸成すべき必要があると考えている。

◎成年後見制度の活用と後見人の育成(報酬単価が低すぎる)。
◎現在の課題でもあるが、介護保険と自立支援法の狭間にいる高齢障害者でも入居できるGHやCHが必要であると考えている。
◎その方の支援者が、親のみであった場合、「親の死」が「その方の死」に直結すると思う。その前に、支援者・理解者の確保をすべきだと思う。
◎「自分らしく自己責任で」生活することができるよう、作業や就労支援だけではなく、自己管理においてもサポートを進めている。
◎ケアホームの準備を進めています。ケアホームの早期実現に取り組んでいます。グループホーム等の整備を早急に進めるべき。
◎一人暮らしできる人もいるとは思うが、発達障がいを理解した生活支援センターは必要であると思う。またケアホームなどの整備も必要尾だが、知的障害のない発達障がい者は現行のサービスに乗らないので利用できない。精神のサービスを利用しても合わない事がほとんどで、サービスとして成り立っていない。
◎理解者による見守りチームの継続的見守りにつきる
◎独りでは生活が難しい為、自治体や地域で生活支援の場を提供し、定期的に訪問して準備をしておく必要があると思う。

障害者自立支援法の改善点についてご意見や提言があればお書きください。

◇現行の障害者自立支援法の不備については、当事者側や支援者側から、すでに数多くの問題点が指摘されており、改善のためのポイントや、その方向性も整理され、提起がなされている。そのため、そうした視点からは今回の回答に特に目新しい意見はないように思われる。そこで、それらの意見の中で、特に大切な視点と思われた意見を「~~~」以下にピックアップして列記してみた。

◇言うまでもなく、より良き支援システムを構築するためには、ハード(制度・財政)&ソフト(優れた支援者)両面の充実が急務である。以下の文章は、別途まとめたニュージーランドに関する取り組みの最後に書き述べた文章である。ここで私が強調したかったのは、わが国においてもニュージーランドで機能しているような権利擁護に関する包括的な差別防止法である「人権法・1993年(Human Rights Act,1993)」や、国家として施設解体・閉鎖による地域生活支援方策を明確に打ち出した「ディスアビリティ方策,2001年(New Zealand Disability Strategy,2001)」等の法的整備の充実を図る必要がある、といった点である。

インクルーシヴ社会構築のためには、単なる福祉支援システムの改編作業のみをもってしては何ら根源的な解決策とはなり得ない。なぜなら、それは社会のあらゆる側面と密接にリンクしている問題であるからである。さらには、これは私自身の揺るぎなき確信でもあるが、インクルーシヴ社会構築の前提として、人間を表面的(外面的)な能力をもって価値づけようとする価値観ではなく、「その存在そのものに対して絶対的な価値を見いだそう」とする人間観の保有こそが必要である、ということである。そして個々人の相違性や特性の相互受容に基づくホリスティック社会の形成こそがインクルーシヴ社会構築にとって必要不可欠なのである。しかし人間の叡知に依存したかたちでの社会変革には自ずと一定の限界があることを冷静に認識すべき必要があるがゆえに、そうした人間的叡知に可能な限りの信頼を置きつつも、国家によるところの明確なる差別防止法の制定、および成熟した人権意識の醸成に基づく権利擁護活動の効果的展開こそが必要不可欠なのである。

◇以下、回答からピックアップした意見を列記してみたい。


◎1・本当に障害者が自立した生活をおくる事ができる方法を支援して欲しい。2・就労などといわれてもそれ以前の事業所へ通えていない方々への支援(電話や訪問で手一杯の支援、アプローチをしている)ことへの理解が何一つ報われない。 3・管理者とサービス管理責任者を兼務し、現場にタッチしないといわれても、職員の休暇等確保のためには、また、工賃倍増計画のためにも仕事を次々取るしかなく、現場に入ることが多く余裕が少しもない。支援者側の支援も考えて欲しい。
◎そもそも、就労継続については働く場になぜサービス費を払わなければいけないのか、利用者にとっては複雑である。事業所の収入を確保すればいいのでは。
◎精神科病院等へ通院していなく、障害者手帳を保持していない高次機能障害者や発達障害者の訓練等給付費サービスの利用。
◎知的障害を伴わない発達障害者が使えない制度が多い。他にはたくさんありすぎてかけない。
◎中軽度障害者にとって非常に利用しずらく、運営・経営面も中軽度の人を預かると施設が成り立たない
◎人的・物的資源の不足。特にヘルパーの確保対策を早急に講じないと、地域生活が成り立っていかない。
◎日割り制度は職員の報酬の日割りにつながり、専門性の欠如を生みかねない。教育・福祉・医療への成果主義の導入は見直すべきである。
◎工賃を頂きながら一部負担金を支払うことは「労働」の観点からすると矛盾があるように思われます。また、就労移行支援として優秀な利用者を外部に出すことは施設の損失に繋がる仕組みとなっているため、本人・家族・経営者が消極的になっている原因となっています。作業所による立場をもっと明確にし、建前だけでない理念に基づいた運営がしやすいようにしてください。そして、障害者と呼ばれる人々が地域の中で当たり前のように暮らせる世の中になるような法律にしていただければと願っています。
◎発達障害者も対象にすべき。診断を受けるまで苦しみ、障害者の枠組みにも入れてもらえないことで、当事者が苦しんでいる。所得保障。支援の担い手を増やすこと、専門家の支援が必要。
◎運営法人の財務圧迫による、従業者の賃金低下による支援者離れが進んでいる。この状態が続けば、近い将来(5年以内に)、障がい者福祉サービスは、必ず崩壊する。
◎障害者の福祉を高齢者福祉と違うものとして認識し、発達障害や軽度への支援も重度の方への支援にも匹敵して難しいことを勘案していただいて、障害の軽重で報酬に差をつけるなどという間違いを繰り返さないでいただきたい。また、所得保障がまだまだ充分でない障害者の方に社会の責任で行うべき福祉サービスの自己負担を強いるなどいう、苛烈な施策は早く改めてもらいたいと思います。
◎コミュニケーションに配慮が必要な発達障がいを受け入れるには、その人員を評価した報酬単価の設定が必要です。また、発達障がいに関するワーキンググループを地域自立支援協議会で設け、支援ノウハウの蓄積・共有を行い必要があると思います。
◎発達障害支援についても社会モデルの枠組みに入るように制度を改善してほしい
◎(1)障害程度区分によるサービス選択自己決定権の阻害(サービスの選択は適切なケアマネジメントに基づくべきである)。(2)障害程度区分判定の仕組みが知的障がい者の特性を反映するものになっていない。(3)サービス報酬単価の低さ、良質な人材の確保・維持・育成の困難さ、日額制による経営基盤の脆弱さ。標準利用期間の撤廃(就労移行支援、自立訓練(生活訓練)等)。出来高報酬撤廃(人員の確保が困難)。
◎現在の報酬単価での運営では、専門職としてのエキスパートを確保することができず、支援の質が低下する。障害者が個人の尊厳を持って人間らしく生活するためには、障害特性等を理解し支援できる支援者が絶対に必要であると考えます。
◎定期的に変更がありすぎる。職員間の理解も追いつかない状況になる。変更がありすぎる上に、複雑な仕組みの法律を当事者が理解できると思えない。いつになったら落ち着くのだろうか。


◇次に、「聞き取り調査報告書」の中から、私が注視した事項をピックアップし、若干のコメントを加えてみたい。

北海道26(月とライオン)

◇報告の中に「親なんてどうなってもいい。親は親で野垂れ死にしてもいい。自分のことだけ考えろ、といっている。」との記述があるが、これは言い過ぎのように思われる。なぜなら、他人である支援スタッフが、当事者側に対して表現してよい限界や、その範囲を超えていると思われるからである。たしかに「それほどまでに親身になって関わり、実践に取り組んでいるがゆえの発言である」と好意的に解釈もできるかもしれないが、支援サービスのプロとしては、あまりにもストレートな言い方であり、踏み込みすぎである。プロは良い意味でクールであるべきと私は考えている。

北海道28(ふみだす)

◇「サービス管理責任者の存在意義は非常に高い。」と記されているが、まさにその通りである。換言すると「有能なるケアマネージャーの存在」ということである。つまりは「ハードよりもソフト(人的資源)」である。

岩手県2(まめ工房緑の郷)

◇「小手先の支援ではなく、一緒にやることで自ら気づくように支援している」といった点が評価できる。支援者は、常に利用当事者と共に歩む、といった姿勢が、そこに如実に感じ取れるからである。

茨城県4(ユーアイキッチン)

◇「個別支援計画の目標が無茶であっても課題を下げずにレベルを下げることで支援をしている」といった視点が評価できる。理由は、そこに「当事者本人による自己選択・決定」の視点があるからである。

千葉県5(ほっとハート)

◇「個人の力量に依存してはならない」という視点は、とても重要である。

千葉県8(畑町ガーデン)

◇「シェルター機能としての施設は必要」との記述が出ているが、これは注視に値する視点である。事実、ネグレクトや虐待を受けてきた子どもの増加が著しい今日の乳児院や児童養護施設などが、まさにシェルターとして機能しているからである。

東京都7(白百合福祉作業所)

◇「三障害は一緒になり得ない」との記述がみられたが、確かにそうした側面があることは事実である。しかし障害者自立支援法により、福祉支援サービスの対象として、それまでマイナー的な位置づけであった精神保健福祉支援分野における当事者支援が明確に福祉支援サービスの対象分野として位置付いてきたことも確かである。それゆえ、制度に振り回されることなく、最大限に制度を活用することも必要であろう。そこが現場実践者の「知恵」であろう。

神奈川県8(ほのぼの)

◇「利用者を戦力にしてはいけない」とのコメントは、その通りである。現場実践者が心すべき視点である。

神奈川県11(NPO法人PWL)

◇これまでの熱心な取り組みには敬意を表するが、自らの実践に対して自信過剰気味である点が、やや気になる。

福井県3(就労支援センターすだち)

◇ここで「キーパーソンとの信頼関係」の効果について書かれているが、その通りだと思う。

愛知県8(港区支援センター)

◇「営業マンを3名配置している」といった取り組みに注視した。福祉支援サービスの観点から、まさに必要な人員配置である。

愛知県10(しぜんかん)

◇「地域を信頼すれば地域は応えてくれる」との考えが、実に素晴らしい。

和歌山県1(くじら共同作業所)

◇知的制約者と聴覚制約者との相互交流が、とても良い。お互いのストレングスを認め合い、発揮し合って、エンパワメントしてゆけば、さらに良い結果が得られるであろう。

大分県4(キッチン花亭)

◇「民間のスタッフ」という表現であるが、おそらくは福祉系専門職ではないがゆえの斬新なる視点、といった意味であろう。確かにユニークな実践を展開している支援施設の多くでは、福祉系分野の出身者が少ない、といった傾向があることは事実である。とりわけ社会福祉士制度が定着して以降、こうした特徴ある支援スタッフや活動実践の展開ケースが少なくなってきたように感じられる。それゆえ、むろんのこと社会福祉士の有資格者は必要不可欠ではあるが、それに加えて福祉専門分野以外からのスタッフ参入も必要であろう。

宮崎県2(すてっぷ)

◇「アニマルセラピー」の観点からも、動物園との業務提携により、園内清掃業務に関わっている点が効果的と思われる。

熊本県4(サポートセンターめいとく)

◇「受容型の支援を受けてきた人は自立できない。」との表現が気になった。なぜなら受容そのものは支援者にとって必要な視点だからである。たしかに、これが単なる「甘やかし」であるならば、そこから依存的な意識が醸成されてしまう、といった危険性を有するであろう。しかし「受容」と「甘やかし」とは異なる。ここで改めてロジャーズやバイスティックの支援理論を持ち出すまでもなく、「受容と傾聴」は時代を超えた支援の基礎である。

ロジャーズの3原則
  1. 自己一致・・・カウンセラーは誠実で正直であること。
  2. 無条件の肯定的配慮と受容・・・相手を、無批判的に、あるがままに受け容れること。
  3. 共感的理解・・・相手の見方や感じ方を、その人の身になって感じ、考えること。
バイスティックの7原則
  1. 個別化・・・利用者が有する問題を個別のものとしてとらえる。
  2. 意図的な感情表出・・・利用者自身の感情を自由に表現できるように支援する。
  3. 統御された情緒関与・・・支援者自身の感情を適切に制御しつつ、支援目的に沿った利用者への共感的理解を持つ。
  4. 受容・・・利用者の考え・態度をあるがままに受け容れる。
  5. 非審判的態度・・・利用者へ対して支援者自身の価値観を押しつけたり、批判したりはしない。
  6. 自己決定・・・利用者自らの意思で決定できるように支援する。利用者の意思と、内在的な力を信頼しながら支援する。
  7. 秘密保持・・・職務上知り得た利用者の個人情報を、利用者の同意を経ないままで勝手に公開してはならない。
佐賀県3(ぷらっとさが)

◇「地域の中で隠れたところで支援してくれる人がいるはず。」といった考えに同意する。これは、いわゆる「人的社会資源」に相当するからである。私なりの表現を許してもらえるならば、「当事者たちが、胸を張って地域の人びとに迷惑を掛けながら生きる」ということでもある。これで良いのだ、そう私は信じているからである。このことについては、青森県弘前市にある社会福祉法人・抱民舎の取り組みが参考となるであろう。(http://aun.shafuku.com/

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